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第5巻第3章 過去の世界へ
オリガの魔法入門
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「本当に申し訳ない……」
お風呂で倒れてそのままマヤにおんぶされてマヤたちの宿に運び込まれたエリーは、目が覚めてマヤから状況の説明を聞き終わるなり頭を下げた。
「いいっていいって。ごめんね気がついてあげられなくて」
「いや、私の不注意なのだ、謝らないでくれ」
「それより今日はもう遅いから泊まっていきなよ」
マヤは窓の外を指差す。
その先には街の灯りも消えてしまっているのか、完全な闇が広がっていた。
歓楽街の方であればまだ灯りがついているだろうが、マヤたちが泊まっている宿があるあたりは民家や宿が立ち並ぶエリアなので、灯りがついている建物はほとんどない。
「何から何までごめんなさい」
「だから気にしないでいいってば」
マヤはエリーの頭をポンポンと撫でる。
「ふわあああぁぁ……それじゃ、私達は寝るけど、エリーはどうする?」
「そうだな、流石に今起きたところだしな……」
「そうだよね。そうだなあ、なんかあったかなあ……」
マヤは収納袋の中をゴソゴソとやって何かを暇を潰せそうなものがないか探してみる。
「絵本とそうじゃなくてもなんか小説でもいいんだけど……おっ?」
マヤの手が、収納袋の中で本のような何かに触れた。
マヤはその本を収納袋から取り出すと、そのタイトルを確認する。
「えーっとなになに……オリガの魔法入門。あれかあ……」
タイトルを読んでマヤがなんとも言えない反応をしたのには当然理由がある。
実はこの本はタイトル通りオリガが執筆したものなのだが、内容に少し問題があるのだ。
細かいことをすっ飛ばして端的に言うと、マニアックな魔法の話が多すぎるのだ。
マヤも読んでみたのだが、最初の数ページですでにわけがわからず、すぐに睡魔に襲われてそれ以降読んでいない。
「ねえエリー、魔法って得意だったりする?」
「え? まあ人間や他の種族に比べれば得意と言っていいと思うわ」
「そうなんだ。それじゃあこの本貸してあげる。眠くなるまで読んでるといいよ」
「えーっと、オリガの魔法入門? 魔法の入門書? ねえマヤ、私さっきも言ったけど、それなりに魔法は得意よ?」
魔法が得意か聞かれて、魔法が得意と答えたのに、なぜかタイトルからして初心者用の教本を渡されたエリーは、わかりやすく不思議そうにする。
「うん、だから渡したんだよ。その本さ、ちょっとタイトルがおかしくてね。正直全く入門書じゃないんだよね」
実はこのオリガの魔法入門という本は、元はと言えばオリガがエメリンを手伝う形で先生をしている学校で、子どもたちに魔法を教える教科書として作られたのだ。
しかし、試しにこの本でオリガが魔法の授業をしてみたところ、参加した生徒がことごとく魔法への自信をなくしてしまうのいう事件が発生した。
それも、学校で一番魔法ができるはずの、エルフの最高学年で授業やってそれだったのである。
それ以来この本は半ば禁書扱いとなっており、その事件とこの本の存在も、その授業を受けた生徒たちの他にはマヤとオリガしか知らない秘密となっていたりする。
「どういうことなのよそれは」
しかし、そんな事情を説明できるほど、今のマヤは頭が回っていなかった。
なにせとにかく眠かったのだ。
「まあ読めばわかるって……ふあああぁ。解らなければ絶対眠くなるし……わかったら面白いらしい? から、どちらにせよ夜読むにはいいと思うよ~。それじゃ、おやすみ~」
マヤは一方的にそう言うと、ボスンと勢いよく枕に頭を載せてそのまま布団を首まで引き上げて目をつむってしまう。
相当眠かったのか、マヤは1分も経たないうちに寝息を立て始めた。
「悪いなエリー、私も今日は疲れていてな。先に休ませてもらう」
「わかったわ」
「それではおやすみ……っと、そうだった、マヤが伝え忘れていたが、眠たくなったら私のベッドでもマヤのベッドでも好きな方に潜り込んでくれ。エリーが寝ている間にそういうことに決めてあるから、遠慮することはない」
「ありがとう、そうさせてもらうわ」
「うむ。それではおやすみ」
「ええ、おやすみなさい」
シャルルも疲れたという言葉に偽りはなかったようで、横になってすぐに寝息を立て始めた。
ほかの部屋の宿泊客たちもすでに夢の中のようで、宿全体が静寂に包まれている。
エリーはふう、と一つ息を吐くと、手に持っていた本に目を落とす。
(きれいな装丁の本ね。本っていうだけで貴重なのに、こんなきれいな本、どこで手に入れたのかしら?)
