きみとは友達にさへなれない(統合)

あきすと

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境界の無い海で揺蕩う

③暗闇の中の光

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テイ―カップに浮かぶ薄切りの林檎を、見ていた。
『乾燥させた林檎を、紅茶と一緒に』
「海月さんて、やっぱりどこか…浮世離れしてる。」
『…そうかな?』

部屋のインテリアにしても、あまり現実味が無い。
クッションがいくつもあって目につく所と言えば…。
「生活感が無いせいかも。」

一緒に暮らし始めて、俺は大学が始まってそろそろ卒業や就活に向けて
動き出せる時期を迎えている。

海月さんは、相変わらず毎日が忙しそうで。
時間の許す限りではあるけれども、家事などは積極的に行う様にしている。

恋人として共にできる時間は、格段に前よりは増えたけれど。
海月さんのの生活を見ていると、目まぐるしくて。
時々、ソファで寝落ちていたり煮詰まった雰囲気を察すると
もっと自分を頼って欲しい。

と思う程までに、俺は海月さんに心を傾けている事を自覚する。

部屋はもちろん別々だけれど
『寂しくなったら、…それじゃ遅いか。寂しくなる少し前にコッチに来ても良いんだよ。』
と言われていたりもする。

この言葉を、どこまで真に受けて良いのか分からなくて。
まだ、海月さんの寝室には自分から行った事が無い。


『生活感かぁ…これでもかってくらいには生活を営んでいるつもりだけど。』
「フワフワしてる。」
『単純に、きみが整理整頓から掃除までしてくれてるお陰だよね。』
綺麗な笑顔が返って来て、俺は言葉を継げなくて
紅茶を飲む事にした。

端正な顔立ち、表情は柔和で瞳がとても印象的な海月さん。
今でも、何故この人が自分に固執していたのか。
きっと、本人から説明されたとしても自分では理解できないだろう。

「そう言えば、まだ禁煙中ですか?」
『時々、吸っているけど。でも、前よりは全然。』
「でも、あんまり我慢しなくて大丈夫ですからね。」
『…ありがとう。でもね、僕の依存先がきっと煙草から違う方に移ったから。
今しばらくは無くても良いんだと思う。』

ちら、と海月さんの視線を感じるとティーカップをソーサーに静かに戻した。

海月さんの視線は、ドキドキする。
海に浮かぶ月を映したような、気持ちが心が波立つ。
「あんまり、コッチ見ないでください。」
『え…、どうして?』
「ほんと、無自覚な人って厄介。」
『ずーっと見て居たいくらいなのに。きみって、不意に酷い事を言うよね。』

酷い、のはどっちだろうと思う。

だってこの世界の大半は目から情報を得て、認知し世界を投影しているってのに。
目は、その人の世界そのもにだと言っても大げさではない気がする。

「頭が、いや…心が?どうにかなりそうなので。」
『…狂いそうなんだね。分かるよ、だって、僕は…まだ子供のきみに狂わされた側だからね。』
「それは、海月さんの…勘違いでしょう?」
『いいや、勘違いじゃない。きみは子供の頃から、歳の割には収まり切らない精神性に自分でも
気が付いていただろうし。苦しんでいる様に見えたよ。』

心を掠めていく海月さんの言葉は、どこか『救済』にも感じる。

「でも、中らずといえども遠からず。」
『どうしてだろうね、きみに気づいて欲しかった。古書店と言う智の海で
溺れかけているきみを、僕はどうにかして引き上げたかった。』

知人と言うにはよそよそしく、友達と言うには近くて。
海月さんと俺が選んだ在り方は、きっと周りから見れば理解不能だろうと思う。

「溺れてたなんて、思いもしなかった。」
『きみは、泳げてはいなかったよ。残念ながらね。』
「…海月さんて、こういう言葉でイチャイチャするの好きですよね。」
『~きみだって。』
「しつこい性格が出てます。」
『他には、しつこくしないんだけどなぁ。』

2人で居る時は、うんと話すし。
距離だってこれ以上詰めようがない程、重なる。
なのに、重さが無い海月さん。

やっぱりこの人は、海面を漂う海月なんだ。
気が付いたら柔らかい触手と刺胞にからめとられ、刺されて身動きが
取れなくなっていく。

見惚れている自分がいけないのに。

「やってる事も、海月さんって…クラゲみたいですよ。」
『そんな器用じゃないよ。きみとちゃんと向き合えるまでかかった年月がそれを物語ってる。』
「こんなにも、柔らかそうな雰囲気なのに…。」
『どうかした?さっきからあんまり会話が嚙み合ってないみたいだけど。』

