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第61話 きり。だけ。 (2)
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なんということだ。
俺は寝坊してしまった。
気がついたら布団の隣は空っぽで、慌てて寝間着のまま厨房に走っていったら、なりあきさまがにこやかに「おはようございます、キヨノさん」とおっしゃった。
こんなの、初めてだ。
どうしたんだろう。なぜ目が覚めなかったのだろう。
「キヨノさん、私を助けてください。
湯が沸かしたいのですが、どうも勝手がわからなくて。
着替えたら湯を沸かしてください」
「は、はいっ、ただいま」
俺はまた駆け出した。
朝食はなりあきさまが小林さんの畑から取ってきたキュウリとトマト、それからゆで卵、パン。飲み物は紅茶。
それから立派なナスも収穫してあって、「じゃあ、これで味噌汁を作ってくださいね」となりあきさまがおっしゃった。
「あと、これ」
茶色い瓶を指さされた。
「シノの梅干です。今日の握り飯に入れてくださいね」
「は、はぁ」
なりあきさまはそのあともてきぱきと準備をされ、いってらっしゃいのキスはいつもより長かった。
もう終わるかな、と薄目を開けてみたら、まだ続いていて、なりあきさまの長いまつ毛が見えて、まずいっとぎゅっと目を強くつむったら、べろがぐいっと入ってきて、うわわわわとなってそのまま息ができなくなるくらい、ずっとしていた。
「いってらっしゃいませ」の言葉も、途切れとぎれになってしまったのに、なりあきさまは愉快そうに颯爽と自動車を運転して行ってしまわれた。
しばらくぽかんとしていたが、気を取り直して、昨日のようにできるだけのことを午前中にすませておくことにした。
なりあきさまはお昼前に戻っていらした。
昨日と同じように握り飯と味噌汁を昼に食べる。
「今夜のことは心配ありません。少しゆっくりしましょう」となりあきさまに言われ、また離れでごろんと横になる。
蚊遣りの匂いがする。
「キヨノさん」
「はい」
「つまらないですか」
「どうして」
「せっかくのお盆なのになにもして差し上げてないから」
「そんなことありません」
だって、二人きり。
「そうですか」
なりあきさまは微笑んで、俺のほっぺたをつるりとなでた。
「仕事、明日で終わりますからね。そうしたら、楽しいことをしましょう」
「はい」
なんだろう。楽しみだ。
気がついたらまた寝ていて、…ってあれ。
「なりあきさま?」
俺は畳の上から起き上がり、母屋へと行った。
「お、キヨノさん、元気そうだな」
「白洲様」
声のする客間を覗くと開襟の白いシャツが眩しい白洲さまがソファに座っていらした。
俺の顔を見るとなりあきさまとのお話を止めて、手招きをされるのでおそばに行った。
「お、寝てたな。ほっぺたに畳のあと」
白洲様は大きくて熱い手でぐりぐりと俺のほっぺたをいじる。
畳の、あと?
「ええっ」
思わずなりあきさまを見上げると、なりあきさまは笑っていらした。
「ええ、くっきりと」
ぎゃっ。
なりあきさまはくすくすと笑う。やめてください。
「白洲が葛饅頭を持ってきてくれましたよ。お茶を淹れましょう。お湯を沸かしてください」
「晩飯の弁当も持ってきましたよ、キヨノさん」
弁当?
