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第5巻第3章 過去の世界へ
シャルルとの旅
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「それでマヤ、父親の手がかりはあるのか?」
ひとまずマヤが泊まっている宿に戻ってきたシャルルとマヤは、これからのことを話し合うことにした。
「ううん、なーんにも」
「はあ……それでよく冒険者になろうとしたな……」
あっけらかんとなんの手がかりもないと言うマヤに、シャルルは呆れてため息をつく。
「まあ何とかなるかなって思ってさ。実際、シャルルさんのお陰でなんとかなったわけだし?」
「…………助けてやらない方がよかったかもしれない……」
マヤの能天気ぶりに、シャルルはさっそく後悔し始めていたが、性格上一度した約束を反故にはできなかった。
「まあまあ、具体的な手がかりはないけどさ、とりあえずお父さんがこの街にはいないってことだけはわかってるんだよ。それこそ、隅から隅まで探したからね」
「なるほど。それではまずは隣町か」
「そうなるかな。私隣町の行き方とかもさっぱりわからないんだけど、遠いの?」
「いや、遠いというほどではない。ただ……」
「ただ?」
「マヤが新人冒険者だから脅かそうとしているわけじゃないんだが、隣町までの道はそれなりに危険なんだ」
シャルルが真剣な表情をしているところを見ると、隣町までの道のりは本当に危ないらしい。
「危険? 魔物でも出るの?」
マヤはこの街に来るまでの道のりでついに魔物に出会うことができずに歩きで移動することになってしまったことを思い出す。
魔物が出てくれるならマヤとしてはとても助かるし、オーガが出てきてくれればマヤの目的は達成できてしまうのでそれでも助かるのだが、シャルルの言葉はなんとも抽象的だった。
「正体は不明だ。ただそいつは恐ろしく大きい化け物な上、凄まじく鋭い爪で何でも斬り裂いてしまうらしい」
「えー、何それ怖いじゃん。でもなんでそんなざっくりした情報なの? どんな姿だとか、そういう感じの情報はないの? 例えばめちゃくちゃ大きい熊みたいな感じ、とかさ」
マヤは先ほど部屋に入ってすぐに用意したお茶を口に含む。
「目撃者はいないんだ。ただ、ここから1週間ほど歩いたところに、上部の枝を鋭利な何かで斬り落とされ、その上で幹が縦に真っ二つにされた大木が――」
「ぶふぅぅぅぅ!」
マヤはシャルルが話す大木について心当たりがありすぎて思わずお茶を吹き出してしまった。
「うわっ! おいマヤ、汚いじゃないか!」
対面に座っていたためにマヤが吹き出したお茶をもろに食らったシャルルは、慌ててハンカチを取り出して顔を拭う。
「いや、こほっこほっ、ごめんごめん。いやー、それにしても恐ろしいね、それは。そんなことができる化け物が出てきたらどうしようもないね」
マヤは少し早口になってしまいながら言葉を重ねる。
言うまでもないことだが、その件の大木の枝を斬り落とし幹を真っ二つにしたのは他でもないマヤである。
「そうだろう? だから今隣町に行くのは……」
「でもさ、シャルルさん。その化け物はこの街の近くにはいないんじゃないかな?」
「どうしてだ?」
どうしてだ、と聞かれればマヤがその化け物だからなのだが、そんなことをここでバラしてしまうわけにはいかないので、適当にそれっぽい理由を考えることにする。
「だってさ、特に目的もなく大木に攻撃するような化け物なら、そもそも移動してる途中でも同じようにそこらへんの木に攻撃する気がしない?」
「それは確かに」
「でしょ? でも、さっき聞いた感じだと、そういう痕跡は残ってないんだよね?」
「その通りだ」
「じゃあやっぱりこの近くには来てないんだよ。それに、枝を切り落としたのは魔物かもしれないけど、幹が真っ二つなのは雷が落ちたから、とかかもしれないじゃん?」
「その可能性もまあ、捨てきれないが……」
「だから大丈夫だと思うんだよね。どうかな?」
「ふむ……。いささか強引な気はするが、筋は通っているな」
「よし、それじゃあ決まり! さっそく明日出発しよう!」
こうしてマヤとシャルルは隣町へ向けて出発することにしたのだった。
***
「はああああっ!」
裂帛の気合とともに振り抜かれたシャルルの剣が、街道脇から飛び出してきた熊を斬り裂く。
「おおっ! すごいすごーい!」
マヤはその様子を見ながら後ろでぴょんぴょんと跳ねて拍手していた。
「大したことはない。冒険者の中ではそれなりだと思っているが、騎士や剣士の中には私より強い者などごまんといる」
