怠惰な悪役貴族は変わらず怠惰に過ごしたい。死亡フラグを回避する為に【闇魔法】を極めてたら正ヒロインに好意を持たれたのだが。

つくも/九十九弐式

文字の大きさ
29 / 39

第29話 女湯での出来事

しおりを挟む
 闇魔法『シャドウワープ』と言っても万能な魔法ではない。
 移動できる対象は人間の影に限られているし、その効果範囲は成長した今を以てしてもせいぜい50メートル程の範囲に過ぎない。
 
勿論、それでも便利な魔法である事には間違いはない。奇襲であったり、相手から逃げる時にも有用だ。ただテレポーテーション程万能ではないというだけだ。

 俺が闇魔法『シャドウワープ』を使ってどこに逃げたのかは、もう言うまもでない事であった。

 俺とフィオナが突如として、その空間に現れた瞬間、時の流れが止まったように感じた。

 そこは女湯であった。色とりどりの二つの膨らみが咲き乱れている。小さいもの、大きいもの、中くらいもの。様々なものが所狭しと並んでいた。

 男なら誰もが透明人間になり、侵入したいという願いを抱いた事であろう。だが、残念な事に今の俺は透明人間ではなかったのだ。
 
 フィオナはいいのである。いくら平民とはいえ、今この状況下では然したる問題にもならない。

 なぜなら肉体的に言えば、同じ女性でしかなく、判別のしようもない事だ。

 問題なのは全裸でエクスカリバーを股間にぶら下げた俺の存在である。

「あー。こほん。待て待て、これから俺がどうなるか知っているぞ。どうせ皆悲鳴をあげるんだろ。『きゃあああああああああ!」とか。それで俺は桶でも投げられる。うんうん。そうだろう? そうだろう。あるいは魔法学園だし、魔法が飛んでくるかもしれないなぁ」

 あまりにショッキングな出来事でぽかーんとなっている女性達を目の前にして、俺は饒舌に語る。

「だが、待て待て。これには深い事情があるんだ。深い事情が。もっとも話せばわかるとも思えない。君達は感情的に叫び散らかして俺に攻撃を咥えてくる事だろう」

「愚弟」

 すぐ近くには我が姉であるアリシアがいた。というより、俺達はアリシアの影を介してこの女湯に移動したのだろう。

 最後にアリシアの裸を見てから実に5年の時が過ぎようとしていた。あの時12歳だったアリシアも今では17歳である。

 その為、アリシアの二つの胸の膨らみはエスティアにも負けない程に厭らしく、たわわに実っていた。

「どういうつもりかしら? 私の顔に泥を塗るような真似はしないように厳命したはずよね?」

 アリシアは怒りで拳を震わせていた。羞恥よりも怒りの感情の方が強いのだろう。

「顔に泥を塗るどころか、馬糞を顔に投げつけてくるかのような、この奇天烈な痴漢行為。勘当とかいう次元を超えて死刑に値するわ」

「アリシアよ」

「なにか?」

「そう乳が無駄に育つと、随分と動きにくそうだな。ん? 歩く時に俺が支えてやろうか?」

「ち、痴漢行為を詫びるは愚か、あまつさえ何とも愚かな挑発行為をしてくるなんて」

 アリシアは片手に魔力を集中させる。風と火の精霊の力が働くのを感じた。『二重魔法(ダブルマジック)』だ。火属性の魔法に風属性の魔法を加える事で火力を底上げしようという魂胆なのだろう。

「死になさい! エクスプロージョン!」

 突如、女湯に大爆発が起こったのである。

                ◇
 女湯での騒動の後、俺は叔母であるカレンに理事長室に俺は呼び出された。

 理事長であるカレンは頭を悩ませていた。

「昨日、女湯を覗いた……というレベルではないが。覗いたもとい、侵入したのは本当なのだな?」

「うむ。本当だ! 俺は女湯に入った事に対して何の言い訳の余地があるわけもないっ! 入ってやったぞ! それはもう見事なまでに堂々とだ!」

 俺は胸を張って堂々と宣言する。

 俺はアリシアの爆裂魔法『エクスプロージョン』を闇魔法『シャドウウォール』で咄嗟にガードした為、幸いな事に大きなダメージは負わずに済んだ。

 だが、その結果外壁が大破損してしまい、しばらくの間は大浴場のうちのひとつが使えなくなった。

 その結果、男子達は沐浴で済ませなければならずに女子が大浴場のうち無事だった方を使う事になった。

 修理にはしばらく時間がかかるそうだ。壊すのは一瞬だったが、直すのにはかなりの時間がかかる。全く、剣と魔法の世界なのだから魔法で一瞬で直せないかと思ってしまうのだが、どうやらそうもいかないようだ。実に不便ではあるが。

 全く、大浴場の外壁を壊したのはアリシアのせいだというのに。俺は男子達からもヘイトを買う事になってしまう。

 もしかしたらヘイトを買っているのは男子達が大浴場を使えなくなった事ではなく、俺が女湯に侵入した事にあるのかもしれないが。

 うらやまけしからんという奴だ。嫉妬しているのだろう。本当は自分達がやりたいのだが我慢している事を他人が平然と行えば、そういう感情になるのも自然な事であるとも言えた。

「女子生徒達からクレームが殺到している。お前を退学にしろと」

「……まあ、無理もないな」

 これでは『悪役貴族』ならぬ『変態貴族』である。

「女湯を覗く事は十分に退学条件に当てはまる。だからお前が退学になっても仕方ない。叔母である私が理事長だとしても庇い切れるものではない。まあ、お前の場合は粗末なモノをぶら下げてしばらく居座ったらしいがな。ふふっ」

 失笑される。粗末なモノとは失礼な。今の俺のモノ見た事あるのか? 昔の小さい頃の想像のまま言っているんじゃないだろうなっ!? ああっ!?