「今夜はここに雲隠れするそうです。
いいのか、白洲。親族が集まっているのに、そうそう逃げられないだろう」
「俺は添え物だから、最初だけいれば大丈夫だよ。今だって抜け出しても何もいわれなかった。
そうだ、キヨノさん。うちの料理長が川崎に張り合って作った弁当だ、今晩は心して食ってくれ。
三条院、麦酒冷えてるか」
「ははははは、冷やしているよ。
キヨノさん、今晩は三人で食事です。にぎやかになりますよ」
「はぁ」
葛饅頭と熱い緑茶でおやつにし、白洲様も面白がって三人で風呂を沸かし、交代で早めに入ってさっぱりした。
白洲様が持ってきてくださった弁当は、豪勢だった。
大きな海老の煮たものが入っていたし、そうめん瓜のなますはしゃきしゃきとしてうまかった。
白洲様は豪快に笑いながら、なりあきさまと泡の出る苦い麦酒を何杯も飲み、弁当もあらかた食べると、茶色の洋酒を飲み始めた。
ちーずというひどいにおいのものをなりあきさまが用意してきた。
いくら勧められても俺は食べなかった。
なりあきさまが美味しそうに召し上がるのを見たことがあるが、やっぱり苦手なままだった。
こんなに楽しそうななりあきさまを見たのは、初めてかもしれない。
同い年でご学友というのは、気心が知れているのだろう。
ちょっと寂しいな。
「キヨノさん」
「あ。はい」
「つまらなかったか。すまないな、三条院とばかり話してしまって」
「いえ」
「久しぶりだったから、つい」
「お気遣いなく」
「申し訳ないが明日も頼む」
「明日?」
「ああ、すみません、キヨノさん。まだお話していなくて」
なりあきさまが赤い顔をしてこちらを見ていた。
そんなに熱い視線でこちらを見ないでください。
白洲様もいらっしゃることだし。
「明日は花火大会に行きますよ」
花火?
「明日で私もお役御免です。やっと休みだ。
白洲が屋形船に招待してくれました。
勝手に受けてしまいましたが、いいでしょう?」
「屋形船?」
「川から花火を見ましょう。
やあ、久しぶりだなぁ」
はしゃぐなりあきさまを俺はぼんやり見ていた。
黒須様と櫻子様も招待されていたけど、なりあきさまが譲った温泉旅行に出かけてしまわれたのでまたこの三人で、浴衣を着て、屋形船から花火を見るのだという。
「仕出しは|渡部<わたべ>だそうですよ」
「?」
「うまいぞう、キヨノさん。
最後の茶蕎麦がまたいい。
きっと気に入る」
え。
白洲様はがははと笑いながら、俺を見ている。
「お邪魔虫なのはわかっているが、来てくれないか。
キヨノさんと三条院が来ないと、屋形船に俺ひとりだ」
「花火も綺麗ですよ、キヨノさん」
「そんなに気を遣わなくても、俺は…」
「来てほしい」
「はぁ」
白洲様の強い誘いに負けた。
打上花火は見たことがない。
お二人で「後悔はさせないから」と強く強く言われた。
随分酔ってらっしゃるなぁ。
白洲様が迎えの車でお帰りになられたあと、軽く汗を流し、俺はなりあきさまに手を引かれ、そして蚊帳に入った。
布団に横になるとぐいっと抱き寄せられた。
「キヨノさん」
「は」
い、を言う前に唇を塞がれた。
今晩もまた、なりあきさまと二人だけになった。
「いいこと、しましょうか」
酒くさい息で囁かれる。
「な、に?」
もっと引き寄せられ、腰と腰を密着させる。
うっ?!