「そうなの? でもシャルルさんも十分すごいって。自信持っていいと思うよ」
「そうか? そう言ってくれると嬉しいが」
シャルルは剣についた熊の血を払うと、ナイフに持ち替えて熊へと近づいていく。
「今日はこの近くで野営だな。私はこの熊を解体しておくから、その辺りで準備しておいてくれるか?」
「了解。テントとかはこれを使えばいいんだよね?」
ここ数日泊まっているテントがシャルルの足元に用意されているのを見て、マヤはそれを持ち上げる。
「そうだ。頼んだ」
「任せて」
マヤは手際よくテントを組み上げると、そのまま火起こしの準備を始める。
マヤが火をおこしてしばらくした頃、ようやく熊の解体を終えたシャルルが戻ってきた。
「これだけあれば今日はお腹いっぱい食べられるな」
「やった、今日はお肉があるんだね!」
「肉なら昨日もあったぞ?」
「干し肉はお肉じゃないじゃん。あれは別のなにかだよ」
マヤはシャルルから受け取った熊の肉を、慣れた手付きで調理していく。
「それにしてもマヤは料理が上手いな」
「えへへ、そうでしょう」
「ああ、私ではそうはいかない」
「まあ、料理でくらい役に立たないとね」
ただでさえ実力を隠している罪悪感があるマヤは、料理でシャルルの役に立てることが嬉しかった。
「はいどうぞ」
程なくして出来上がった料理を、マヤは器に取り分けてシャルルに渡してあげる。
「ありがとう。うん、美味そうだ」
それからしばらく2人は無言で食事を楽しんだ。
「そういえば、シャルルさん、今更なんだけど、私の都合で突然隣町に行くことになっちゃったけど、色々大丈夫だったの?」
「本当に今更だな……。心配するな、私に家族などはいないからな。あの街にだって仕事で滞在していただけだ」
シャルルはおでこの上の生え際を触りながら苦笑する。
時々やっている生え際を触るその動作は、シャルルの癖のようなものらしかった。
「そうなんだ……なんかごめんね、言いにくいこと聞いちゃって」
「気にするな。ふう、今日も美味かった。ごちそうさま」
「はい、お粗末様でした」
「片付けは私がやっておくからマヤは先に寝ていいぞ」
「そう? じゃあお言葉に甘えて」
マヤはテントに潜り込みながらシャルルのことを考える。
(シャルルさん、さっき家族の話をする時、一瞬だけど複雑な表情してた気がするけど、何があったんだろう?)
ただ家族と死に別れた、という感じではなかったシャルルの雰囲気に、マヤはちょっとした違和感を感じながら眠りについたのだった。
ひとまずマヤが泊まっている宿に戻ってきたシャルルとマヤは、これからのことを話し合うことにした。
「ううん、なーんにも」
「はあ……それでよく冒険者になろうとしたな……」
あっけらかんとなんの手がかりもないと言うマヤに、シャルルは呆れてため息をつく。
「まあ何とかなるかなって思ってさ。実際、シャルルさんのお陰でなんとかなったわけだし?」
「…………助けてやらない方がよかったかもしれない……」
マヤの能天気ぶりに、シャルルはさっそく後悔し始めていたが、性格上一度した約束を反故にはできなかった。
「まあまあ、具体的な手がかりはないけどさ、とりあえずお父さんがこの街にはいないってことだけはわかってるんだよ。それこそ、隅から隅まで探したからね」
「なるほど。それではまずは隣町か」
「そうなるかな。私隣町の行き方とかもさっぱりわからないんだけど、遠いの?」
「いや、遠いというほどではない。ただ……」
「ただ?」
「マヤが新人冒険者だから脅かそうとしているわけじゃないんだが、隣町までの道はそれなりに危険なんだ」
シャルルが真剣な表情をしているところを見ると、隣町までの道のりは本当に危ないらしい。
「危険? 魔物でも出るの?」
マヤはこの街に来るまでの道のりでついに魔物に出会うことができずに歩きで移動することになってしまったことを思い出す。
魔物が出てくれるならマヤとしてはとても助かるし、オーガが出てきてくれればマヤの目的は達成できてしまうのでそれでも助かるのだが、シャルルの言葉はなんとも抽象的だった。
「正体は不明だ。ただそいつは恐ろしく大きい化け物な上、凄まじく鋭い爪で何でも斬り裂いてしまうらしい」
「えー、何それ怖いじゃん。でもなんでそんなざっくりした情報なの? どんな姿だとか、そういう感じの情報はないの? 例えばめちゃくちゃ大きい熊みたいな感じ、とかさ」
マヤは先ほど部屋に入ってすぐに用意したお茶を口に含む。
「目撃者はいないんだ。ただ、ここから1週間ほど歩いたところに、上部の枝を鋭利な何かで斬り落とされ、その上で幹が縦に真っ二つにされた大木が――」
