転生したらただの女の子、かと思ったら最強の魔物使いだったらしいです〜しゃべるうさぎと始める異世界魔物使いファンタジー〜

上村 俊貴

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第7巻第2章 連携

空間跳躍の場所

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「マヤ!」

「了解! 十の剣、六の型、削~卸金~!」

 マヤはシャルルがエスメラルダを引き付けた一瞬の隙をついて、セシリオへと魔力の剣を放つ。

「俺に攻撃しても無駄だってことはもうわかってるだろ?」

 マヤの魔力の剣が迫るが、セシリオは回避する素振りも見せない。

 それも当然で、セシリオは強力な防御魔法の中にいるため生半可な攻撃ではなんの意味も無いのだ。

 実際、最初頃にエスメラルダをどうすることもできないと悟ったマヤとシャルルが立てた作戦がセシリオを攻撃する、だったのだが、聖剣の連携技も、マヤの十の剣の他の技も、全く効かなかった。

 だからこそ、回避しないセシリオの態度は決して慢心ではない。

 しかしながら、そうであるからこそ今回の作戦が成立するわけなのだが。

「ふふっ、それはどうかな?」

 マヤはニヤリと笑った瞬間、マヤの魔力の剣は防御魔法をすり抜けてセシリオへと迫る。

「何!?」

 慌てて回避しようとするセシリオだが、もう遅い。

「もらった!」

 マヤはセシリオの魔力を削り取ると、そのまま魔力の剣を手のひらから吸収する。

「くっ…………ん?」

「大丈夫ですか、リオ!」

 攻撃を食らったセシリオの元へ、エスメラルダが駆け寄る。

「ああ、なんともないみたいだが……何だあの技は……?」

「よかった……。ごめんなさい、私がシャルルさんに気を取られていたいたばっかりに」

「いや、防御魔法があるからと回避しなかった俺の責任だ。それに、特になんともないみたいだしな」

「そう…………そうね、かわさなかったリオのせいよね!」

 エスメラルダは駆け寄って心配したことが今更恥ずかしくなったのか、セシリオから顔を背ける。

「ははっ、相変わらずエスメは素直じゃないな。でも、全くその通りだ。ここからは気を引き締めていくぞ」

「ええ、もちろん」

 セシリオとエスメラルダは先ほどより集中してマヤとシャルルと対峙する。

「なんだか余計本気にさせただけな気がするんだが、本当に大丈夫か?」

「たぶんね。来るよ! 右!」

「了解!」

 マヤの言葉を聞くやいなや、シャルルは自身の右の空間に聖剣を振るう。

 次の瞬間、聖剣の軌道上にエスメラルダが姿を現した。

 ちょうどマヤの言った場所に空間跳躍して来たのだ。

「なっ!」

 エスメラルダはぎりぎり聖剣の一撃をナイフで受け止めるが、勢いを殺しきれず吹き飛ばされる。

 エスメラルダは吹き飛ばされている途中で姿を消し、セシリオの隣に現れた。

「よしっ! 成功!」

 ガッツポーズをするマヤに、エスメラルダが驚いたようにつぶやく。

「まさか、跳躍先を読まれた?」

 先ほどのシャルルの攻撃は、完全にエスメラルダが跳躍してくる地点を予測していた。

 跳躍する直前に聞こえたマヤの「右」という言葉と、今のガッツポーズからすると――。

「かもな。エスメ、もう一度跳躍させるが、跳躍先を読まれてる前提で行ってくれ」

「わかったわ」

 エスメラルダが返事をした瞬間、エスメラルダはマヤの背後へ空間跳躍する。

 エスメラルダが跳躍を終えた時、こちらを向いていたマヤが剣を抜くところだった。

「っっ!」

 マヤの神速の一撃が迫る中、攻撃が来ることを予測していたエスメラルダがナイフで受け止めようとした瞬間、エスメラルダはセシリオの隣に再び空間跳躍していた。

「…………速いね」