「気持ちよくなる、こと」
「ふぇ」
あの、この、あれ、それ。
「怖い、ですか?」
冷静な、沈んだ声。
俺の太腿に当たっているのは、なりあきさまの。
実のところ、昨日のキスは気持ちよすぎて、参った。
多分、反応していた。
そして、おそらく、今も。
……あ
なりあきさまの手が、俺の寝間着の裾を割り、膝小僧にふれてくる。
「いや?」
びくんと身体が動いた。
手はそっと足の内側にふれた。
「おいやですか?」
俺は首を小さく横に振った。
「怖い?」
ううん。
「さわりっこするだけです。
それ以上はしないから」
すくいとられるように唇が重なり、なりあきさまのべろが俺の口の中に入ってきて。同時に手が上のほうに上がってきて。
唇を塞がれたまま声が出て「うーうー」言ってしまう。
だって、なりあきさまの手が、褌にかかって。
横から取り出して。
「うぅっ」
直接握られた。
「熱い、ですね。
そしてちょっとだけ硬くなってる」
「やだ」
「いや?」
「言われるの、いやだ」
「黙っていたらいい?」
「あぁんっ」
なりあきさまの手の動きに妙な声を上げてしまった。
思わず両手で口を塞ぐ。
「ね、キヨノさん。今、この屋敷にいるのはだぁれ?」
「え…。なりあきさまと俺」
「そう、二人。二人きり」
ちゅっ
「声、我慢しないで」
「で、でも」
「そして私のもさわってください」
手首を取られ、気がついたら外に出されている、さっき俺に当たっていた……
「あつ」
「だから、ね。溜めておくとよくないですから」
「で、でも俺、全然」
「キヨノさんの身体が調ってきたんですよ。
すみません、私のせいで」
「いや、それは」
「もう貴方を傷つけたくない。
でも、貴方と熱くなりたい」
なりあきさまのと俺のとを一緒に握らされていた。
そんなこと、耳のそばで囁かないで。
暑いのは、夏だから。
「だめですか」
そんなこと聞かれても。
答えに詰まっていると、なりあきさまの目が赤紫に光り、にやりと笑った。
暁様……?
と思った途端、なりあきさまの眉間にしわが寄り、ぐっと目に力が込められた。
すると目の中で青い炎が勢いよく燃え上がり、紫色が消し飛び、青く輝いた。
「はぅっ」
綺麗に光る青い目に見とれていたら、手を動かされ、声が出た。
「や。あっ、あっ」
「いや、ですか?」
だから耳のそば、だめ。息、当たってる。
「私は、っ、ぁ、気持ちいい、ですよ」
熱い……
「っう」
唇もとらわれる。
そんなに動かしたら、あ。
『キヨノさん』
なりあきさ、ま。熱い、熱い。
『キヨノ、さん』
どうしよう、俺。どうしよう。
「気持ち、いい?」
うん。うん。
「ふああ、んんっ、あっ、あっ、んぅ」
硬くなってぬるぬるして。
手に力入らない。
「私につかまっていて」
俺はなりあきさまの寝間着の襟をつかむ。
「熱い、キヨノさん」
「お、れも」
どれくらいぶりだろう、こういうことをするのは。
身体が弱ってからはこういう感じに一切ならなかったのに。
なりあきさまのおっしゃるように、身体が元に戻っているのだろうか。
それは喜ばしいことなんだろうけど。
でも、これは、ちょっと。
なりあきさまの大きな手と、なりあきさまの太いあれとをあらぬところで感じている。
自分が自分でどうしようもなくて、気がついたら声を出しながら、腰を激しく振っていた。
息ができなくなるほど、キスをされ、なりあきさまに名前をたくさん呼ばれた。
そして、弾けたのを最後にその夜の記憶はない。
***
うえええっ!
