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第63話 できるなら溶けて
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冬の寒い夜。
12月になってぐっと冷えが増している。
俺は夕食の片づけを川崎さんたちと終え、ソファで本を読んでいらっしゃるなりあき様のところに行った。
「あの…、なりあき様」
「どうしました、キヨノさん?」
なりあき様は本から目を離し、俺を見る。
「そんな思い詰めたお顔をして。どうされました?」
「あの…、俺、和室で寝たいです」
「和室?おひとりで?」
俺は首を横にぶんぶんと振った。
「私も一緒に?」
「……はい」
恥ずかしくて俯く。
目の端で、なりあき様が綺麗な金の模様の描かれたしおりを本に挟むのが見えた。
「いいですよ。
でも、本当に和室ですか?
私たちの寝室なら暖炉で暖かくしています。
和室は今から火鉢を入れてもそんなに温もりませんが」
「……それでも…いいで…す」
「布団の中に湯たんぽを入れて温めておきましょう」
「ああ、中川、そうしてくれ」
「かしこまりました、旦那様」
「急なことですみません、なりあき様、中川さん。
俺も手伝います」
中川さんは笑って俺を制した。
「キヨノさんは旦那様のおそばにいてください。
ずっとお待ちだったんですよ」
「さあ、キヨノさん。
隣りに座って今日あったことをお話ください。
今日はジェイコブズと勉強の日でしたね」
「はい」
俺はなりあき様の隣に座り、今日のジェイコブズ先生との勉強について話し始めた。
中川さんは音もなくそっと、お部屋から出ていった。
***
なりあき様に手を引かれ和室に行くと大きな布団が敷いてあった。
いつの間にか二人で寝てものびのびと寝られるくらいの布団が新調されていたのを知ったのは、秋のことだった。
燭台の明かりがあるうちに先に俺が布団に入り、ろうそくを消したなりあき様があとから入ってこられた。
あったかい。
廊下は冷えていたので、湯たんぽで温められていた布団はありがたかった。
そして、俺はなりあき様に身を寄せた。
「キヨノさん?」
ん、なりあき様、あったかくて気持ちいい。
「どうしたんですか?」
ふふふ、耳元で囁かれてくすぐったい。
「なりあき様、気持ちいい」
俺は嬉しくなってなりあき様にくっついて、お袖に鼻を埋めると「はぁ」と息を吐いた。
「ふふふ。キヨノさんが甘えてくださるのは嬉しいです」
えへへ。
なりあき様の手が動いて耳から耳の下、かくんとなった顎の骨を通り、首をなでていく。
「ん」
「気持ちいい?」
うん。俺がうなずくとなりあき様はまた小さく笑った。
「もうちょっと、いいですか?」
「ん」
返事をすると、なりあき様の手が白い寝間着の袷から差し入れられた。
「ぁ」
そのまま鎖骨、胸、腹、そして臍をゆっくりとなでていく。
「…んっ」
「ん?」
「……っはぁ」
「色っぽい声を出すんですね。気持ちいい?」
「うん」
「よかった」
なりあき様のてのひらは、ゆっくり味わうように、さらりと滑るように、俺を確認するように俺の上を進む。
たまに脇を通り背中まで行き、背骨を確かめるように進む。
肩甲骨の形をなぞり、肩の後ろを大きく包み、そしてまた脇を通って胸に帰ってくる。
しばらくの間なりあき様に身体をなで回され、俺はくったりしてしまった。
「あ、今度は俺」
「ん、なに?」
俺はなりあき様の寝間着の袷から手を挿し込んだ。
ちょっと汗ばんだ肌にふれた。
「ひゅっ」
「なんて声出してるの?気持ち悪い?」
「ううん。びっくりした。なりあき様の身体、気持ちいい」
「なに言って……っぁんっ」
え、今の声、なに?
指に当たった粒は……
それをつまんでみると、なりあき様の聞いたことないような声がまた聞こえた。
「ふぇっ」
「キヨノさん、いい加減に…っん」
「なりあき様の声、色っぽい。もっと聞きたい」
「もうそこはだめ」
「でも」
「私はさわらないで差し上げたのに、貴方は続けるの?」
「おいやですか?」
「自分が止まらなくなりそうだから、ね」
「あそこさわらなかったら、もう少し、いいですか」
「それなら、どうぞ。キヨノさんの手は気持ちいいですから」
俺はなりあき様のぼこぼこした腹筋や肋骨、鎖骨などをなでている。
気持ちいいけど……ちょっとつまらない。
えい。
「っ!
