きみとは友達にさへなれない(統合)

あきすと

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境界の無い海で揺蕩う

⑤手と手

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時間の流れが、ゆっくりと感じる。
非日常的な空間に、流れる風景と滲んだ電飾の背景。

同じ時間を過ごしながら、それぞれに違う世界を見つめている。
「お化け屋敷、結構怖かった。」
『静の怖さって奴だね。静かに怖いって…メンタルに重く来るよ。』
「そうそう、折角手繋いでたのにさ。怖がってる内にそれどころじゃなくなった。」

もう随分と大人になってから来る遊園地。
どんな感情で楽しむのかと思っていたけれど。
まさか、案外2人共楽しめてしまえるからココが魔法なんだろうなぁ。

『雪緒ってば、結構怖がりなんだね。』
「俺の場合は、神経過敏なんだと思うよ。」
『…の割には時々僕よりも豪胆だけどね。』

「観覧車が、やっぱり最後かぁ。」
『その前に…お腹空いてない?』

海月さんがジャケットの内ポケットからリーフレットを取り出して
立ち止まり広げて見せてくれた。
明かりの多い場所を選んで、見入る俺の横顔を見て来る。
「視線がすごい…」
『だってさ、今の雪緒の瞳の中がすごくキラキラしてて。』
「少女漫画じゃん。」
『正面から見るのも良いけど…横顔がまた、良いなぁって。』

聞いてるコッチが恥ずかしくなる。
俺は、海月さんの非現実的な趣向がそれ程嫌では無い。
これも、ある種の優しさであるとさえ思える。
「俺は、置いておいて。海月さんはお腹空いてるの?」
『食べたら、食べたかな。』

曖昧な、でも分かりやすい表現で思わず笑ってしまう。
「俺は、今このまま観覧車に乗って行くと途中でお腹が鳴りそう。」
『ぺこぺこって言うんだよ?ソレは。』

にこにこと笑いながら海月さんが、俺の髪を撫でた。
「かも。意識すると余計に…ぁ、ちょ…聞いちゃダメ…」
両手でお腹を押さえて、リーフレットを海月さんに渡す。
『いや、全然聞こえないから。安心しなよ。でもさぁ、人が捕食してる
姿って…何か本能的でその人が出るから。僕は興味あるんだよね。』

今、ソレ言う?と思う事をサラリと言ってくるのが海月さんらしい。
「めっちゃ、食べづらくなる事言うし。」
『ぁ、…ごめん。でも、あながち違ってないでしょ?』
「もー、だから。余計に、だよ。」

園内にある飲食店はほとんど、夕方には閉店してしまうので
軽食やホットスナックのお店を探して、その都度購入する形になる。
『軽く食べると、余計にお腹が空くよネ。』
「じゃ、帰りにどこか寄ってヨ。その時ちゃんと食べる。」
『そうだね、良いよ。僕も、ちゃんと行ってみたいお店があるから。きみを連れて行くよ。』

欲目無しに、本当に海月さんはとても素敵な人だと思う。
顔が、いや…顔も充分そうなんだけど。
やっぱりこの浮世離れした雰囲気だな。
相変わらず、何を考えているのか分からない。

観覧車はあまり乗客がいない。
やたらと煌々としたライトアップで、ものすごく目立つ。
小さな狭い空間に2人きりと言うシチュエーションには、少しだけ緊張を覚えかける。
だって、いかにもデートらしすぎる。

ゆっくりと観覧車の中に乗り込むと、タブレット端末が置いてあった。
この空間で写真を撮ったり動画を撮影したりと。
約20分弱で1周を周り終える。
高所恐怖症や閉所恐怖症にはかなりキツイ空間だろう。

海月さんは、腰を下ろして両手を俺に伸ばして来る。
「ぇ!?なに、なに…?」
『両手、かして』
「イタズラする時の目、してるけど。」
『そんな事しないよ~?ただ、ちょっと手だけ…ぎゅって、ね…』
「分かった、ハイ。」

両手を海月さんに預ける。
なんでこう、この人はお願いの仕方まできっと無意識に心得ているんだろうな。

海月さんの細長い指が爪の先まで端正で、決して強くない力で引き寄せられて。
普段はあまり出したくない心の部分が露呈しそうになる。

『指先、冷たいね…。』
確かめる様に遠慮がちな手のひらから、熱がじわりと伝わる。
人と人との間の体温が、こんなにも心地よく広がるなんて
少し前までは知りもしなかった。

「熱、コッチに来てる。海月さん…」
膝がぶつかりそうで、改めて観覧車の中の揺れと狭さを感じる。
『雪緒、登頂で…いいね?』
急に真面目な表情で視線を向けられると、頷くので精いっぱいだった。

夜景を見てるんじゃなくて。ただ、ぼーっと目の前の海月さんを見ている。
瞬きする度に、海月さんの背後がキラキラと瞬いて見えるから
俺もなかなか重症だと思う。

「海月さんて、年相応なのに…時々急に子供みたいに無邪気になるから不思議だよ。」
『まだ、大人には成りきれていないんだろうね。そんな僕は、イヤ?』

分かっているだろうに、聞いて来るのだから。
海月さんなりの甘え方が、心の底から愛おしい。

そろそろ一番、上を乗っている観覧車がゆっくりと通過する。

「ぁ…そこに…?」
少しだけ屈み込んだ海月さんは、多分かしずく素振りをした。
手の甲に唇を寄せる様は、とても美しいと素直に思えた。

『まだ、完全じゃない。』
「完全…?」
『きみの空腹を心身共に満たしてあげようね。』

さらっと、頬を海月さんの指先で撫で上げられた。

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