すっかり明るい。
隣りを見ると、布団はもぬけの殻。
俺は今日も寝過ごしてしまった。
どうしてだ。
昨日と同じように、俺は寝間着のまま厨房に走ってい……
え。
途中、開けられた窓から見えた物干し場。
そこにひらめいているのは……
俺の
褌
あまりのことに力が抜け、俺は廊下にへたりこんでしまった。
『たくさん出ましたね。まだ、出るかな』
不意になりあきさまの声がよみがえる。
褌も寝間着も濡らした感触もある。
俺、パジャマ着てる。
多分、この感じだと洋風の下着をはいて、いる。
考えられることは、ひとつ。
あのあと、なりあきさまは俺を着替えさせて、汚れ物を洗濯した、ってことだ。
「キヨノさーん。
キヨノさーん?」
「あれ、さっき起きた音がしたと思ったんだけど。
キヨノさーん、そろそろ起きてお湯を沸かしてくださーい。
私、遅れてしまいますー」
「キヨノさーん?」
きり。だけ。 <了>
俺は寝坊してしまった。
気がついたら布団の隣は空っぽで、慌てて寝間着のまま厨房に走っていったら、なりあきさまがにこやかに「おはようございます、キヨノさん」とおっしゃった。
こんなの、初めてだ。
どうしたんだろう。なぜ目が覚めなかったのだろう。
「キヨノさん、私を助けてください。
湯が沸かしたいのですが、どうも勝手がわからなくて。
着替えたら湯を沸かしてください」
「は、はいっ、ただいま」
俺はまた駆け出した。
朝食はなりあきさまが小林さんの畑から取ってきたキュウリとトマト、それからゆで卵、パン。飲み物は紅茶。
それから立派なナスも収穫してあって、「じゃあ、これで味噌汁を作ってくださいね」となりあきさまがおっしゃった。
「あと、これ」
茶色い瓶を指さされた。
「シノの梅干です。今日の握り飯に入れてくださいね」
「は、はぁ」
なりあきさまはそのあともてきぱきと準備をされ、いってらっしゃいのキスはいつもより長かった。
もう終わるかな、と薄目を開けてみたら、まだ続いていて、なりあきさまの長いまつ毛が見えて、まずいっとぎゅっと目を強くつむったら、べろがぐいっと入ってきて、うわわわわとなってそのまま息ができなくなるくらい、ずっとしていた。
「いってらっしゃいませ」の言葉も、途切れとぎれになってしまったのに、なりあきさまは愉快そうに颯爽と自動車を運転して行ってしまわれた。
しばらくぽかんとしていたが、気を取り直して、昨日のようにできるだけのことを午前中にすませておくことにした。
なりあきさまはお昼前に戻っていらした。
昨日と同じように握り飯と味噌汁を昼に食べる。
「今夜のことは心配ありません。少しゆっくりしましょう」となりあきさまに言われ、また離れでごろんと横になる。
蚊遣りの匂いがする。
「キヨノさん」
「はい」
「つまらないですか」
「どうして」
「せっかくのお盆なのになにもして差し上げてないから」
「そんなことありません」
だって、二人きり。
「そうですか」
なりあきさまは微笑んで、俺のほっぺたをつるりとなでた。
「仕事、明日で終わりますからね。そうしたら、楽しいことをしましょう」
「はい」
なんだろう。楽しみだ。
気がついたらまた寝ていて、…ってあれ。
「なりあきさま?」
俺は畳の上から起き上がり、母屋へと行った。
「お、キヨノさん、元気そうだな」
「白洲様」
声のする客間を覗くと開襟の白いシャツが眩しい白洲さまがソファに座っていらした。
俺の顔を見るとなりあきさまとのお話を止めて、手招きをされるのでおそばに行った。
「お、寝てたな。ほっぺたに畳のあと」
白洲様は大きくて熱い手でぐりぐりと俺のほっぺたをいじる。
畳の、あと?
「ええっ」
思わずなりあきさまを見上げると、なりあきさまは笑っていらした。
「ええ、くっきりと」
ぎゃっ。
なりあきさまはくすくすと笑う。やめてください。
「白洲が葛饅頭を持ってきてくれましたよ。お茶を淹れましょう。お湯を沸かしてください」
「晩飯の弁当も持ってきましたよ、キヨノさん」
弁当?