エリーはたまたま本というものを見たことがあるが、普通の市民では下手をすれば一生お目にかかることはないだろう。
それくらい、本というのは貴重なものなのだ。
(でも、魔法の入門書でしょ? 今さらこんな物読んでもね……)
マヤは内容は入門書じゃないなどと意味の分からないことを言っていたが、どうせ大したものではあるまい。
そう考えながらも、他にやることもないのでエリーはゆっくりとオリガの魔法入門を開いた。
(へえ、いきなり魔法の発動原理がこんなに細かく書いてあるのね……)
マヤには「他の種族よりは得意」などと言っていたエリーだったが、実際はエルフの中でも特に魔法に秀でているという自負がエリーにはあった。
(確かに入門書にしては変わってるわね)
魔法の入門書というのは、もっとざっくりと簡単に魔法の原理が書いてあって、とりあえず簡単な魔法とその発動方法や使い方が書いてあるのが定番だ。
しかし、このオリガの魔法入門は、魔法の発動プロセスの、しかもその最初の1、2工程について、数ページに渡って事細かに記載されている。
(え? ちょっと待って? そんな方法が? それが可能なら……そうよね、やっぱりそういうこともできるわよね? …………すごい)
さらにエリーが驚いたのは、エリーがなんとなく頭の中でやっている魔法発動までの流れを正確に言語化してある上に、エリーが気がついていないようなことまで分析し、それをどう応用すればいいかまで書かれていることだった。
「ふふっ、ふふふふっ…………すごい……すごいわこの本」
思わずエリーが声に出してそう呟いてしまうほど、エリーにとってこの本は驚きに溢れていた。
(確かにこれは入門書じゃないわね。普通の人なら読んでもわからないし、眠くなっても当然だわ。でも、私にとっては――)
そう、エリーにとっては面白くて仕方がなかった。
結局エリーは、翌朝マヤとシャルルが目を覚ますまで、夢中でオリガの魔法入門を読み耽っていたのだった。
お風呂で倒れてそのままマヤにおんぶされてマヤたちの宿に運び込まれたエリーは、目が覚めてマヤから状況の説明を聞き終わるなり頭を下げた。
「いいっていいって。ごめんね気がついてあげられなくて」
「いや、私の不注意なのだ、謝らないでくれ」
「それより今日はもう遅いから泊まっていきなよ」
マヤは窓の外を指差す。
その先には街の灯りも消えてしまっているのか、完全な闇が広がっていた。
歓楽街の方であればまだ灯りがついているだろうが、マヤたちが泊まっている宿があるあたりは民家や宿が立ち並ぶエリアなので、灯りがついている建物はほとんどない。
「何から何までごめんなさい」
「だから気にしないでいいってば」
マヤはエリーの頭をポンポンと撫でる。
「ふわあああぁぁ……それじゃ、私達は寝るけど、エリーはどうする?」
「そうだな、流石に今起きたところだしな……」
「そうだよね。そうだなあ、なんかあったかなあ……」
マヤは収納袋の中をゴソゴソとやって何かを暇を潰せそうなものがないか探してみる。
「絵本とそうじゃなくてもなんか小説でもいいんだけど……おっ?」
マヤの手が、収納袋の中で本のような何かに触れた。
マヤはその本を収納袋から取り出すと、そのタイトルを確認する。
「えーっとなになに……オリガの魔法入門。あれかあ……」
タイトルを読んでマヤがなんとも言えない反応をしたのには当然理由がある。
実はこの本はタイトル通りオリガが執筆したものなのだが、内容に少し問題があるのだ。
細かいことをすっ飛ばして端的に言うと、マニアックな魔法の話が多すぎるのだ。
マヤも読んでみたのだが、最初の数ページですでにわけがわからず、すぐに睡魔に襲われてそれ以降読んでいない。
「ねえエリー、魔法って得意だったりする?」
「え? まあ人間や他の種族に比べれば得意と言っていいと思うわ」
「そうなんだ。それじゃあこの本貸してあげる。眠くなるまで読んでるといいよ」
「えーっと、オリガの魔法入門? 魔法の入門書? ねえマヤ、私さっきも言ったけど、それなりに魔法は得意よ?」
魔法が得意か聞かれて、魔法が得意と答えたのに、なぜかタイトルからして初心者用の教本を渡されたエリーは、わかりやすく不思議そうにする。
