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第2章:偽りの少年たちと奇妙な同居
偽りの少年たちと奇妙な同居
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「死体は、裏の崖から落としておきました。狼が綺麗に片付けてくれるでしょう」
翌朝、エース(絆)は淡々とリオンに報告した。
リオンは鏡の前で自分の前髪を整えながら、「楽しめたか」と鼻を鳴らす。
「ご苦労。……ま、あんな汚い『異端者』の女ども、一晩遊べば十分だ。お前も少しは男の階段を登れたか?」
吐き気のするような言葉に、エースは引きつりそうな頬を無理やり固定し、「おかげさまで」とだけ返した。リオンはエースの表情に興味を持つこともなく、香水を振りまいて身だしなみを気にしている。エリュシオン貴族のたしなみなのだろう。
これで、ティリーとクロエはこの世界から「消えた」ことになった。
第2章:偽りの少年たちと奇妙な同居
「……屈辱だわ。なんで私が、男の格好なんて!」
使用人部屋の隠し小部屋。
ティリーが、短く切り揃えられた自分の髪を鏡越しに見て、今にも叫び出しそうな顔をしていた。彼女の豊かな胸は、エースが「無限収納」から取り出した厚手の布できつく巻かれ、平坦な少年の体型へと偽装されている。
「我慢してくれ、ティリー。この国で女性が自由に歩くのは不可能だ。君の身を守るための『鎧』だと思ってほしい」
エースは手際よく、クロエの髪を後ろでまとめ、小道具の眼鏡(レンズのない伊達眼鏡だが、それだけで知的な印象が増す)をかけさせた。
「……不思議ね。この眼鏡一つで、不思議と『異端者クロエ』の面影が薄れる。エース、貴方の知恵は、隠れ里の賢者たちみたいに実用的だわ」
クロエは落ち着いたものだったが、その瞳にはまだ警戒の色が残っている。
エースは二人に、自分の「幼馴染の使用人」という設定を叩き込んだ。名前も、万が一を考えて「ティル」と「クロ」に。
今日から、三人の「少年たち」によるルームシェア……という名の、薄氷を踏むような潜伏生活が始まった。
「いいか、絶対に目立つな。貴族の前では目を合わせたりするな、影のように振る舞うんだ」
エースの忠告と共に、三人は屋敷の雑務に就いた。
だが、現実は想像以上に過酷だった。
中庭を掃除していた時、遠くから勝ち誇ったような貴族男性たちの笑い声が聞こえてきた。見れば、リオンたちが新たな「異端者狩り」から帰還したところだった。馬車には、泥に汚れ、絶望した表情の女性たちが数人、檻に入れられて運ばれている。
「っ……あいつら!」
ティリーの拳が震え、腰の(今は持っていないはずの)剣を探すように手が動く。
「待て、ティリー。今はダメだ」
エースが即座に彼女の肩を掴み、背後から強く抑え込む。
「離して! 仲間があんな目に遭ってるのよ!? ここで一発、あいつらの顔面を殴らなきゃ気が済まないわ!」
「殴ってどうなる? 君も捕まって、隠れ里の場所を吐かされるだけだ。そうなれば、里の全員が終わりだぞ」
「……っ」
エースの声は、16歳の少年とは思えないほど冷徹で、重かった。
「今の俺たちにできるのは、生き延びて、力を蓄えることだ。敵の情報を集め、確実に勝てる瞬間を待つ。……感情で動くのは、エリュシオンの『卑怯な貴族』どもと同じだ。君は、そんな奴らと同じになりたいのか?」
現代の日本にいたときも、感情を爆発させて墓穴を掘る小説や漫画などの人々(登場人物)を嫌というほど見てきた絆の言葉には、妙な説得力があった。
ティリーは歯を食いしばり、ゆっくりと拳を下ろした。
「……エース。貴方は、どうしてそんなに冷静なの? 貴方は異端者の女を……私たちを、憎んでいないの?異端者の女はエリュシオンの男たちの言うことはまず聞かないわ」
クロエが、掃除の手を止めずに静かに尋ねた。
エースは、馬車を見送る男たちの浅ましい横顔を一瞥し、短く答えた。
「憎む理由がない。俺の目には、君たちはただの、懸命に生きてる女の子にしか見えないから。……それ以上に守らなきゃいけない理由なんて、必要か?」
その言葉に、ティリーとクロエは目を見開いた。
この世界では、男は女を「所有物」か「娯楽品」としてしか見ない。
それなのに、目の前のこの「少年」だけは、自分たちと対等に、ひとりの人間として対処しようとしている。
夕食時、エースは無限収納から出した栄養価の高い乾物に、植物鑑定で見つけた滋養のある薬草を混ぜ、料理作成スキルでスープを作った。
「ほら、食べて体力をつけろ。明日からはもっと厳しくなる。……里の情報が入ったんだ。近いうちに大規模な討伐隊が動くらしい」
二人の手が止まる。
「こんな状況だ動揺するのも分かる。だが、慌てたって状況は変わらない、今は慎重に生活していこう。今は俺を信じてくれ」
