地味子が悪役令嬢を破滅させる逆転物語

日本のスターリン

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18章 林間学校

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「らんららん!らんららん!」

 城之内が林間学校の移動バスの窓辺で自慢の長い赤髪を大きく靡かせながら、鼻歌を歌っていた。いつになくご機嫌だ。座席の隣が関都だからである。
 一方で、慈美子もバスの窓辺で綺麗な長い赤髪を靡かせていたが、城之内とは対照的に暗い表情である。あまりの暗さに、まるで真夜中の森林のようである。

「はぁ…」

慈美子は酷く落ち込んだ表情でため息を付いた。慈美子は髪を剃られる恐怖の体験をし、PTSDのような状態に陥っていたのだ。夜もあまり眠れず、食欲もない。せっかくの林間学校なのに、宇宙から見た地球の様に気分はブルーだった。

「でも…関都くんと一緒の班だから少しは気が晴れるわ…城之内さんたちとも一緒の班だけれど…」

 林間学校が少しでも気晴らしに成れば良い。慈美子は教会で祈る様に、そう願っていた。
 そして、林間学校の宿泊地に到着した。ここで自炊し、キャンプするのである。

「関都さんは調理実習の時、わたくし程ではないとは言え、お料理がお上手でしたけれど、普段から料理なさるの?」

 城之内が関都に甘える子猫のような眼差しで質問した。三バカトリオも興味津々である。関都は自身まんまんに答えた。

「勿論だ!」
「まぁ!どんなお料理をなさるの?」
「ゆで卵だ!」

 シーン…

 三バカトリオと城之内は静まり返った。4人は関都の正気を疑うような眼差しで関都を見つめる。それに関都も気が付き、補足する。

「ダチョウの卵のゆで卵も作れるんだぜ!」

 シーン…

「超おっきいゆで卵だぜ!」

 関都は必死に訴えるが、その場は盛り上がらなかった。4人は黙って関都を見つめていた。KYな人間が水を差したかのように場はすっかり白け切っている。

「関都くんはレトルトカレーやインスタントラーメンも得意料理なのよね!」
「うん!そうだよ!」

 そんな場を和ませようと、慈美子が関都をフォローした。城之内もハッとなり、関都に歩調を合せた。

「まぁ~!なんて素敵なお料理なのかしら~!!」
「だろ!?」
「でも、この林間学校では料理はわたくしにお任せ下さいまし!わたくし、お料理教室で腕を磨いてますの!」
「あら、私だって普段から家のお手伝いをしてるからお料理は得意よ!お料理なら私に任せて!」
「ははは!頼もしいな!」

 こうして6人はさっそく自炊を始めた。関都は料理など普段はしないが、手先が器用なので、包丁捌きは上手であった。

「僕、味付けは全くできないから誰か他の人に任せるぜ!」
「それならわたくしにお任せになって!」
「いいえ!私に任せてちょうだい!」

 城之内と慈美子が名乗りを挙げた。慈美子と城之内は頬を貼り合わせるようにして張り合っている。落ち込んでいた慈美子だったが、得意の料理で少しは元気を取り戻していたのだ。関都のために料理の腕を振るう元気くらいある。そう意気込んでいたのだ。

「じゃあ味付けは2人にまかせるぜ!」
「え!?ええ!」
「うん。分かったわ!」

 こうして2人は渋々協力し合いながら味付けした。城之内も、慈美子も見事なまでの料理捌きである。もはやプロ顔負けである。
 そして、ついにお料理が完成した。レストランや料亭でできてもおかしくないような完璧なお料理である。

「ほほほほほ!わたくしが用意してきた具材が功を奏しましたわね!」

 城之内が金に物を言わせて、高級食味を沢山持ってきていたのだ。そして、城之内と慈美子が腕に縒りを掛けて作ったその料理は、食材のすばらしさを完全に引き出していた。嫌々ながらも協力し合った結果が実ったのである。

「いっただきま~す!!!」

 一同はアウトドアチェアに腰を掛け、5人はさっそく料理を食べは始めた。関都は吸い込むように豪快に食べている。一方、城之内と三バカトリオは上流階級のように上品な仕草で気取って食べていた。
 しかし、慈美子は箸が進まない。食欲があまり湧かないのである。慈美子は風邪気味の子どものように食欲が減退しているのだ。そんな慈美子を城之内がここぞととばかりに揶揄う。

「あ~ら?地味子さん?食べないんですの?食べないんだったらわたくし達が頂いちゃいますわよ~?」
「た、食べます!食べるわよ!」

 慈美子はおちょぼ口ながらも、少しずつ口に入れていった。そうして食後の休憩が終わり、お楽しみのフォークダンスの時間である。
 しかし、ほとんど残しながらも無理して食べた慈美子は気分が悪くなり、フォークダンスは見学していた。