「一体、何があったのだ? まさか、私の甥っ子がそんなに変態だったとは思いたくはない。何か理由があったのか?」

「——それがなんだがな」

「待って下さいっ!」

 理事長室の扉が開かれる。慌てた様子でフィオナが入って来た。

「……はぁ……はぁ……はぁ」

 彼女は走って来たのであろう。随分と息を切らしていた。

「呼吸を整えろ。落ち着いて話せ。別に一刻を争う事態ではない」

 カレンはそう言うのであった。

 すぅ、はぁー。

 深呼吸を数回してフィオナの呼吸は落ち着きを取り戻すのであった。

「アーサーさんは私を助けてくれたんです」

「どういう事だ? 助けた?」

 俺達はかくかくしかじか、大浴場で起きた出来事のいきさつを説明するのであった。

                ◇
「なるほど……そういう事があったのか。良かったよ。私の甥っ子がただの変態ではない事がわかって」

 カレンは安堵の溜息を吐いた。

 俺達は説明した内容はこうだった。

 事の発端は裏で糸を引いているアリシアである。アリシアが取り巻きに命じてフィオナが女湯に入る瞬間、男湯と女湯の暖簾を取り換えたのだ。

 そして、その後何事もなかったのかのように戻す。

 その行為の目的は男子にフィオナの裸を見せるように仕向ける事で恥をかかせ、退学に追い込むというものである。

 脱衣所に誰もいなかったフィオナはここが女湯だと疑うわけもなく、裸になり、大浴場へと向かったのである。

 そして風呂に入っていた俺と遭遇したのだ。他の男子達も入浴してきた為、俺は仕方なく闇魔法『シャドウワープ』を使って、女湯に退避したというわけであった。

「……そうか。そんな事があったのか。アリシアが裏で糸を引いていた。とはいっても確証はないだろう。その取り巻きを問い詰めれば何かしゃべるかもしれないが、シラを切るだろう」

 冷静にカレンは分析を始める。

「当然、アリシアの奴を問い詰めてもシラを切るだろうし。確たる証拠は得られないだろうな。そうなると責任追及できるにしても取り巻きの一人が関の山という事になる」

 うんうん。そうだろうな。そうだろうな。

「だが、そんな裏の事情など肌を見られた女子達は知りもしないし。彼女達は単なる被害者だ。突如女湯に現れたお前を糾弾するのは自然な事とも言えるし。私もお前をどう処罰するべきか実に頭を悩ませる問題だ。何のお咎めなしというわけにもいかないし」

「そ、そんな、アーサーさんは私を助けてくれただけなのに! 制裁を受けるなんてひどいですっ!」

 フィオナがそう叫ぶ。

「そ、それもそうだが。女子生徒達のアーサーを退学させろというクレームも多くてな。こちらも頭を悩ませているのだよ。何も事情を知らない女子生徒達が感情的になるのもわかるしな。かといって甥っ子を退学させたくもないから私もこうして頭を悩ませているのだ」

 カレンも頭を抱えていた。学園の理事長というのも実に大変そうな役職(ポジション)である。

「とりあえず、後日、そのアリシアの取り巻きをしている女子生徒に話を聞いてみよう。口を割るとは思わないが、何かしらの証言は得られるかもしれない」

 後日、その取り巻きをしている女子生徒から話を聞いてみる事になった。

 そして今日のところの話は終わり、俺の処遇が決定される事も先送りになったのである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームの悪役令嬢、ですか

碧井 汐桜香
ファンタジー
王子様って、本当に平民のヒロインに惚れるのだろうか?

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

『悪役』のイメージが違うことで起きた悲しい事故

ラララキヲ
ファンタジー
 ある男爵が手を出していたメイドが密かに娘を産んでいた。それを知った男爵は平民として生きていた娘を探し出して養子とした。  娘の名前はルーニー。  とても可愛い外見をしていた。  彼女は人を惹き付ける特別な外見をしていたが、特別なのはそれだけではなかった。  彼女は前世の記憶を持っていたのだ。  そして彼女はこの世界が前世で遊んだ乙女ゲームが舞台なのだと気付く。  格好良い攻略対象たちに意地悪な悪役令嬢。  しかしその悪役令嬢がどうもおかしい。何もしてこないどころか性格さえも設定と違うようだ。  乙女ゲームのヒロインであるルーニーは腹を立てた。  “悪役令嬢が悪役をちゃんとしないからゲームのストーリーが進まないじゃない!”と。  怒ったルーニーは悪役令嬢を責める。  そして物語は動き出した…………── ※!!※細かい描写などはありませんが女性が酷い目に遭った展開となるので嫌な方はお気をつけ下さい。 ※!!※『子供が絵本のシンデレラ読んでと頼んだらヤバイ方のシンデレラを読まれた』みたいな話です。 ◇テンプレ乙女ゲームの世界。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げる予定です。

悪役令嬢の独壇場

あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。 彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。 自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。 正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。 ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。 そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。 あら?これは、何かがおかしいですね。

転生者だからって無条件に幸せになれると思うな。巻き込まれるこっちは迷惑なんだ、他所でやれ!!

ファンタジー
「ソフィア・グラビーナ!」 卒業パーティの最中、突如響き渡る声に周りは騒めいた。 よくある断罪劇が始まる……筈が。 ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも同じものを投稿しております。

「俺が勇者一行に?嫌です」

東稔 雨紗霧
ファンタジー
異世界に転生したけれども特にチートも無く前世の知識を生かせる訳でも無く凡庸な人間として過ごしていたある日、魔王が現れたらしい。 物見遊山がてら勇者のお披露目式に行ってみると勇者と目が合った。 は?無理

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

処理中です...