目の前の彼氏(顔面良すぎ)を見てるだけで心がくすぐったい。
「どっか、連れてって。海月さん。」
テーブルに突っ伏して、椅子に座っている足をフラフラと前後に振るう。
『どっかに行くと、きみと距離ができるね。』
「あ~…そうだけど…」
『いじいじして、珍しいね?ストレス溜まってる?やっと僕の方は落ち着いたけど。今度は、
雪緒の方が忙しそうだからね。…良いよ、どこでも連れて行ってあげるから。言ってごらん?』

「海月さんと出歩くと、視線がうるさいんだよネ…。あ、もちろん他の人のって事だよ。」
『見てくる?そんなに?僕は雪緒のことばっかり考えてるから、あんまり気にならないかな。』

言葉でイチャイチャするのは確かに楽しいけど。
かと言って、海月さんと出歩くと気が気じゃない。
「ドライブ、連れてってくれる?」
『…勿論。喜んで。プラネタリウム・水族館・ドライブは断らないよ。あ、雪緒の申し出なら尚更ね。』
「ロマンチストだなぁ…。多分、俺が冷めてるからなのかな。」
『外、結構風が冷たいから。羽織るもの持って行こっか。』

夕方過ぎ、俺は海月さんと共に駐車場に下りて車に乗り込んだ。
暮れゆく空を、助手席で見つめながら海月さんの車内の匂いに
懐かしさを覚える。

緊張したり、先まわって考えては落ち込んだりしていた頃とは
見える景色の感じ方も、匂いでさえもイメージが変わるものだ。

「海月さんは、何してても良くも悪くも海月さんが出てるよね。」
運転中に過度に話しかけない様に、気を付けながら。
『…僕、けなされてる?』
苦笑いがちらっとのぞけた。

「うーん、75%の誉め言葉だけど。」
『僕も雪緒には、同じ風に思うよ。いつでも、雪緒は雪緒らしい。』
「ぅわ、確かに微妙。」
『海は、行くにはちょっともう肌寒いかな?』
「海月さんが、行きたいなら…どこでも。」
『雪緒が風邪引くと大変だから、行かない。』
「ほら、過保護。」
『そうなるでしょ?僕はきみに……。』

妙な沈黙が、気まずい。海月さんは運転に集中していると
無口になる。なので、こういう時は俺も口を開かずに居た。
でも、その内寝てしまう事が何度もあったけど。

寝てしまってから、海月さんに起こされる瞬間は結構好きである。

海月さんの瞳の奥底を覗ける気がして、思わずうっとりする。

今日も、空調が程良くてまたシートに身を預けて寝てしまうかもしれない。
と、思っていたら。

信号待ちで、俺の右手に海月さんが指を絡めて来た。
『寝ちゃいそうなのに、ごめん。指がきみを恋しがって…』
聞いた事無いけど、見た事はある様な言葉。

「海月さん、結構寂しがり屋だもんね…。」

車が停車したのは、大きな駐車場だった。
『海より、こっちの方が良いかなって。』
俺は座ったままで辺りを見回した。

キラキラと電飾が夜の闇に瞬いている。
「遊園地…?」
『と言っても、あと2時間ぐらいしか居られないけどね。』
「全然、良い!え~…マジで?すごい。遊園地なんて遠足でしか来た事無くって。」
『時間的には空いてるけど、やっぱり寒いからコートは要りそうだね。』
「…行こう、海月さん!俺、観覧車に乗りたい。」
『……』
車から降りて、運転席にまわり海月さんが降りるのを待っていると
『こんなに、はしゃぐ雪緒…初めて見た。』
くすくす笑いながら海月さんが降りて来て、スマートキーで施錠をした。

「まだ、許されるかな?大学生だけど。」
『僕は、素直な反応が見れて嬉しいけど。』
「手…イイ?暗いからそんなに分かんないでしょ。」

おずおずと海月さんに手を差し出すと、温かい指先に手が包まれていく。
『僕は、バレても構わないけどね。』

2人でゲートに向かって歩いて行く。


【続】

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