「ほほほほほ!!」
「ははははは!!」

 城之内と関都は手を繋ぎながら楽しそうにフォークダンスを踊っていた。ほんの一瞬の間だけであるが、慈美子はうらめしくてうらめしくて仕方がなかった。

「うらめしや~うらめしや~」

 慈美子はそう呟きながらフォークダンスを見学するのであった。フォークダンスを終えた城之内と三バカトリオは楽しそうにガールズトークを始めた。

「関都さんとのダンス、楽しかったですわ~!」
「私たちも関都くんと踊ったけれど、関都さんすっごくダンスが上手で最高だったわ!」
「関都くんの手。すっごく暖かくてたくましかったわ~」
「城之内さんが惚れるのも納得だわ~」
「…ほほっ!でも、惚れちゃあだめですわよぉ?」

 城之が釘をさしながらも酒を飲んで出来上がった人達のように大盛り上がりだった。三バカトリオは媚びるように城之内をはやし立てる。

「関都くんと城之内さんのダンスは息ピッタリだったわね~!」
「本当本当!まるで恋人!いいえ!夫婦!」
「いいえ!夫婦以上だわ!本当に2人はお似合いね!」
「ほほほほほ!」

 城之内は上機嫌である。対象に慈美子は悔しくて悔しくて仕方がなかった。自分も関都と踊れたはずなのに…。
 そうしてもやもやしながらも、就寝時間になった。しかし、慈美子はPTSDのような髪を剃られるトラウマがフラッシュして中々寝付けない。

「きゃあ!!!」

 トラウマのスイッチがテレビの電源のように入り、思わず悲鳴を上げてしまった。これでもう3回目である。
 その悲鳴に城之内達もざわめきだした。

「ちょっと!うるさいわよ!」
「も~何回目よ!」
「いい加減にしてよ~!」
「眠れないんだったら出て行って下さる?少し頭を冷やしてきた方がよろしくってよ?」

 部屋を追い出された慈美子は夜空の下で体育座りでポツンと座っていた。このまま夜を明かそうか。そう思った瞬間、救いの声が聞こえた。

「慈美子!こんなところでなにやっているんだ?」
「眠れなくて…。関都くんこそこんなところで何をやってるの?関都くんも眠れなかったの?」
「いいや。夕食もあんまり食べて居なかったし、フォークダンスも見学していたしで元気無さそうだったから心配でお前の事を見に来たんだよ」
「そうだったの…ありがとう!」
 
 慈美子は一気に元気が湧いてきた。まるで汚れた顔を交換してもらったアンパンマンの様である。まさに元気100倍だ!

「それだけじゃなくて、これもな」
「?」

 関都はポケットをごそごそし出した。沢山物が入っているようで、あれでもないこれでもないと探すドラえもんのようである。そして目当ての物を見つけた。

「線香花火だ!皆に内緒でこっそり持ってきていてな!どうだ?やらないか?」
「ええ!勿論よ!一緒にやりましょう!」

パチチチチチチ…
パチパチチチチチチ…

2人は線香花火を楽しんだ。慈美子の心はすっかり穏やかになっていた。まるでマイナスイオンを大量に浴びたようにリラックスしていた。
しかし、心残りが1つあった。

「私も関都くんと踊りたかったわぁ。フォークダンス…」
「じゃあ、今から踊るか?」
「え?」

 関都はスマフォを取り出し、音楽を再生した。勿論フォークダンスの曲である。関都は照れた顔をし、恥ずかしそうにこう言った。

「僕は普段、音楽はたまに聞く程度で、ダンスは全然興味ないんだよな。だから、今日のフォークダンスのために、こっそり練習していたんだ。そのためにダウンロードした曲さ!」
「そうだったのね!一緒に踊りましょう!」
「夜だから大音量はだせないが、2人で踊るだけなら十分だろう。すっかり静まり返っているから、小さい音量でも踊るのに支障がないくらいに聞こえるだろう」

 2人は音楽を流したスマフォの周りをまわりながらフォークダンスを踊った。2人しかいないから、入れ替わる必要がない。ずっと2人で踊り続けられているのである。
 慈美子は誰よりも長く関都と踊っているのだ。なんだか関都を独り占めしている気分になり、慈美子は至福に包まれた。まさに至福の時間である。
 こうして慈美子の幸せな時間はあっという間に過ぎ去っていった。

「ありがとう!楽しかったわ!これならもう落ち着いて寝れそうよ!」
「そうか!そりゃあ良かった!」

 慈美子のPTSDのような症状はすっかり収まっていた。これ以降、PTSDのような症状に悩まされる事も無くなり、すっかり完治したのだった。
 そして、慈美子は林間学校にも持ってきていた日記に寝る前に起きた出来事を書き足してから安眠に付くのであった。

「今日はとっても楽しかったね…!明日はも~っと楽しくなるよね…!」
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