「今夜はここに雲隠れするそうです。
いいのか、白洲。親族が集まっているのに、そうそう逃げられないだろう」
「俺は添え物だから、最初だけいれば大丈夫だよ。今だって抜け出しても何もいわれなかった。
そうだ、キヨノさん。うちの料理長が川崎に張り合って作った弁当だ、今晩は心して食ってくれ。
三条院、麦酒冷えてるか」
「ははははは、冷やしているよ。
キヨノさん、今晩は三人で食事です。にぎやかになりますよ」
「はぁ」
葛饅頭と熱い緑茶でおやつにし、白洲様も面白がって三人で風呂を沸かし、交代で早めに入ってさっぱりした。
白洲様が持ってきてくださった弁当は、豪勢だった。
大きな海老の煮たものが入っていたし、そうめん瓜のなますはしゃきしゃきとしてうまかった。
白洲様は豪快に笑いながら、なりあきさまと泡の出る苦い麦酒を何杯も飲み、弁当もあらかた食べると、茶色の洋酒を飲み始めた。
ちーずというひどいにおいのものをなりあきさまが用意してきた。
いくら勧められても俺は食べなかった。
なりあきさまが美味しそうに召し上がるのを見たことがあるが、やっぱり苦手なままだった。
こんなに楽しそうななりあきさまを見たのは、初めてかもしれない。
同い年でご学友というのは、気心が知れているのだろう。
ちょっと寂しいな。
「キヨノさん」
「あ。はい」
「つまらなかったか。すまないな、三条院とばかり話してしまって」
「いえ」
「久しぶりだったから、つい」
「お気遣いなく」
「申し訳ないが明日も頼む」
「明日?」
「ああ、すみません、キヨノさん。まだお話していなくて」
なりあきさまが赤い顔をしてこちらを見ていた。
そんなに熱い視線でこちらを見ないでください。
白洲様もいらっしゃることだし。
「明日は花火大会に行きますよ」
花火?
「明日で私もお役御免です。やっと休みだ。
白洲が屋形船に招待してくれました。
勝手に受けてしまいましたが、いいでしょう?」
「屋形船?」
「川から花火を見ましょう。
やあ、久しぶりだなぁ」
はしゃぐなりあきさまを俺はぼんやり見ていた。
黒須様と櫻子様も招待されていたけど、なりあきさまが譲った温泉旅行に出かけてしまわれたのでまたこの三人で、浴衣を着て、屋形船から花火を見るのだという。
「仕出しは|渡部<わたべ>だそうですよ」
「?」
「うまいぞう、キヨノさん。
最後の茶蕎麦がまたいい。
きっと気に入る」
え。
白洲様はがははと笑いながら、俺を見ている。
「お邪魔虫なのはわかっているが、来てくれないか。
キヨノさんと三条院が来ないと、屋形船に俺ひとりだ」
「花火も綺麗ですよ、キヨノさん」
「そんなに気を遣わなくても、俺は…」
「来てほしい」
「はぁ」
白洲様の強い誘いに負けた。
打上花火は見たことがない。
お二人で「後悔はさせないから」と強く強く言われた。
随分酔ってらっしゃるなぁ。
白洲様が迎えの車でお帰りになられたあと、軽く汗を流し、俺はなりあきさまに手を引かれ、そして蚊帳に入った。
布団に横になるとぐいっと抱き寄せられた。
「キヨノさん」
「は」
い、を言う前に唇を塞がれた。
今晩もまた、なりあきさまと二人だけになった。
「いいこと、しましょうか」
酒くさい息で囁かれる。
「な、に?」
もっと引き寄せられ、腰と腰を密着させる。
うっ?!