「うん、だから渡したんだよ。その本さ、ちょっとタイトルがおかしくてね。正直全く入門書じゃないんだよね」
実はこのオリガの魔法入門という本は、元はと言えばオリガがエメリンを手伝う形で先生をしている学校で、子どもたちに魔法を教える教科書として作られたのだ。
しかし、試しにこの本でオリガが魔法の授業をしてみたところ、参加した生徒がことごとく魔法への自信をなくしてしまうのいう事件が発生した。
それも、学校で一番魔法ができるはずの、エルフの最高学年で授業やってそれだったのである。
それ以来この本は半ば禁書扱いとなっており、その事件とこの本の存在も、その授業を受けた生徒たちの他にはマヤとオリガしか知らない秘密となっていたりする。
「どういうことなのよそれは」
しかし、そんな事情を説明できるほど、今のマヤは頭が回っていなかった。
なにせとにかく眠かったのだ。
「まあ読めばわかるって……ふあああぁ。解らなければ絶対眠くなるし……わかったら面白いらしい? から、どちらにせよ夜読むにはいいと思うよ~。それじゃ、おやすみ~」
マヤは一方的にそう言うと、ボスンと勢いよく枕に頭を載せてそのまま布団を首まで引き上げて目をつむってしまう。
相当眠かったのか、マヤは1分も経たないうちに寝息を立て始めた。
「悪いなエリー、私も今日は疲れていてな。先に休ませてもらう」
「わかったわ」
「それではおやすみ……っと、そうだった、マヤが伝え忘れていたが、眠たくなったら私のベッドでもマヤのベッドでも好きな方に潜り込んでくれ。エリーが寝ている間にそういうことに決めてあるから、遠慮することはない」
「ありがとう、そうさせてもらうわ」
「うむ。それではおやすみ」
「ええ、おやすみなさい」
シャルルも疲れたという言葉に偽りはなかったようで、横になってすぐに寝息を立て始めた。
ほかの部屋の宿泊客たちもすでに夢の中のようで、宿全体が静寂に包まれている。
エリーはふう、と一つ息を吐くと、手に持っていた本に目を落とす。
(きれいな装丁の本ね。本っていうだけで貴重なのに、こんなきれいな本、どこで手に入れたのかしら?)
エリーはたまたま本というものを見たことがあるが、普通の市民では下手をすれば一生お目にかかることはないだろう。
それくらい、本というのは貴重なものなのだ。
(でも、魔法の入門書でしょ? 今さらこんな物読んでもね……)
マヤは内容は入門書じゃないなどと意味の分からないことを言っていたが、どうせ大したものではあるまい。
そう考えながらも、他にやることもないのでエリーはゆっくりとオリガの魔法入門を開いた。
(へえ、いきなり魔法の発動原理がこんなに細かく書いてあるのね……)
マヤには「他の種族よりは得意」などと言っていたエリーだったが、実際はエルフの中でも特に魔法に秀でているという自負がエリーにはあった。
(確かに入門書にしては変わってるわね)
魔法の入門書というのは、もっとざっくりと簡単に魔法の原理が書いてあって、とりあえず簡単な魔法とその発動方法や使い方が書いてあるのが定番だ。
しかし、このオリガの魔法入門は、魔法の発動プロセスの、しかもその最初の1、2工程について、数ページに渡って事細かに記載されている。
(え? ちょっと待って? そんな方法が? それが可能なら……そうよね、やっぱりそういうこともできるわよね? …………すごい)
さらにエリーが驚いたのは、エリーがなんとなく頭の中でやっている魔法発動までの流れを正確に言語化してある上に、エリーが気がついていないようなことまで分析し、それをどう応用すればいいかまで書かれていることだった。
「ふふっ、ふふふふっ…………すごい……すごいわこの本」
思わずエリーが声に出してそう呟いてしまうほど、エリーにとってこの本は驚きに溢れていた。
(確かにこれは入門書じゃないわね。普通の人なら読んでもわからないし、眠くなっても当然だわ。でも、私にとっては――)
そう、エリーにとっては面白くて仕方がなかった。
結局エリーは、翌朝マヤとシャルルが目を覚ますまで、夢中でオリガの魔法入門を読み耽っていたのだった。
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