転生したらただの女の子、かと思ったら最強の魔物使いだったらしいです〜しゃべるうさぎと始める異世界魔物使いファンタジー〜

上村 俊貴

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第5巻第2章 マルコスの居城

過去の世界へ

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 マヤの視界が完全に闇に覆われてまもなく、マヤの目に一面の緑が飛び込んできた。

 それと同時に、マヤは全身に浮遊感を感じた。

「へ? これって……!?」

 マヤの視界を緑に染めている眼下の森から目を上げると、マヤの目の前には遮るもののない青空が広がっていた。

「なんでこんなところに送ったかなああああああ!?」

 そう、マヤは巨大な森の、その遥か上空に転送されていた。

 つまり、今のマヤは絶賛落下中だった。

「落ち着けー、落ち着けー。なんとかなるなんとかなる、というかなんとかしないと死ぬぞ、私」

 マヤはひとまず自身への強化魔法を最大にする。

 瞬間、思考速度が上がり、考える時間を得たマヤは、きょろきょろと眼下の森を観察する。

(まず開けた場所があればそっちの方がいいかな? 今の私なら直接着地できるかもだし)

 マヤは開けた場所を探すが、残念ながら眼下の森はどこもかしこも木で覆われており、地面が見えるようなところはなかった。

(だめか……それならそうだなあ……池とか湖とか川とか……ないよねー、あったらさっき目についてるはずだし……)

 マヤは仕方ないので木の上に落下するプランを検討することにした。

(木の上しかないのかあ……枝に串刺しになったりしないよね?)

 よくあるグロ表現のように、お腹から刺さった太い木の枝が背中から突き出している様子を想像してマヤは身震いする。

(何もせずに木の上に落ちるのはなしだね。そうなると、斬るしかないか)

 マヤはゆっくりと腰から下げた剣に手をかける。

(私に刺さりそうな枝があったら斬り飛ばす、そしてできれば木の幹に剣を突き刺して落下の勢いを殺す。これで行こう)

 マヤは思考速度を落とすと、可能な限り四肢を広げて空気の抵抗を大きくしながら落下を続ける。

 まもなく、マヤの目の前にひときわ大きな木が現れた。

「ほっ! それっ! もういっちょっ!」

 マヤはそのまま大樹に突っ込むと、身体が触れる直前、目についた上向きの枝を全て斬り落とす。

 間の抜けた掛け声とは裏腹に、一瞬のうちに幾度も繰り出されたマヤの剣戟によって、マヤに刺さりそうな枝は全て斬り落とされた。

 マヤの腰ほどの太さの枝まで一刀のもとに斬り飛ばすマヤの剣技は見事なものだった。

 1年間だけだったとはいえ剣神デリックの教えを受けただけのことはある。

「それっ!」

 マヤはそのまま剣を木の幹に突き刺すと、落下の勢いを殺していく。

 幸いなことに、マヤの足が地面につく頃には落下の勢いは完全に死んでいた。

「いやー、よかったよかった。この木には可愛そうなことしちゃったけど……」

 最終的に上部の太い枝ほとんどを斬り落とされ、幹を縦に真っ二つにされた気を見ながら、マヤは苦笑する。

「さて、それじゃあさっそくオーガを探しに行こうかな~。シロちゃん」

 マヤはいつものように腕輪を掲げると、シロちゃんを呼び出そうとした。

 したのだが……。

「あれ? どうしたんだろう? おーい、シロちゃーん?」

 マヤはぶんぶんと腕を振ってシロちゃんを呼び続けるが、全く反応がなかった。

「あっ! そうか、そういうことか……この腕輪ってオリガの運籠キャリーと繋がってるんだっけ?」

 マヤは以前、オリガと結界で隔てられた時にも同じように魔物を呼び出せなくなったことを思い出した。

 マルコスの言葉を信じるなら、今のマヤは過去の世界にいるはずなので、当然だがオリガと同じ空間にいるわけがない。

「はあ、それじゃあ自分で歩くしかないのかあ。どこかで適当な魔物捕まえないとなあ」

 時間の心配はしなくていいとはいえ、少なくともマヤが乗れるくらい大きな魔物に出くわすまでは自分の足で歩くしかないことが決定したマヤは、諦めて森の中を歩きはじめたのだった。

***

「着いたー……」

 マヤは街の門の前で仰向けに倒れ込む。

 結局魔物を見つけられなかったマヤは、ただただひたすら歩く羽目になり、大樹を真っ二つにして着地してから1週間かけてようやっと街にたどり着いていた。

「これ本当に過去なのかなあ?」

 マヤは仰向けに寝転がったまま、街並みに目を向ける。

 マヤが見る限り、街の文明レベルはマルコスに飛ばされる前の世界と変わりがないように見える。

 相変わらずマヤがもといた世界で言うところの中世くらいの印象だった。

「よいしょっと……とりあえず、宿探そ。お風呂入りたいし」

 マヤは街の中に入ると、歩き回って宿屋を探す。

 程なくして見つかった宿に入ると、マヤは早速部屋をとり、代金を支払った。

「お嬢さん、どこのお金だい、これは」

「え?」

 マヤが出したのはヘンダーソン王国の通貨だ。

 ヘンダーソン王国は長らく中立を保っており、政治的にも安定しているため、その通貨はほとんどの国で使用できる。

 だからこそマヤはヘンダーソン王国の通貨を出したのだが、まさか宿屋の店主が知りもしないとは驚きだった。

 しかし、ここが過去だと言うことを考えれば、納得もできる。

「実は私も知らないんだよね。このお金、使えない?」

 マヤはひとまず怪しまれないため、マヤ自身もヘンダーソン王国も通貨を知らないことにした。

「そうさなあ……これから数日分の宿代はこれで構わねえよ。どこの金かは知らないが、これが金貨だってことはわかるしな」

「やった。ありがとねおじさん」

 可愛らしく笑ってペコリと頭を下げるマヤに、宿に主人は年甲斐もなくドキリとする。

「おじさんはやめてくれ、俺だってまだまだ――あでっ」

 
 宿の店主が何か言おうとした瞬間、後ろからその脳天にげんこつが降ってきた。

「ったく、なーにが俺だってまだまだ、だい! 十分おじさんだろ、あんたは」

 大声とともに出てきた恰幅のいい女性は、呆れた様子で宿の店主を見下ろしていた。

「おいおい、ひでえじゃねえか。あの頃の可愛かったお前はどこに行っちまったんだ?」

「さてね。ほれ嬢ちゃん、部屋の鍵だよ。そこの階段上がって突き当りが嬢ちゃんの部屋だかんね」

 おそらく宿の主人の妻でこの宿のおかみさんであろう女性が投げてよこした鍵を受け取ったマヤは、軽い足取りで階段へ向かう。

「はーい、ありがとねお姉さん」

「あらやだ、お世辞でも嬉しいねえ」

「これのどこがお姉さんなんだか……」

「なんか言ったかい?」

「……なんでもありません」

 完全に尻に敷かれている店主を少し可愛そうに思いながら、マヤはようやく過去の世界で宿を確保したのだった。
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