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番外編
第43話 番外編 自分の王様は自分(4)おまけ
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佐伯が運転する帰りの車の中で、優也と佐伯はこざっぱりしてからシャンパンを楽しもうという話になった。
マンションに到着し、優也を桐谷の部屋に送り届けると佐伯は2階下の自分の部屋に戻った。
ざっとシャワーを浴び、慣れたロンTとジーンズに着替えるとキッチンに向かった。
物色してみたが、ここで食事をすることはあまりないので、パントリーはほとんど空だった。
しかし、グリッシーニとオリーブの塩漬けがあったのでそれを持って、部屋を出た。
桐谷の部屋のインターフォンを押すと、コットンの部屋着の上に薄手のカーディガンを羽織った優也が出迎えてくれた。
ほんのりとボディソープの香りがする。
リビングのローテーブルの上には、全粒粉のクラッカーにクリームチーズ、トマトやキュウリのスライス、生ハム、チーズが皿にも移さずにパッケージの封を切ったままで並べられていた。
野菜たっぷりのトマトスープも仕込んであるのだと優也は言った。
卵ととろけるチーズで仕上げ、ガーリックバターを塗ったバゲットのトーストを添えるのだと言う。
「お腹空いちゃった。
俺、最初から食べるけど佐伯さんはどうする?」
「あ、俺のもお願いします」
「ん」
優也は手際よく準備をしていく。
その中で佐伯の持参物を見つけ、「わぁ、小豆島の大粒オリーブだ。ここの、塩加減が絶妙でおいしいんだよね。食べていい?」と嬉しそうに言った。
佐伯はうなずき、他のものと同じように封を切ってそのままテーブルに置いた。
スープもできあがり、優也が佐伯にシャンパンを開けさせた。
そして瓶を受け取ると、シャンパングラスに優雅な手つきで注ぎ、2人はようやく落ち着いた気分で乾杯をした。
「んはー。沁みるね」
優也は心底ほっとした笑顔でシャンパンを楽しんだ。
佐伯もつられて笑う。
そして2人は今夜の集まりのことを話しながら、食べ、飲んだ。
ひとしきりそうしていたが、やがてお互いにペースが緩やかになった。
優也も佐伯も穏やかに酔いが回り、顔がほんのりと赤い。
「そうだ」
「ん?」
「優也さん、チーフの話、受けたんですね」
「うん…」
優也はグラスの泡を見つめる。
「佐伯さんに、そろそろ自分の王様は自分に戻したほうがいいんじゃないの、と話したとき、佐伯さんからも言われたじゃない、俺にも3年が経ったんだって」
「うん」
「あれからいろいろ考えちゃって。
俺も自分の王様を戻す時期なのかな、ってね」
佐伯はグラスを覗いている優也を静かに見る。
「俺はブラック・バニーズが好きなんだ。
草津さんならもっとチーフに適任の人を連れてくることができると思ったんだけど…。
でも、仁が愛したブラック・バニーズを知っている人も少なくなっているから」
言葉を切り、優也はシャンパンを飲む。
「あの頃のブラック・バニーズを続けるつもりはないけど、大切にしたいところは変わらないと思う。
だって」
優也が恋する男の顔になり、うっとりとつぶやく。
「俺が仁と出会った頃と今とでもそれは変わらないんだから」
「応援しますよ」
「うん、心強いな」
「じゃ」
佐伯がグラスを掲げると、2人はまた乾杯した。
気がつくと優也はぺたりと床のラグに座り、ソファにもたれかかってうとうとしていた。
佐伯は大きな溜息をつき、肩をすくめると自分のグラスを飲み干した。
そして優也の手からグラスを抜き取り、背中と膝裏に腕を挿し込んで抱き上げた。
優也の寝室に連れていきベッドに寝かせカーディガンを脱がしてから、布団をかけてやった。
「あんた、俺が言ったこと、覚えてるの?
