きみとは友達にさへなれない(統合)

あきすと

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⑱捕

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彼の発する言葉に理解が追い付かないのは、よくある事だ。
でも、今のはあまりにも自分の許容範囲を超えている気がして
何も言えずにいた。

『きっと、理解されにくいだろうけど。きみと僕とでの思いと言うのは
方向性が違うと思う。』

冷静な言葉も投げかけられるから、余計に困惑する。
彼は俺を家にまで送るとして、また話をする機会をここで失う。
本当にこのまま、また解らないままもやもやとした気持ちで居る事が
良いとは到底思えなかった。

「やっぱり、もう少し…じゃ足りないから遠江さんと話がしたい。」
『…少しでは分からないと思うよ。』

柔和な笑みを浮かべながら、様子をうかがう視線が今の自分には
ただただ堪える。

子供の頃から羞恥心をなぜか感じやすい性質ではある。
他からの影響を受けやすい。
だから、過度に人とは深く関わらなかった。

どうして自分がこんな気持ちになるのか、分からない。
まるで、相手の感情をそのまま移したみたいになってしまう。

「知りたいって思いながらも、知るのが怖くて…でも、遠くに行かれると」
『面白くないんだよね。…随分と自分勝手じゃない?』
「……確かに。」

遠江さんではなくて、1人の人間としての話をしたいだなんて
こんな気持ちになった事はないのに。
『きみは、何をそんなに頑なになって…守りたいの?』
「守りたい…?」

いまいちピンとは来なかった。
自覚も無ければ、言葉は素通りしていく。

『ただ根だけを張って成長を止めた植物みたい。』
「遠江さんの言葉って、俺には現実的じゃない。」
『…帰るの、帰らないの?僕はどちらにでも応じれるんだけど。』

選択肢が2つしか無い様に思える。
先読みをして、あれこれ考えてしまう。
「明日、は講義ありますけど。」
『きみね~…何のつもり?』

軽いため息が聞こえて、自分は何かおかしな事を言ってしまったのかと
背中が冷たく感じた。

「ぇ…だって…」
『先の事ばっかり考えてる?…もう、ちゃんと解る様に話すから。僕が話しきるまで
きみは質問禁止にしよう。』

その前に、ダイニングテーブルの上を片し始める彼を手伝う。
気まずいけれど、ここから逃げるのはなんだか違う気がして。
彼の背中のラインを見て、変に心が騒ぐ理由も思い浮かばないまま。

すっかり綺麗に拭き上げられた、テーブルの上。
会する様に席に着いて、また少し緊張する。

何を言われるのだろう。
さっきの様な抽象的な表現だと、今の自分には難解過ぎて
受け取り方に苦心してしまう。

『こんな歳で、告白じみた事するとは思わなかった。手、こっちに出して。』
身を前のめりにする彼に、言われるがまま両手を差し出した。
『フフッ、この時点できみの心が…少しは僕に向いている事が分かるよ。』
「そうなんですか?」
『あ、質問禁止…。だって、僕は両手とは言っていないんだから。』

言われてみれば、確かに。
意外と鋭い指摘をされて、自分の無意識の行動にも
相手への想いを実感できる事を教えられた気がする。

彼は俺の片手をすんなりと受け、そっと両手で自分の頬へと持って行き。
「…ぁ…」
『手があったかいね。ぞくぞくする。』
「遠江さんの耳、冷たい…。」
『耳は、冷たいものだよ。きみのあたたかさで溶けていくみたい。』

そっと目をつむる彼が神秘的にさえ見えて来る。
ずっと見ていたい光景なのに、自分だからなぁと
ヘンな冷静さが邪魔をする。

『きみとは、きみが記憶に無い頃から確かに何か惹かれる部分があって。やっと精神に
肉体としての年齢が追い付いた気がする。僕にはきみが子供の頃から、大人の様に思えていた。
やっと本来の姿を得たと思うから。』
「…はい…。」
『ただ、すきなんだよ。』

「ありがとうございます…。」
『うん。』
「恥ずかしいんですけど。」
『言葉じゃ足りないよ、こんな想いは』

ゆっくりと瞳が開かれ、睫毛の繊細な弧の描き方にさえ見入ってしまう。
造形が綺麗、と言うに相応しいと思う。

「俺も、言った方が良いですか?」
『どちらでも。言葉に頼らなくてももう、平気じゃない?』
「回りくどいのは苦手なので。ただ漠然と気になると言うか。あー時々無性に声を聞きたくなって。
好きなんだと思います。」
『眼も逸らさないで言えるなんて、やっぱりきみの方がとても大胆だよね。』
「だって、伝えたいのは遠江さんだから。それに…」
『……そう言えばさ、たまに僕の名前ちゃんと呼んだり呼ばなかったりは何で?』

急にドキッとする事を聞いて来る。
「意味は無いですよ。うっかり下の名前で呼んでしまうだけで…」
『じゃ、きみはこれからずっと。うっかりし続ける事になるんだね。』
「えぇ…さすがにそれは。」

名残惜し気にゆっくりと俺の手を下ろして、自らの手をおさめると
『今日、泊って行かない?』
と切り出された。
「…そうですね。じゃ一応家に連絡は入れさせてください。じーちゃん心配するかもしれないので。」
『スマホ、使ってくれていいよ。一応さっきそれらしい事は伝えちゃったんだけどね。』

彼の言葉を噛み砕いて思い返す。
そう言えば、祖父に聞きだしてまで迎えに来てくれたのだった。

「はぁ~…。そうでしたね。」
『もう大人だから、そこはきみに任せるって言っては居たよ。』
「一気に気が抜けますね。」

このままテーブルの上に、突っ伏してしまいたい所だった。

『ごめんね~根回しが早くて。』
「気にしないでください。…はぁ、」
『でも、都合がいいね。着替えも荷物の中にあるんでしょ?』
「俺より先に行動把握してますね…。」

こんなにも目の前で、笑顔を見せられて。
靡かない人間はきっと居ないと思う。
危ういバランスで出来ているとばかり思っていたけれど
案外、心根はしっかりとしているのかもしれない。

『雪っちゃんってさ、本ばっかり読んでるでしょ?』
「まぁ、そうですね。本は好きです。」
『想像力豊かなんだよね~』
「どうなんでしょう?でも、読書は確かに没入が楽しいですよ。」
『僕もそうだから、何となく分かる気がする。』

何か言いたげに頬杖をついて、眼を細める仕草も
同性でありながらやっぱり魅力を感じる。

『脳、だよね。すごく感受性が豊かなんだろうなぁ。』
「意識した事無かったです。…脳、かぁ。」
『雪ちゃんは、やっぱり僕の人生を変える存在だね。』

不意に言われた言葉が、妙に心に引っかかった。

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