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Kyrie

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021. いる言葉いらない言葉

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「テスト終わったら、デートしてください」
なんて俺から誘った手前、そして藤堂のみっちりテスト勉強の成果を出すべく、頑張りましたよ、夏休み明けテスト!
いやー、キツかった。
テストより藤堂がキツかった。
すげーわ、あいつ。
なんだよ、あの集中力。
かと思えば、「免許取ったら、車でどこに冒険に行く、靖友くん?」と呑気なことを言ってくるし、もう、振り回された。
まぁ、しっかりした手応えもあったし、よかった。
結果ボロボロなのにデートしてる場合じゃない受験生だからね!

9月に入っても残暑厳しく、暑くてたまらん。
待ち合わせのショッピングモールの広場の時計の前でじりじりと焼かれそうです。
「メイズ」で待ち合わせすればよかったかなぁ。
でも、ちょっとでも早くティグさんと会いたいしさー。

「靖友くん」

ハスキーボイスがして、そっちを見たら思わず大笑いしちゃった!
ティアドロップのサングラスにビンテージっぽい和柄のアロハシャツ、ハーフパンツ、ビルケンシュトックのサンダル、ってどうなの、それ!

「あれ、おかしい?」

「いやいや、9月入ったけどまだまだ夏だなぁ、っと思って」

かくゆう俺もTシャツにハーフパンツ、Tevaのサンダルとダルダルな格好してる。
これでも一応悩んだんだよ、デートだし。
だけど、暑いんだもん。

「暑くてケーキが全然売れない」

ティグさんが苦笑する。
でもその横顔には悲痛な感じはなかった。



俺たちはメイズに向かった。
デートに誘ったものの、それからどうしたらいいのか全然プランがなくて困っていたら、ティグさんに「メイズで買いたいものがあるから一緒に行ってくれる?」と言われた。

ショッピングモールの中に入るとクーラーが効いてて、すずしー!
すずしーよー!
思わず深呼吸しちゃうね。
メイズに行くと、店長さんが俺たちを見つけ軽く会釈をしてまた作業台に向いた。
あれは革に刻印しているのかも。

「ティグさん、なに買うんですか?」

「……うん。
あの、靖友くん、お願いがあるんだけど」

「はい」

「一緒に写真を撮ってもらえないかな。
その写真入れるフォトフレームをここで買いたいんだ」

あ。
俺はティグさんの手を引っ張って店の隅に行った。
ティグさんは不思議そうにしている。

「あ、あのっ」

声は上ずりながら、俺はティグさんの真正面に立って見上げ、真ん丸のかわいい目を見た。
ティグさんも視線をそらさずに俺を見つめてくれる。

「俺、ティグさんのことが好きです。
つ、つきあってください」

ドヤァ!
い、言ったぞ!
言いましたぞ!

とーちゃんとかーちゃんのあのお説教、事あるごとにされてたんです。
年上の相手を不安にさせないコツとかなんとか、いっぱい聞かされて、最後は2人のノロケになるんだけどさ。
まぁ、これは年は関係なく、「きちんと言葉と態度ではっきり示せ」ということらしいので、俺なりに頑張ってみましたが。
あれ、返事なし……?

「ぐわっ!」

ティグさんが抱きついてきた。

「俺が言おうと思ってたのに、先を越されちゃった。
ありがとう、靖友くん。
俺も好きです」

うっわーーーー!!!
うっわーーーーー!
うわーーーーー!!!

「靖友くん?」

「ティグさん、俺、初めて告白したらオッケーもらっちゃった!
嬉しいんだなぁ」

ぐふっ!
ちょ、力、強いです。
痛いです。
でも嬉しくて、俺も全力で抱きしめてみ……でかっ!ティグさん、でかっ!
腕、回らないじゃん。

それでもできる限りの力で抱きしめてみた。

こんなに嬉しくなるもんなんだなぁ。
そりゃ、藤堂があんなにかわいくなるはずだよ。





えへ。
えへへ。
えへへえへへ。
顔がにやついて元に戻りません。
お見せできない顔のまま、俺たちはフォトフレームが置いてある棚の前にきて、あれこれ見ている。

「ティグさん」

「ん?」

真剣に選んでいるティグさんの横で俺はぼそっと言う。

「ティグさんの部屋にある写真、あれ、捨てないでくださいね」

ティグさんとレネさんと元カレの写真。

「まだ捨てられないと思うんだ、なんとなく。
俺とつきあうことになったからといって、これまでのことがすぐに変わることはないと思うから。
それに」

そりゃ、見ると元カレもルーポのことも思い出しちゃってむかむかしちゃうけど。
ティグさんのこれまでを俺がどうすることもできないし。

「あの写真のティグさん、かわいいから」

20代前半くらいの、まだ子どもっぽさが残るティグさんはかわいい。

「ありがとう。
あの写真はね、上のクローゼットにしまったよ。
だから新しい写真が飾りたいんだ。
靖友くんと一緒に撮った写真」

「うん」

えへ。
えへへ。
えへへえへへ。
照れるなぁ。嬉しいなぁ。

ティグさんの部屋に合うフレーム、どれかなぁ。
ティグさんに合うフレーム、どれかなぁ。


ティグさんはメタルのフレームを見ていたけど、俺はなんとなく違うものを見ていた。
それは革製だった。
ブック型の写真が2枚入る、ぱたんと折りたためるやつ。
なにかの映画か海外ドラマで似たようなものを見たんだ。
新しいオフィスにやってきた敏腕サラリーマンが、新しい自分の机に座り、鞄からいろいろ取り出して準備をするんだけど、その写真立てを取り出し、広げて置くんだ。
中には奥さんと二人で撮った写真と、娘さんも入った三人で撮った写真の2枚が入っていて、愛おしそうに指でなぞった後、「よしやるぞ!」と問題山積みの仕事に取り掛かる。

「それが気になるの?」

ティグさんに聞かれ、「うん」と答える。

「これならどこでも持って行けそうだから」

と言ったあと、なんだかすごく照れてしまった。
今の時代、スマホに画像つっこんでおけばいいじゃん。

「ね、同じの買ったら靖友くんも持ってくれる?」

「あ、はい」

「じゃあ、聞いてみよう」

あ、あれ?
俺、またティグさんとおそろいのもの、持っちゃうの?
ティグさんは嬉しそうに革のフレームを大事そうに手に取ると作業台の店長さんのところに向かった。
その手つきが、レークスでお客さんにケーキを手渡すときに似ていて、俺はどきりとした。

ティグさんの話を聞いた店長さんは「一点物だから『似たようなもの』になってしまいますが」と同じようなフレームをバックヤードから持ってきてくれた。
「いいね!」とティグさんは気に入ったようだ。

「もしよろしければ、名前の刻印ができますよ」
と店長さんは刻印ができる数か所を指で差した。
なんなの?
店長さんも俺たちがおそろいのものを持つの賛成してるの?

「入れてもらおうよ、靖友くん」

「う、うん」


結局、元親とティグレで「M & T」とそれぞれのフレームの隅に刻印をしてもらって、俺たちはメイズを出た。




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