「気持ちよくなる、こと」
「ふぇ」
あの、この、あれ、それ。
「怖い、ですか?」
冷静な、沈んだ声。
俺の太腿に当たっているのは、なりあきさまの。
実のところ、昨日のキスは気持ちよすぎて、参った。
多分、反応していた。
そして、おそらく、今も。
……あ
なりあきさまの手が、俺の寝間着の裾を割り、膝小僧にふれてくる。
「いや?」
びくんと身体が動いた。
手はそっと足の内側にふれた。
「おいやですか?」
俺は首を小さく横に振った。
「怖い?」
ううん。
「さわりっこするだけです。
それ以上はしないから」
すくいとられるように唇が重なり、なりあきさまのべろが俺の口の中に入ってきて。同時に手が上のほうに上がってきて。
唇を塞がれたまま声が出て「うーうー」言ってしまう。
だって、なりあきさまの手が、褌にかかって。
横から取り出して。
「うぅっ」
直接握られた。
「熱い、ですね。
そしてちょっとだけ硬くなってる」
「やだ」
「いや?」
「言われるの、いやだ」
「黙っていたらいい?」
「あぁんっ」
なりあきさまの手の動きに妙な声を上げてしまった。
思わず両手で口を塞ぐ。
「ね、キヨノさん。今、この屋敷にいるのはだぁれ?」
「え…。なりあきさまと俺」
「そう、二人。二人きり」
ちゅっ
「声、我慢しないで」
「で、でも」
「そして私のもさわってください」
手首を取られ、気がついたら外に出されている、さっき俺に当たっていた……
「あつ」
「だから、ね。溜めておくとよくないですから」
「で、でも俺、全然」
「キヨノさんの身体が調ってきたんですよ。
すみません、私のせいで」
「いや、それは」
「もう貴方を傷つけたくない。
でも、貴方と熱くなりたい」
なりあきさまのと俺のとを一緒に握らされていた。
そんなこと、耳のそばで囁かないで。
暑いのは、夏だから。
「だめですか」
そんなこと聞かれても。
答えに詰まっていると、なりあきさまの目が赤紫に光り、にやりと笑った。
暁様……?
と思った途端、なりあきさまの眉間にしわが寄り、ぐっと目に力が込められた。
すると目の中で青い炎が勢いよく燃え上がり、紫色が消し飛び、青く輝いた。
「はぅっ」
綺麗に光る青い目に見とれていたら、手を動かされ、声が出た。
「や。あっ、あっ」
「いや、ですか?」
だから耳のそば、だめ。息、当たってる。
「私は、っ、ぁ、気持ちいい、ですよ」
熱い……
「っう」
唇もとらわれる。
そんなに動かしたら、あ。
『キヨノさん』
なりあきさ、ま。熱い、熱い。
『キヨノ、さん』
どうしよう、俺。どうしよう。
「気持ち、いい?」
うん。うん。
「ふああ、んんっ、あっ、あっ、んぅ」
硬くなってぬるぬるして。
手に力入らない。
「私につかまっていて」
俺はなりあきさまの寝間着の襟をつかむ。
「熱い、キヨノさん」
「お、れも」
どれくらいぶりだろう、こういうことをするのは。
身体が弱ってからはこういう感じに一切ならなかったのに。
なりあきさまのおっしゃるように、身体が元に戻っているのだろうか。
それは喜ばしいことなんだろうけど。
でも、これは、ちょっと。
なりあきさまの大きな手と、なりあきさまの太いあれとをあらぬところで感じている。
自分が自分でどうしようもなくて、気がついたら声を出しながら、腰を激しく振っていた。
息ができなくなるほど、キスをされ、なりあきさまに名前をたくさん呼ばれた。
そして、弾けたのを最後にその夜の記憶はない。
***
うえええっ!
すっかり明るい。
隣りを見ると、布団はもぬけの殻。
俺は今日も寝過ごしてしまった。
どうしてだ。
昨日と同じように、俺は寝間着のまま厨房に走ってい……
え。
途中、開けられた窓から見えた物干し場。
そこにひらめいているのは……
俺の
褌
あまりのことに力が抜け、俺は廊下にへたりこんでしまった。
『たくさん出ましたね。まだ、出るかな』
不意になりあきさまの声がよみがえる。
褌も寝間着も濡らした感触もある。
俺、パジャマ着てる。
多分、この感じだと洋風の下着をはいて、いる。
考えられることは、ひとつ。
あのあと、なりあきさまは俺を着替えさせて、汚れ物を洗濯した、ってことだ。
「キヨノさーん。
キヨノさーん?」
「あれ、さっき起きた音がしたと思ったんだけど。
キヨノさーん、そろそろ起きてお湯を沸かしてくださーい。
私、遅れてしまいますー」
「キヨノさーん?」
きり。だけ。 <了>
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