過負荷

硯羽未

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第23話 記憶のかけら

23-3

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『──あんま、プレッシャーとか感じなくていいと思うんだ。別に壱流の恋人になってやろうとか、思わなくていい。だけど……そうだなあ、単純にセフレってのとも微妙に違う。よくわかんねんだけど、まあ、やってみたところで、そう悪い変化は起きない。むしろ好転する気がする。どうだろうか、俺よ』

 どうと言われてもな。
 俺は正直困惑して、眉間に深くしわを寄せた。壱流と寝てみるったって、体が反応するかどうか自信がない。覚えている限り男としたことなんてないし、したいと思ったこともない。ましてや壱流は友達だ。

『あいつが言うには、』

 俺の考えを見抜いているのか、『俺』が付け加えた。

『壱流をあんな体にしたのは、どうも竜司Bの仕業らしい。壱流は多分、男は俺しか知らない。あいつは結構プライドが高い。体が疼くからってあっさり他の男を見繕える奴じゃない。二度目の俺がオリジナルだった時、壱流はそれなりに嬉しかったみたいだけど、体の方はもう俺なしじゃ駄目なくらいになってて、……それでも三度目のBが現れるまでは、そういうのはなかったみたいだぜ?』

 画面の中の『俺』は、ちょっと困ったように笑んだ。
 何が言いたい。
 壱流を抱いてみろってか。

『あいつが辛いのは、見ててこっちが辛い』

 血を流すのは見たくない。
 考えてもみろ。
 一度そういう体にされてしまった壱流が、リセットされた状態の俺と、怪我する以前のように純粋な友達として付き合うことの不自然さ。抱かれるのが当たり前になってきていたのに、急にそれがなくなる。それでも無理して元の関係に戻ろうと努力しただろうに、努力が報われた頃再びBが現れる。

 映像の『俺』が言っているのか、現在の俺が思っているのかわからなくなってきた。映像の中の『俺』は俺とほぼ同一だ。わからなくなっても無理はない。
 その時壱流の感情はどう動くだろう。
 結構あいつは努力をするタイプだ。自分の感情も、努力でなんとかしてきたんだろうと思う。けれど頑張っても頑張っても、不意に現れる違う俺に翻弄される。

 不毛さに眩暈がしてくる。
 俺が壱流の立場だったら、嫌すぎる。
 いつの間にか映像が止まっていた。
 次のファイルを開けるのが億劫になって、俺はディスクを落語のケースに戻し、パソコンの電源を落とした。
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