転生したらただの女の子、かと思ったら最強の魔物使いだったらしいです〜しゃべるうさぎと始める異世界魔物使いファンタジー〜

上村 俊貴

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第7巻第3章 決戦

奥の手

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 マヤの聖剣に完全に合わせて繰り出されるシャルルの聖剣、エスメラルダのナイフ、ルーシェのレイピアによって神は完全に四方を塞がれる。

 時間停止はマルコスが阻止し、空間跳躍はセシリオが阻止する。

「いっっけえええええっ!」

 これがマヤたちの奥の手。

 十の剣の最後の技、死兎。

「な、んだ……とっ!?」

 時間停止なり空間跳躍なりで回避すればいいと思っていたのか、余裕の表情でマヤたちの攻撃を受け止めようとしていた神は、それができないことがわかりようやく顔を歪める。

「終わりだあああああっ!」

 マヤは叫びながら聖剣を振り抜く。

 それに合わせて同じく振り抜かれた4つの刃によって、神はバラバラに切り刻まれた。

「…………まさか、魔神の残り滓どもにここまでしてやられるとはな……」

「どうだっ! って勝ち誇りたいところだけど、なんで喋ってるの? まだやられてないの?」

 マヤは4つの刃で5つの肉塊に成り果てた神へと話しかける。

 胴体から離れた首だけで喋っている姿は不気味以外の何者でもなかった。

「この程度で死ぬ私ではない。しかし、どうやら再生できないようだがな。マヤ、貴様ただの人間ではないな?」

「さあ? 自分ではただの人間のつもりだけど?」

「嘘をつけ」

 首だけになった神は、なにかの魔法で首だけで浮かび上がると、マヤの顔を正面から見据える。

 神の眼光がマヤを貫いた瞬間、マヤの周りの世界が停止した。

「なるほど……貴様自身と、今貴様と一緒になっているうさぎ、お前らは奴らが我らを排除するために用意した存在か」

「なにを、したの?」

 マヤは完全に停止しているルーシェたちを見る。

 ルーシェやセシリオ、エスメラルダはいいとして、時間を操る能力を持っているマルコスまで停止しているのはありえない。

「覚えがあるのではないか? 出てきたらどうだ、産みの神?」

「産みの神?」

 マヤは神が呼びかけた方へ振り返ろうとしたが、そこでようやく身体が動かせないことに気がついた。

「お久しぶりです、創造神様」

 首すら動かせないマヤの隣に気配が生まれ、聞いたことのある声が聞こえた。

 現れた産みの神がマヤの肩に触れると、マヤの身体から精神が抜け出し、自由に動けるようになる。

「うわっ……びっくりしたあ……」

 マヤは突然固まった自分の姿が見えて驚くが、すぐに産みの神の姿を確認し、首だけの神改め創造神とやらと対峙する。

 創造神もまた、精神体として全身の姿で、現れる。

「産みの神、貴様異世界に干渉したな?」
 
「あなたに対抗するためには手段選んでいる場合ではありませんでしたので」

「愚かな。自分の目的のために禁忌を犯すとは」

「自身が生み出した世界を終わらせようとしているあなたに言われたくありません」

 産みの神の言葉に、創造神は答えることはなかった。

 その代わり、創造神はマヤに視線を戻して問いかける。

「マヤ、貴様はこことは違う世界から来たはずだ。元の世界に帰りたいと思わないか?」

「えっ…………元の世界に、帰る……?」

 創造神からの予想外の問いかけにマヤは困惑する。

 なぜ今そんなことを聞くのだろうか、と。

 いや、実際のところマヤはその問いかけの意味するところを理解していた。

 しかし、にわかには受け入れ難かったのだ。

「そうだ。私ならお前を元の世界に帰すことができる」

「…………考えましたね、創造神」

 創造神は、マヤを元の世界に帰すことで、こちらの世界からマヤを消し、マヤという戦力の中核を失ったルーシェたちを倒し、世界を滅ぼそうとしているのだ。

「………………私は……」

 マヤはそう呟いたきりうつむいてしまう。

「マヤ、揺らいではいけません! あなたがこの世界で作り上げたものを思い出してください! こちらでできた友人を、恋人を、仲間を思い出してください!」

 必死に説得しようとする産みの神の声は、マヤには届いていなかった。

 マヤの頭の中には、こちらの世界にやって来てからのことが浮かんでは消えていく。

 最初にマッシュと出会ったこと。

 マッシュの家族を助け、オリガの故郷を襲撃から守ったこと。

 亜人の国、キサラギ亜人王国を建国したこと。

 バニスターと戦争したこと。

 ドワーフの里に行き、魔王ベルフェゴールを倒したこと。

 魔王会議に参加し、魔王になったこと。

 初代剣聖に支配されたカーサを倒すために修行し、その間にウォーレンと仲良くなったこと。

 過去の世界に行き、幼い頃のエメリンと一緒にシャルルを助け出したこと。

 聖剣を求めてゾグラス山に向かい、セシリオと戦って聖剣を手にしたこと。

 そんな日々の中でたくさんの仲間ができ、何よりウォーレンという恋人もできたこと。

 マヤはゆっくりと顔を上げると、創造神をゆっくりと見据える。

「決まったようだな」

「うん」

 創造神はマヤの顔を見て口角を上げる。

「マヤ! あなたはこの世界を……っ!」

「私は、この世界に残るよ。だから、あなたはここで封印する」

「どうしてだっ!? 自分が生まれた世界に戻りたくないのか? あちらには貴様の家族だって……」

 マヤは静かに首をふると、腰に手をやる。

 そこには、精神体の今のマヤにはないはずの聖剣があった。

「十の剣、終の型、封~神呑~」

 マヤが高速で繰り出した斬撃は、創造神を幾度も切り裂き、切り裂かれた創造神は細切れの魔力になってマヤの手に吸い込まれていく。

「な、何をしているっ!」

「あなたは殺したって死なないでしょ? だからといって封印してもしばらくしたら帰って来ちゃう。だから、あなたは私の中に封印させてもらうよ。安心して、意識は残してあげるから」

「させぬ、そのようなことはさせぬぞ!」

 精神体のほどんどを切り裂かれ、魔力と魂のほとんどをマヤに吸収されてもなお、創造神は諦めていなかった。

「無駄だよ」

 マヤが短くそう告げると、創造神の魂と魔力はすべてマヤへと吸い込まれた。

「本当に創造神様を封印してしまうなんて……」

「それが産みの神さんの目的だったんでしょ? 良かったじゃん」

「まあそうなのですが……大丈夫なんですか? 意識は残すとか言ってましたけど……」

「うーん、どうだろ? 今は私の中で意識を失ってるみたいだけど……」

「そうですか……」

 産みの神も、人間が神をその身に封印した、などと言う話は聞いたことがないので、今はマヤの言葉を信じるしかなかった。

 この後の、産みの神の力で身体に精神体を戻してもらったマヤは、ルーシェたちに創造神を封印し、世界の危機は去ったことを伝えたのだった。
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