キヨノさん」
強めの声がした。
「ごめんなさい」
僕は袷から手を抜いた。
「とんだいたずらさんだ。
私もそこ、さわってみましょうか」
「え、いやです」
なりあき様は大きな溜息をついた。
「貴方という人は。なら、こうしてやる」
俺はなりあき様にぐぐっと抱き寄せられ、力いっぱい抱きしめられる。
ぐっ。
「キスしてもいいですか」
「あの苦し」
「いいですか」
「離し」
「いいですか」
「……はぃ」
腕の力が緩んだぶん、呼吸は楽になったがなりあき様に唇を塞がれ、そしてまた手が袷から入ってきて、俺の身体をなでていく。
どうしてこの人の手はこんなに気持ちいいんだろう。
もっと近くにいさせて。
もっともっと。
最近、寂しいんです。
なりあき様ともっと一緒にいたい。
二人でいたい。
もっと近くにいたい。
できるなら溶けて一緒になりたい。
頭がぽぅっとなってきた……
どれくらいキスをしていたのか。
なんだかくるくる回ってとろんとなって、力が入らなくなってきた……
というところでやっと、唇が離された。
「明日、お休みですからゆっくり寝ましょうか」
「んっ、明日?!」
俺は正気に戻る。
「いえ、なりあき様はゆっくり起きてください。
俺はいつもどおりに起きます」
「え、どうして」
「川崎さんとかぶの酢漬けを作るんです。
今日、小林さんが畑で収穫してくださったのと、藤代さんが安かったからとたくさん買ってこられて。
明日はなりあき様のために凝った西洋料理を作るからその前に仕込むと言われたので」
「かぶ」
「なりあき様、かぶの酢漬け、お好きですよね。
柚子の皮が入ったのがお好きなんでしょう。
中川さんからお聞きしました。
楽しみにしていてくださいね。
すっかり忘れてた。早く寝ないと」
「……キヨノさん」
「……はい?」
「貴方の伴侶は誰ですか」
え。なんだ突然。
「なりあき様です」
「……忘れないでくださいね」
「はぁ」
俺、そんなに忘れっぽくないと思うけど。
「キヨノさん」
「はい」
「もう少しこのまま貴方を抱きしめていてもいいですか」
「…苦しくなければ」
「これくらいは?」
「はい、大丈夫です」
「そうですか」
「じゃあ、俺も。苦しくないですか」
「ふふふ、嬉しいです」
俺はなりあき様を。なりあき様は俺を。ぎゅうっと抱きしめ目を閉じた。
んはぁぁ。
やっぱり気持ちいい。
なりあき様のおそばは気持ちいいなぁ。
安心する。
12月になってぐっと冷えが増している。
俺は夕食の片づけを川崎さんたちと終え、ソファで本を読んでいらっしゃるなりあき様のところに行った。
「あの…、なりあき様」
「どうしました、キヨノさん?」
なりあき様は本から目を離し、俺を見る。
「そんな思い詰めたお顔をして。どうされました?」
「あの…、俺、和室で寝たいです」
「和室?おひとりで?」
俺は首を横にぶんぶんと振った。
「私も一緒に?」
「……はい」
恥ずかしくて俯く。
目の端で、なりあき様が綺麗な金の模様の描かれたしおりを本に挟むのが見えた。
「いいですよ。
でも、本当に和室ですか?
私たちの寝室なら暖炉で暖かくしています。
和室は今から火鉢を入れてもそんなに温もりませんが」
「……それでも…いいで…す」
「布団の中に湯たんぽを入れて温めておきましょう」
「ああ、中川、そうしてくれ」
「かしこまりました、旦那様」
「急なことですみません、なりあき様、中川さん。
俺も手伝います」
中川さんは笑って俺を制した。
「キヨノさんは旦那様のおそばにいてください。
ずっとお待ちだったんですよ」
「さあ、キヨノさん。
隣りに座って今日あったことをお話ください。
今日はジェイコブズと勉強の日でしたね」
「はい」
俺はなりあき様の隣に座り、今日のジェイコブズ先生との勉強について話し始めた。
中川さんは音もなくそっと、お部屋から出ていった。
***
なりあき様に手を引かれ和室に行くと大きな布団が敷いてあった。
いつの間にか二人で寝てものびのびと寝られるくらいの布団が新調されていたのを知ったのは、秋のことだった。
燭台の明かりがあるうちに先に俺が布団に入り、ろうそくを消したなりあき様があとから入ってこられた。
あったかい。
廊下は冷えていたので、湯たんぽで温められていた布団はありがたかった。
そして、俺はなりあき様に身を寄せた。
「キヨノさん?」
ん、なりあき様、あったかくて気持ちいい。
「どうしたんですか?」
ふふふ、耳元で囁かれてくすぐったい。
「なりあき様、気持ちいい」
俺は嬉しくなってなりあき様にくっついて、お袖に鼻を埋めると「はぁ」と息を吐いた。
「ふふふ。キヨノさんが甘えてくださるのは嬉しいです」
えへへ。
なりあき様の手が動いて耳から耳の下、かくんとなった顎の骨を通り、首をなでていく。
「ん」
「気持ちいい?」
うん。俺がうなずくとなりあき様はまた小さく笑った。
「もうちょっと、いいですか?」
「ん」
返事をすると、なりあき様の手が白い寝間着の袷から差し入れられた。
「ぁ」
そのまま鎖骨、胸、腹、そして臍をゆっくりとなでていく。
「…んっ」
「ん?」
「……っはぁ」
「色っぽい声を出すんですね。気持ちいい?」
「うん」
「よかった」
なりあき様のてのひらは、ゆっくり味わうように、さらりと滑るように、俺を確認するように俺の上を進む。
たまに脇を通り背中まで行き、背骨を確かめるように進む。
肩甲骨の形をなぞり、肩の後ろを大きく包み、そしてまた脇を通って胸に帰ってくる。
しばらくの間なりあき様に身体をなで回され、俺はくったりしてしまった。
「あ、今度は俺」
「ん、なに?」
俺はなりあき様の寝間着の袷から手を挿し込んだ。
ちょっと汗ばんだ肌にふれた。
「ひゅっ」
「なんて声出してるの?気持ち悪い?」
「ううん。びっくりした。なりあき様の身体、気持ちいい」
「なに言って……っぁんっ」
え、今の声、なに?
