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Kyrie

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007. あなたの太陽俺の月(1)

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正月気分のまま冬休みが明け、気がつけばあっという間に1月が終わっちゃう。
大人になるともっと時間が過ぎるのが早くなる、って言うけど、俺、このまんまじゃすぐにじーちゃんになってしまうんじゃないかな。
いやいや、まだまだこーこーせーかつ楽しませて~!!
が、その楽しい楽しいこーこーせーかつを維持するには、倒さなければならない敵がいる。
それは……学年末テストだーー!!

てなことを昼休みに藤堂に向かって、舞台俳優のように熱演していたのに、クールな藤堂クンは、
「あ、靖友くん、ティグが今度の金曜日、レークスに来られる?って。
よかったら晩ご飯もご馳走してくれるみたい。
どうする?」
と、スマホをいじりながら言った。
ちょっと、俺の渾身の演技、見てなかったの?

「でも意外だな。
靖友くんとティグ、連絡先交換してなかったんだ」

「ん?」

「てっきり知ってるもんだと思ったんだけど」

必要ないじゃん?

「それで、どうする?」

「なんの用かな?」

俺はパティシエのティグさんを思い浮かべる。
昨年末のクリスマスケーキの時期に藤堂が名乗り出たティグさんとレネさんの食事係の騒動、バイト代のプレゼントの買い物、初詣、と4人でわいわい会ったけど、それきりだ。
飄々としているようで、実はとても繊細な人。
なにかあったかな。

「あ、行くって返事して。
晩ご飯も遠慮なくご馳走になります」

「んー」

藤堂は返事を入力している。

「いいなぁ、ティグのご飯、おいしいもん」

「うん」

「じゃあ、金曜日、一緒にレークスに行こう」

「ん、さんきゅ」

そう返事をし、俺たちは5時間目がある理科室へ教科書とノートを持って向かった。






2月最初の金曜日、学校帰りに俺は藤堂とレークスを訪れた。
この白い店を見るたびに、俺は白い家ばかりが建ち並ぶギリシャの島を思い出す。
海からの目印のため真っ白にしてある、とネットで読んだような気がするけど、レークスもとても目立っている。

「やあ、いらっしゃい」

レジの中にいたティグさんが声をかけてくれた。
藤堂はいつものように自分のかーちゃんのためにショーケースの前でケーキを選びだす。

「忙しい時期なのに、来てくれてありがとう」

「ご招待ありがとうございます」

ティグさんの言葉に、俺は昼の続きの舞台俳優のように芝居がかったお辞儀をしてみせると、ティグさんもそれに合わせて優雅にお辞儀をしてくれた。
まるで「お城でのダンスの前の挨拶」みたい。

「よく考えたら、仕事終わるまで待たせちゃうことになるんだけど、いいかな」

ティグさんは申し訳なさそうに言う。

「はい。宿題たっぷり出てるからそれをやっています」

「ほんとにごめんね。
じゃあ、上で待っててくれる?」

ティグさんはキーケースを取り出して俺に渡してくれた。
12月の騒動で勝手知ったるだけど。

「あ、靖友くん、上に行くの?」

そばでやり取りを聞いていた藤堂が聞いた。
うなずくと、「行く前に、こっちとあっち、どっちがいいと思う?これだけ決めていってー」と好きなことを言っている。
藤堂は毎週金曜日、かーちゃんの「1週間のご褒美」のためレークスのケーキを買って帰る、というお使いがあるのだ。
レークスのケーキで救われた、と断言しているかーちゃんに甘いとーちゃんが今日のケーキの出資者らしい。
俺もお会いしたことあるけど、素敵なご夫婦だった。
藤堂がおっとりで素直なのもよくわかる。
いい子に育ってくれて、とーさん嬉しいよ。

「俺に聞くなよー」と言いながら、俺はビターチョコがアクセントとプレートに書いてあるケーキを指さし「これ」と言った。



毎年、年明けからレークスはバレンタイン仕様になる。
ちょっと早い気もするけれど、チョコレート大好きなレネさんが1年で一番腕を振るう時期で、限定チョコケーキのファンや新作を心待ちにしているお客さんがいて、それでも期間が短い、と言われるくらいだって。

「靖友くんも、これ食べる?」

ティグさんが俺に聞く。

「待たせるお詫びにこれもご馳走するよ。
レネの新作だ。
あとで上に持っていってあげる」

「いいんですか?」と聞きながら、俺は顔がニヤつくのがわかった。
藤堂んちと比べ、俺がレークスのケーキを食べる機会は少ない。

「ありがとうございます」

俺がお礼を言うと、ティグさんはでっかいウィンクをして、「じゃ、後で」と厨房に引っ込んでいった。
代わりにレネさんが「真人ゥ!」と出てきた。
そして藤堂にがばっとハグしてほっぺたにちゅっとキスをした。
あー、はいはい。
他のもお客さんがいるけれど、恒例のことになっているので誰も何も言わず、微笑ましく見ている。

「すまないね、ケーキのデコレーションに手間取ってしまってなかなか表に出てこれなかったよ。
で、今日はどのケーキを選んだのかな。
ああ、いいね!」

レネさんがでれでれになって藤堂と話し始めた。

「藤堂、俺、行くわ」

「靖友くん、ありがとう。
じゃ、また来週」

「おう」


一旦店から出て、別の玄関から店の3階の住居部分に行った。
部屋の中は暖房が効かせてあった。
きっとティグさんがつけておいてくれたんだろう。
今日も寒かったもんなぁ。
俺はリビングのソファに鞄をどすんと置き、ダウンジャケットを脱いだ。

一息ついて、ダイニングのテーブルで宿題をしていると下から階段を上がる音がした。

「やあ、お待たせ」

新作チョコケーキの載った白い皿を持ってティグさんが入ってきた。

「お邪魔してまーす」

「どうぞ。
これ、ケーキね。
何飲む?」

「うーん、これにはコーヒーかなぁ?」

「ああ、俺もそっちのほうが合うと思うよ」

ティグさんがキッチンに入り、コーヒーの準備を始めた。
俺は宿題の手を止めて、ティグさんを見た。

「ん、なに?」

「いや、俺もティグさんみたいにコーヒーや紅茶が上手く淹れられるようになりたいなぁと思って見てます」

「くっくっくっ、ありがとう。
いつか教えてあげるね。
春休みなら、靖友くんも時間取りやすいかな」

「はい!」

ティグさんは俺のコーヒーだけきっちりと淹れると、また店に戻っていった。

俺は一人でケーキとコーヒーに向かった。







……うまかった。

一口食って、しみじみとケーキを見てしまった。
ケーキのこともチョコレートのこともよくわかっていない俺でも、レネさんのすごさを感じた。
自分がこのケーキとコーヒーに見合う大人じゃないとめちゃくちゃ思った。
なんだか完敗した気分だ。

チョコレートケーキだから、いつもよりレネさんの気迫が違うせいか、なんなのか。
いつもならこんなこと感じることはなかったのに、今回はなぜかこう思ってしまった。







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