「まあな。マヤ、お前俺がエスメを空間跳躍させる先がわかってるだろ?」 

「さあ、どうだろう?」

 マヤははぐらかして肩をすくめる。

「今更とぼけなくてもいい。別に今は敵同士でもないんだしな」

「それもそうか。うん、セシリオさんの予想通り、空間跳躍の先が見えてるよ」

「やっぱり。どういうからくりかしら?」

 怪訝な表情のエスメラルダに、マヤは得意げに説明し始める。

 この時、エスメラルダが少し不機嫌そうだったことにマヤが気がついていれば、この後の騒動はなかったかもしれない……。

「簡単だよ、エスメラルダさん。エスメラルダさんとおんなじことをしただけ――――って、違う違う! 違うからそんな顔しないで、セシリオさんの胸ぐらも掴まないで!」

 マヤの説明が良くなかったせいで、エスメラルダはマヤとセシリオが身体を重ねたのだと誤解したのだ。

 普段は冷静で優秀な副官であるエスメラルダだが、裏の顔はセシリオのことが好きで好きでたまらないツンデレな妻なわけで……、セシリオが他の女に手を出していたとなれば、ブチギレて当然だ。

「リオ? 私というものがありながら……っ!」

「落ち着けエスメ! そもそも寝る時はいつもエスメと同じベッドだろ? それに、一晩中俺の腕の抱きついてるじゃないか。それで俺はどうやってマヤに手を出せるって言うんだ……」

「うっ…………確かに言われてみれば……」

 エスメラルダはセシリオの言葉に納得し少し落ち着いたのか、気まずそうにうつむく。

「なんかさらっと聞いちゃいけないことを聞いてしまったような?」

 マヤはセシリオが大声で話すせいで聞こえてしまった夫婦の秘密に苦笑する。 

「ああ、そうだな。何だ、その……ラブラブなんだな、あの2人は……」

 セシリオが原初の魔王であることを考えると、おそらく2人は結婚してから少なくとも数百年は経っているはずなのだが、まるで新婚夫婦のような熱々加減にシャルルも苦笑するしかなった。

「いいですか! 今のはリオが勝手に言ってるだけですからね!」

「「あー、うん。そういうことでいいよ」」

「なんですかその返事は! もう怒りました! リオ、あの二人の記憶が消えるまで叩きのめします! 手伝いなさい!」

「えー、もう2人共空間跳躍の対抗策を見つけたみたいだし、これ以上は別に戦わなくても……」

「つべこべ言わずに戦って!」

 涙目で駄々っ子よろしく声を上げるエスメラルダに、セシリオは後頭部を掻きながら溜め息をつく。

「わかったよ。でも、叩きのめせないと思うぜ?」

 この後のやけになったエスメラルダとそれに付き合わされたセシリオと戦った2人だったが、その結果はマヤたちの圧勝だった。

 逆に叩きのめされたエスメラルダは、最終的にセシリオにおんぶされていた。

「悪いな、エスメが……」

「いいよ。起きたら、あのことは聞かなかったことにしとくから、って言っといて」

「助かる。それで、どうやって俺の魔力を手に入れたんだ?」

「なんだ、やっぱりわかってたんだ」

「エスメと一緒って言ってたからな。その言い方のおかげで大変だったわけだが……」

「それは本当にごめん。ちなみに魔力を奪ったのはあの剣を食らった時だよ。あれは相手の魔力を削り取って取り込む剣だから」

「なるほど。だから防御魔法でも防げないのか」

「うん。攻撃としては機能しないから、防御魔法をすり抜けるんだよ」

「で、これで2人は空間跳躍は攻略したわけだが、次はどうする?」

 セシリオは封印空間の端で見守っていたエメリンに声かける。

「当然次はマルコス様です」

「マルコスさんかあ……」

 マヤはセシリオ以上に勝ち目がないような気がする相手に、気が重くなるのだった。
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