過負荷

硯羽未

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第13話 軌道修正

13-2

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 お湯の張られていない浴槽に体を丸めて座り込み、頭上から降り注ぐ熱いシャワーに打たれる。栓をした浴槽には徐々にお湯がたまり、冷えた体が沈んでゆく。
(なんなんだこれは……)
 怯えているのか、自分は。
 竜司にされたことが、そんなにショックだったのか。壱流は自問してみる。
 途中までは、竜司がしたいなら仕方ないと思うことも出来た。しかし実際最後までされてしまった今になって、ひどく動揺している。

 ぽたぽたと黒髪から落ちる雫が、頬を伝った。まるで涙のようだと思った。現に泣きたい気分だったが、不思議と涙は出なかった。
 単調なシャワーの音は、心地良い。
 落ち着く。
 凍えていた体が、ほどけてゆく感じがする。
 静かに目を瞑った。

(落ち着け……俺)
 なんでもない、こんなこと。
 竜司が味わった痛みに比べたら、どうってことない。ちょっと慣れないことをされただけで、こんなの単なるスポーツの一種だと思えば良い。

(体使わせてやっただけじゃん……)
 それだけだ。
 どうしても嫌なら抵抗出来たはずだ。それをしなかったのは、受け入れたということだ。現状を受け入れろ。
(そうだろう?)
 胸の下辺りまでたまってきた温かいお湯に浸かりながら、壱流は自分の思考回路を無理矢理軌道修正する。

 ゆっくりと目を開ける。
 何も怯える必要はない。
 竜司のことは好きだ。友達だからって、寝ていけないことはない。自分を可愛いと、抱きたいと思うなら、そうすれば良い。受け入れてやるのはけして難しいことではない。
(そうだろうか?)
「……難しく、ない」
 膝を抱えていた腕を解き、お湯の中で脚を伸ばす。
 強張っていた手が、温かさにほぐれてきた。
 お湯が浴槽の外に溢れ出しても、壱流はしばらく降り注ぐシャワーの単調な感覚に身を委ねた。

「歌いたいな……」
 ぽつんと言った声が、浴室に響いた。
 しばらく、歌っていなかった。
 ぽちゃんと顔の半分までお湯に沈み、また目を瞑った。
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