こんな無防備な姿さらして。
友達でも危険でしょう」
熱く濡れた息を吐きながら佐伯は優也の唇に近づいた。
直前まで接近したが、思い留まりちゅっと頬にキスをして寝室から出た。
ま、ゲストルームに泊まっても文句は言われないよな。
佐伯はリビングに戻りローテーブルの上を軽く片づけると、ゲストルームに向かった。
それでも佐伯の心はほかほかしていた。
だってあんなにリラックスして自由に振る舞う優也を初めて見たのだから。
それも、自分を拒まれることなしに。
やっぱり、キスしとけばよかったかな。
にやりとしながら、佐伯はゲストルームのドアを静かに閉めた。
おしまい
***
あとがきブログ
https://etocoria.blogspot.com/2019/02/atogaki-blackbunnies.html
マンションに到着し、優也を桐谷の部屋に送り届けると佐伯は2階下の自分の部屋に戻った。
ざっとシャワーを浴び、慣れたロンTとジーンズに着替えるとキッチンに向かった。
物色してみたが、ここで食事をすることはあまりないので、パントリーはほとんど空だった。
しかし、グリッシーニとオリーブの塩漬けがあったのでそれを持って、部屋を出た。
桐谷の部屋のインターフォンを押すと、コットンの部屋着の上に薄手のカーディガンを羽織った優也が出迎えてくれた。
ほんのりとボディソープの香りがする。
リビングのローテーブルの上には、全粒粉のクラッカーにクリームチーズ、トマトやキュウリのスライス、生ハム、チーズが皿にも移さずにパッケージの封を切ったままで並べられていた。
野菜たっぷりのトマトスープも仕込んであるのだと優也は言った。
卵ととろけるチーズで仕上げ、ガーリックバターを塗ったバゲットのトーストを添えるのだと言う。
「お腹空いちゃった。
俺、最初から食べるけど佐伯さんはどうする?」
「あ、俺のもお願いします」
「ん」
優也は手際よく準備をしていく。
その中で佐伯の持参物を見つけ、「わぁ、小豆島の大粒オリーブだ。ここの、塩加減が絶妙でおいしいんだよね。食べていい?」と嬉しそうに言った。
佐伯はうなずき、他のものと同じように封を切ってそのままテーブルに置いた。
スープもできあがり、優也が佐伯にシャンパンを開けさせた。
そして瓶を受け取ると、シャンパングラスに優雅な手つきで注ぎ、2人はようやく落ち着いた気分で乾杯をした。
「んはー。沁みるね」
優也は心底ほっとした笑顔でシャンパンを楽しんだ。
佐伯もつられて笑う。
そして2人は今夜の集まりのことを話しながら、食べ、飲んだ。
ひとしきりそうしていたが、やがてお互いにペースが緩やかになった。
優也も佐伯も穏やかに酔いが回り、顔がほんのりと赤い。
「そうだ」
「ん?」
「優也さん、チーフの話、受けたんですね」
「うん…」
優也はグラスの泡を見つめる。
「佐伯さんに、そろそろ自分の王様は自分に戻したほうがいいんじゃないの、と話したとき、佐伯さんからも言われたじゃない、俺にも3年が経ったんだって」
「うん」
「あれからいろいろ考えちゃって。
俺も自分の王様を戻す時期なのかな、ってね」
佐伯はグラスを覗いている優也を静かに見る。
「俺はブラック・バニーズが好きなんだ。
草津さんならもっとチーフに適任の人を連れてくることができると思ったんだけど…。
でも、仁が愛したブラック・バニーズを知っている人も少なくなっているから」
言葉を切り、優也はシャンパンを飲む。
「あの頃のブラック・バニーズを続けるつもりはないけど、大切にしたいところは変わらないと思う。
だって」
優也が恋する男の顔になり、うっとりとつぶやく。
「俺が仁と出会った頃と今とでもそれは変わらないんだから」
「応援しますよ」
「うん、心強いな」
「じゃ」
佐伯がグラスを掲げると、2人はまた乾杯した。
気がつくと優也はぺたりと床のラグに座り、ソファにもたれかかってうとうとしていた。
佐伯は大きな溜息をつき、肩をすくめると自分のグラスを飲み干した。
そして優也の手からグラスを抜き取り、背中と膝裏に腕を挿し込んで抱き上げた。
優也の寝室に連れていきベッドに寝かせカーディガンを脱がしてから、布団をかけてやった。
「あんた、俺が言ったこと、覚えてるの?
こんな無防備な姿さらして。
友達でも危険でしょう」
熱く濡れた息を吐きながら佐伯は優也の唇に近づいた。
直前まで接近したが、思い留まりちゅっと頬にキスをして寝室から出た。
ま、ゲストルームに泊まっても文句は言われないよな。
佐伯はリビングに戻りローテーブルの上を軽く片づけると、ゲストルームに向かった。
それでも佐伯の心はほかほかしていた。
だってあんなにリラックスして自由に振る舞う優也を初めて見たのだから。
それも、自分を拒まれることなしに。
やっぱり、キスしとけばよかったかな。
にやりとしながら、佐伯はゲストルームのドアを静かに閉めた。
おしまい
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