眠れない夜は檸檬の香り

あきすと

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つきあい。

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今日の予定は、全て終えたものの白島は夜になっても
私と時間を共にしてくれて、嬉しかった。
『帰るの、嫌になってきてます。』

異性でもなく、同性が寝室に入って来る何とも言えない
ソワソワが心を占めている。
「今の部屋に、風呂はあるのか?」
『ありませんね。近所に銭湯があるんで、通ってます。』
「そうか、うちは沸かせるけど…薪が無い」
『…ひとっ風呂、行きませんか?』

白島の誘いに乗るべきかわずかに考えては見たが
私は大きく頷いていた。
と言うことは?
「では、白島の家の近くと言うことか?」
『ここから歩いて、10分も掛からないですよ。』

思ったより近くに、越してきたのかと
意外に思いながら
「じゃ、案内してもらおうかな。」
着替えや、手ぬぐいの準備をした。
支度を済ませて玄関で靴を履いていると
白島の足元に目が行った。

「今じゃ、下駄も珍しい程だぞ」
『そうですか?楽でいいですけどね。』
「場所を選ぶらしい。運転も出来ないからな、自動車の」
『へー、この辺歩いてる位なら、こんなもんですよ。』
無頓着に、どうでもいいとでも言いたそうな白島は玄関戸を開けて
街灯の明かりを背に、私を待っている。

…すこぶる、好い男だと思う。
にしても、なんて柔らかい表情をするのだろう。
まるで、好物を前にした子供にも思えた。
好物…、自分で考えてハッとした。
「近々、出来なかった快気祝いを…改めてさせて欲しい。」
『あぁ、懐かしい。そうでしたね。俺、もうすっかり元通りになって…ホント、この
体は何しても必ず元通りになるから。』

夜の街を歩きながら、白島の横顔を時折見ながら、歩調を合わせていた。
治りに時間が掛かっていた左目も、綺麗に痕が残らず治癒しているらしく
私は安堵した。
「ホッとしたよ。もう、傷は完治して…疼いたりもしないのだろう?」
『ですね、何事もなかったみたいに。』

商店街を歩きながら、そろそろ店じまいに差し掛かる時間帯だろう。
人の行き交いはまばらだった。
旧庁舎を通り過ぎて、郵便局の前の通りに入る。
街並みが、少しずつ変わっていく。
新しい時代と共に変化していく事は、喜ばしい事なんだろうが
同時に、私は一抹の寂しさを感じていた。

「変わらないものを見ると、心のどこかで安心する。」
『…俺もですよ。それが、良いのか悪いのかは別として。』
白島は、引っ越した先の家の前にて足を止めて
「ちょっと待ってて貰えますか?」
『あぁ、構わない。』

今度は、一軒家かと思ったが。どうやら違う様子だった。
家の奥の方に灯りが見える。
ここも、下宿だろうか?
ちゃんと、玄関灯が点いている。
「同居人…?」
まさか、と思いたかった。
白島を完全に信用していると、言えただろうか?
自分でも分からないままで帰国して、
深くは考えないようにしていた。

「…白島、」
5分ほどで、白島は外で待つ私の元へと来た。
『すいません、待たせて』
「他にも、誰か住んでるのか?」
白島は、不思議そうな顔をして
『電気、点けたままだったからですか?』
「そうだ。」
白島は、どことなく言葉に困った顔をして
『俺の事、ホントに信用してませんよね?』
心外だとでも言いたげに漏らす。
「まぁ、致し方ないだろう?なぜ、白島を放っておくのか。女性に、縁が無いわけが無い。」

どこから見ても、悔しいけれど…
白島安芸は、惹きつけられてしまう。
認めざるを得ない。
『喜んでいいのかも微妙ですね~。でも、本当に…俺はずっとアンタを待ってるだけの日々でしたよ。』

銭湯は、白島の家の目と鼻の先にあった。
本当に近くて、拍子抜けした。
「私ばっかり…、想っているのかと」
いけない、鼻の奥がツンとしてきた。今にも泣いてしまいそうな感情が
ジワリとにじむ。

『泣くには、まだ早いですよ。』
暖簾をくぐる前に、白島は私の頭を軽く撫でた。
「……」
うん…?今まであまり考えたことも無かったが、確かに今までは部下や同僚とも
よく風呂などは一緒に入ってきたが。

何故だろう、こんな瀬戸際で…今更?
気恥ずかしくなってきたのだが。
ありえない。
肌を見せることに、初めて抵抗が生まれた。
気付くのが、遅すぎだろう!私…。
白島は、番台さんと親しげに話している。
この隙に、手早く着替えてサッサと浴室に行ってしまおうか。

籐編みのカゴに脱いだ服をたたんで入れ、手ぬぐいを携えて
浴室のドアを開けた。
湯気に包まれた空間、視界がゆっくりと白くなって行く気がした。

『アンタ、石鹸も何も持ってないだろ』
「…そういえば。買ってこようにも」
白島に腕を引かれながら、浴室の床を歩く。
『これだから、令息は…。』
途中、足を滑らせかけて、ヒヤッとしていると
「…びっくりした。」
『悪い。…あんまりのんびりしてるから』
入浴は、魂の洗濯とも言うものだろうに。こちらは、船旅で、まだ体が疲れているというのに。

「いや、でもせっかく帰って来たばかりだ。少しは、風呂でゆっくりとしたい。」
屈んでかけ湯をしながら、白島を見上げた。
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