指に当たった粒は……
それをつまんでみると、なりあき様の聞いたことないような声がまた聞こえた。
「ふぇっ」
「キヨノさん、いい加減に…っん」
「なりあき様の声、色っぽい。もっと聞きたい」
「もうそこはだめ」
「でも」
「私はさわらないで差し上げたのに、貴方は続けるの?」
「おいやですか?」
「自分が止まらなくなりそうだから、ね」
「あそこさわらなかったら、もう少し、いいですか」
「それなら、どうぞ。キヨノさんの手は気持ちいいですから」
俺はなりあき様のぼこぼこした腹筋や肋骨、鎖骨などをなでている。
気持ちいいけど……ちょっとつまらない。
えい。
「っ!
キヨノさん」
強めの声がした。
「ごめんなさい」
僕は袷から手を抜いた。
「とんだいたずらさんだ。
私もそこ、さわってみましょうか」
「え、いやです」
なりあき様は大きな溜息をついた。
「貴方という人は。なら、こうしてやる」
俺はなりあき様にぐぐっと抱き寄せられ、力いっぱい抱きしめられる。
ぐっ。
「キスしてもいいですか」
「あの苦し」
「いいですか」
「離し」
「いいですか」
「……はぃ」
腕の力が緩んだぶん、呼吸は楽になったがなりあき様に唇を塞がれ、そしてまた手が袷から入ってきて、俺の身体をなでていく。
どうしてこの人の手はこんなに気持ちいいんだろう。
もっと近くにいさせて。
もっともっと。
最近、寂しいんです。
なりあき様ともっと一緒にいたい。
二人でいたい。
もっと近くにいたい。
できるなら溶けて一緒になりたい。
頭がぽぅっとなってきた……
どれくらいキスをしていたのか。
なんだかくるくる回ってとろんとなって、力が入らなくなってきた……
というところでやっと、唇が離された。
「明日、お休みですからゆっくり寝ましょうか」
「んっ、明日?!」
俺は正気に戻る。
「いえ、なりあき様はゆっくり起きてください。
俺はいつもどおりに起きます」
「え、どうして」
「川崎さんとかぶの酢漬けを作るんです。
今日、小林さんが畑で収穫してくださったのと、藤代さんが安かったからとたくさん買ってこられて。
明日はなりあき様のために凝った西洋料理を作るからその前に仕込むと言われたので」
「かぶ」
「なりあき様、かぶの酢漬け、お好きですよね。
柚子の皮が入ったのがお好きなんでしょう。
中川さんからお聞きしました。
楽しみにしていてくださいね。
すっかり忘れてた。早く寝ないと」
「……キヨノさん」
「……はい?」
「貴方の伴侶は誰ですか」
え。なんだ突然。
「なりあき様です」
「……忘れないでくださいね」
「はぁ」
俺、そんなに忘れっぽくないと思うけど。
「キヨノさん」
「はい」
「もう少しこのまま貴方を抱きしめていてもいいですか」
「…苦しくなければ」
「これくらいは?」
「はい、大丈夫です」
「そうですか」
「じゃあ、俺も。苦しくないですか」
「ふふふ、嬉しいです」
俺はなりあき様を。なりあき様は俺を。ぎゅうっと抱きしめ目を閉じた。
んはぁぁ。
やっぱり気持ちいい。
なりあき様のおそばは気持ちいいなぁ。
安心する。
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