湯気が立ち上がる質素な机を囲み、三人の間に、主従でも、敵味方でもない、家族のような「絆」が、わずかに芽生え始めていた。
翌朝、エース(絆)は淡々とリオンに報告した。
リオンは鏡の前で自分の前髪を整えながら、「楽しめたか」と鼻を鳴らす。
「ご苦労。……ま、あんな汚い『異端者』の女ども、一晩遊べば十分だ。お前も少しは男の階段を登れたか?」
吐き気のするような言葉に、エースは引きつりそうな頬を無理やり固定し、「おかげさまで」とだけ返した。リオンはエースの表情に興味を持つこともなく、香水を振りまいて身だしなみを気にしている。エリュシオン貴族のたしなみなのだろう。
これで、ティリーとクロエはこの世界から「消えた」ことになった。
第2章:偽りの少年たちと奇妙な同居
「……屈辱だわ。なんで私が、男の格好なんて!」
使用人部屋の隠し小部屋。
ティリーが、短く切り揃えられた自分の髪を鏡越しに見て、今にも叫び出しそうな顔をしていた。彼女の豊かな胸は、エースが「無限収納」から取り出した厚手の布できつく巻かれ、平坦な少年の体型へと偽装されている。
「我慢してくれ、ティリー。この国で女性が自由に歩くのは不可能だ。君の身を守るための『鎧』だと思ってほしい」
エースは手際よく、クロエの髪を後ろでまとめ、小道具の眼鏡(レンズのない伊達眼鏡だが、それだけで知的な印象が増す)をかけさせた。
「……不思議ね。この眼鏡一つで、不思議と『異端者クロエ』の面影が薄れる。エース、貴方の知恵は、隠れ里の賢者たちみたいに実用的だわ」
クロエは落ち着いたものだったが、その瞳にはまだ警戒の色が残っている。
エースは二人に、自分の「幼馴染の使用人」という設定を叩き込んだ。名前も、万が一を考えて「ティル」と「クロ」に。
今日から、三人の「少年たち」によるルームシェア……という名の、薄氷を踏むような潜伏生活が始まった。
「いいか、絶対に目立つな。貴族の前では目を合わせたりするな、影のように振る舞うんだ」
エースの忠告と共に、三人は屋敷の雑務に就いた。
だが、現実は想像以上に過酷だった。
中庭を掃除していた時、遠くから勝ち誇ったような貴族男性たちの笑い声が聞こえてきた。見れば、リオンたちが新たな「異端者狩り」から帰還したところだった。馬車には、泥に汚れ、絶望した表情の女性たちが数人、檻に入れられて運ばれている。
「っ……あいつら!」
ティリーの拳が震え、腰の(今は持っていないはずの)剣を探すように手が動く。
「待て、ティリー。今はダメだ」
エースが即座に彼女の肩を掴み、背後から強く抑え込む。
「離して! 仲間があんな目に遭ってるのよ!? ここで一発、あいつらの顔面を殴らなきゃ気が済まないわ!」
「殴ってどうなる? 君も捕まって、隠れ里の場所を吐かされるだけだ。そうなれば、里の全員が終わりだぞ」
「……っ」
エースの声は、16歳の少年とは思えないほど冷徹で、重かった。
「今の俺たちにできるのは、生き延びて、力を蓄えることだ。敵の情報を集め、確実に勝てる瞬間を待つ。……感情で動くのは、エリュシオンの『卑怯な貴族』どもと同じだ。君は、そんな奴らと同じになりたいのか?」
現代の日本にいたときも、感情を爆発させて墓穴を掘る小説や漫画などの人々(登場人物)を嫌というほど見てきた絆の言葉には、妙な説得力があった。
ティリーは歯を食いしばり、ゆっくりと拳を下ろした。
「……エース。貴方は、どうしてそんなに冷静なの? 貴方は異端者の女を……私たちを、憎んでいないの?異端者の女はエリュシオンの男たちの言うことはまず聞かないわ」
クロエが、掃除の手を止めずに静かに尋ねた。
エースは、馬車を見送る男たちの浅ましい横顔を一瞥し、短く答えた。
「憎む理由がない。俺の目には、君たちはただの、懸命に生きてる女の子にしか見えないから。……それ以上に守らなきゃいけない理由なんて、必要か?」
その言葉に、ティリーとクロエは目を見開いた。
この世界では、男は女を「所有物」か「娯楽品」としてしか見ない。
それなのに、目の前のこの「少年」だけは、自分たちと対等に、ひとりの人間として対処しようとしている。
夕食時、エースは無限収納から出した栄養価の高い乾物に、植物鑑定で見つけた滋養のある薬草を混ぜ、料理作成スキルでスープを作った。
「ほら、食べて体力をつけろ。明日からはもっと厳しくなる。……里の情報が入ったんだ。近いうちに大規模な討伐隊が動くらしい」
二人の手が止まる。
「こんな状況だ動揺するのも分かる。だが、慌てたって状況は変わらない、今は慎重に生活していこう。今は俺を信じてくれ」
湯気が立ち上がる質素な机を囲み、三人の間に、主従でも、敵味方でもない、家族のような「絆」が、わずかに芽生え始めていた。
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