「ぶふぅぅぅぅ!」
マヤはシャルルが話す大木について心当たりがありすぎて思わずお茶を吹き出してしまった。
「うわっ! おいマヤ、汚いじゃないか!」
対面に座っていたためにマヤが吹き出したお茶をもろに食らったシャルルは、慌ててハンカチを取り出して顔を拭う。
「いや、こほっこほっ、ごめんごめん。いやー、それにしても恐ろしいね、それは。そんなことができる化け物が出てきたらどうしようもないね」
マヤは少し早口になってしまいながら言葉を重ねる。
言うまでもないことだが、その件の大木の枝を斬り落とし幹を真っ二つにしたのは他でもないマヤである。
「そうだろう? だから今隣町に行くのは……」
「でもさ、シャルルさん。その化け物はこの街の近くにはいないんじゃないかな?」
「どうしてだ?」
どうしてだ、と聞かれればマヤがその化け物だからなのだが、そんなことをここでバラしてしまうわけにはいかないので、適当にそれっぽい理由を考えることにする。
「だってさ、特に目的もなく大木に攻撃するような化け物なら、そもそも移動してる途中でも同じようにそこらへんの木に攻撃する気がしない?」
「それは確かに」
「でしょ? でも、さっき聞いた感じだと、そういう痕跡は残ってないんだよね?」
「その通りだ」
「じゃあやっぱりこの近くには来てないんだよ。それに、枝を切り落としたのは魔物かもしれないけど、幹が真っ二つなのは雷が落ちたから、とかかもしれないじゃん?」
「その可能性もまあ、捨てきれないが……」
「だから大丈夫だと思うんだよね。どうかな?」
「ふむ……。いささか強引な気はするが、筋は通っているな」
「よし、それじゃあ決まり! さっそく明日出発しよう!」
こうしてマヤとシャルルは隣町へ向けて出発することにしたのだった。
***
「はああああっ!」
裂帛の気合とともに振り抜かれたシャルルの剣が、街道脇から飛び出してきた熊を斬り裂く。
「おおっ! すごいすごーい!」
マヤはその様子を見ながら後ろでぴょんぴょんと跳ねて拍手していた。
「大したことはない。冒険者の中ではそれなりだと思っているが、騎士や剣士の中には私より強い者などごまんといる」
「そうなの? でもシャルルさんも十分すごいって。自信持っていいと思うよ」
「そうか? そう言ってくれると嬉しいが」
シャルルは剣についた熊の血を払うと、ナイフに持ち替えて熊へと近づいていく。
「今日はこの近くで野営だな。私はこの熊を解体しておくから、その辺りで準備しておいてくれるか?」
「了解。テントとかはこれを使えばいいんだよね?」
ここ数日泊まっているテントがシャルルの足元に用意されているのを見て、マヤはそれを持ち上げる。
「そうだ。頼んだ」
「任せて」
マヤは手際よくテントを組み上げると、そのまま火起こしの準備を始める。
マヤが火をおこしてしばらくした頃、ようやく熊の解体を終えたシャルルが戻ってきた。
「これだけあれば今日はお腹いっぱい食べられるな」
「やった、今日はお肉があるんだね!」
「肉なら昨日もあったぞ?」
「干し肉はお肉じゃないじゃん。あれは別のなにかだよ」
マヤはシャルルから受け取った熊の肉を、慣れた手付きで調理していく。
「それにしてもマヤは料理が上手いな」
「えへへ、そうでしょう」
「ああ、私ではそうはいかない」
「まあ、料理でくらい役に立たないとね」
ただでさえ実力を隠している罪悪感があるマヤは、料理でシャルルの役に立てることが嬉しかった。
「はいどうぞ」
程なくして出来上がった料理を、マヤは器に取り分けてシャルルに渡してあげる。
「ありがとう。うん、美味そうだ」
それからしばらく2人は無言で食事を楽しんだ。
「そういえば、シャルルさん、今更なんだけど、私の都合で突然隣町に行くことになっちゃったけど、色々大丈夫だったの?」
「本当に今更だな……。心配するな、私に家族などはいないからな。あの街にだって仕事で滞在していただけだ」
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時々やっている生え際を触るその動作は、シャルルの癖のようなものらしかった。
「そうなんだ……なんかごめんね、言いにくいこと聞いちゃって」
「気にするな。ふう、今日も美味かった。ごちそうさま」
「はい、お粗末様でした」
「片付けは私がやっておくからマヤは先に寝ていいぞ」
「そう? じゃあお言葉に甘えて」
マヤはテントに潜り込みながらシャルルのことを考える。
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