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忘却のリング

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 忘却のリングというアイテムがある。対象者の記憶を都合よく操作できるアイテムだ。
 それは俺が狂戦士としてそして何より冒険者として活動していく上でどうしても必要なものだった。
 ネガティブスキル理性崩壊は人間としての理性をなくし、俺をただの獣(けだもの)とするネガティブスキルである。このネガティブスキルがある限りはそもそも人の世で暮らす事自体が難しかった。
 それはある日の事だった。
 冒険者ギルドでの出来事だった。
「どなたか、戦士系のジョブにつかれている方はおりませんか?」
 受付嬢が言う。
「はい。俺は就いていますが、どうしたのでしょうか?」
「良かった。探検クエストで遺跡を探検したい冒険者の方がいまして、護衛役を探しているのです」
 探検クエスト。
 無論討伐クエストとは異なり、モンスターを討伐する事が主目的ではない。その為モンスターを避けようと思えば避けれるが、目当てのトレジャーが目の前にいるが例えばそれを竜が守っているなどという場面もあるだろう。その場合は倒せなければトレジャーを諦めるより他にない。結局は探検クエストといえども、それなりに戦闘力を必要とするのであった。
「……大丈夫? この人で」
「大丈夫っしょ。大体、リスクを恐れていたらトレジャーハントなんてできねーって」
「まあ、それもそうだけど」
 男女のペアだった。就いている職業は盗賊(シーフ)とそれに類する職業財宝狩り(トレジャーハンター)だった。どちらかというと、戦闘能力に重きを置くのではなく、便利さに重きを置いた職業である。
 俺のような戦士系の職業は闘うだけである。モンスターを倒す事には有用だが、それ以外はからっきしだ。
 盗賊であれば盗みのスキルがあり、アイテムを盗む事もできるし。その多の重宝できるスキルがある。トレジャーハンターも同じだ。
 地図化(マッピングスキル)があり、ダンジョン内の自分達の居場所がすぐわかり、隠されている財宝の居場所をスキルで知覚できる。
 だが、当然のようにモンスターに対する戦闘能力としては高くないのが難点だ。
「あんた、俺達のパーティーに入ってくれねぇか? モンスターの護衛役として」
 男が言う。
「悪い。名乗り送れた。俺の名はレノンだ。トレジャーハンターをしている。そしてそこの女がシオンだ。彼女は盗賊(シーフ)だ」
「俺の名はノヴァと申します」
「職業は?」
「戦士を」
 狂戦士である事を意図的に隠した。なぜなら忌避されるかもしれないと思ったからだ。味方を見境なく襲うかもしれない男を誰がパーティーに引き入れたいと思うのか。思わないであろう。
「戦士(ウォーリアー)か。なら戦闘力として問題ないか」
 レノンは言う。
「よし。じゃあ、パーティーに入ってくれ」
 レノンは言った。特に行く当てのない俺は了承する。
 それにレノン達が行く遺跡ではレアなマジックアイテムが手に入るとの噂なのだ。こいつ等を利用して、レアアイテムを手に入れられるかもしれない。
 そう、俺の今後の活動に有用なものが。そう考えたのだ。
「はい。喜んで」
「よし。そうと決まったら手続きをして遺跡へ出発だ」
 遺跡。バルディオン宮殿という宮殿がかつてあった。今では廃れてしまい、その宮殿は遺跡となっている。バルディオン遺跡、と言われるようになった。
 その遺跡が今回の探検クエストの舞台だった。

 俺達は遺跡の中に入る。しかし思った、二人はどういう関係なのか。年頃の男女が二人。
 まあ、そういう事だろうなとは思う。プライベートな事だ。深く詮索する必要もないか。
「こっちだ」
 レノンは先導する。彼はスキルで財宝の場所がわかるのだ。シオンは中々の美人だった。盗賊の為、敏捷性を重視しているからなのか、細身で無駄な肉がついていないが顔立ちは整っている。普段はこの女とヤりまくっているのだろう。独り身の俺には羨ましい限りだった。
「こっちに隠し通路がある」
 レノンはそう言う。俺達二人は続いた。
「この扉の向こうに財宝があるみたいだ」
 レノンは言った。
 しかし、突如その部屋に足を踏み入れた瞬間、警報のような音がするのを感じた。
 ビービービー。
「しまった。警報器だ」
「私の罠探知にもひっかからなかった。多分、強制発動するタイプの罠」
 そう、シオンは言った。
 罠探知か。盗賊(シーフ)という事で色々と便利なスキルを持っているのだろう。
 警報器と共に動き出したのは鎧だった。鎧型のモンスターだ。デュラハンと呼ばれるようなモンスターであろう。首のない、胴体だけのモンスターだ。
 デュラハンは剣を持って襲いかかってくる。
 とてもトレジャーハンターに相手できるモンスターではない。
「うわっ!」
 レノンは無様にのけぞる。
「どいてろ」
 俺は前に出る。職業スキル、狂化発動。狂化を発動した俺は高いパラメーター上昇を見せる。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
 俺はデュラハンに攻撃を繰り出した。

 動かなくまで攻撃を食らったデュラハンは果てる。壊れた玩具のように崩れ去った。
「ありがとう。あんたがいなかったらここで撤退していたところだったよ」
 レノンは言う。
「礼は良い。そういう契約だ」
「レノン、宝箱があった。多分レアアイテムだ」
 シオンは言った。
「つかぬ事を聞いてもいいですか?」
「はい」
「なぜこのクエストを?」
「はい。実は俺達、付き合ってて、もうすぐ結婚するんです」
「ほう。おめでとうございます」
「ありがとうございます。それで、そろそろ結婚資金も貯まりそうなんで、最後に一稼ぎして冒険者稼業を引退したいと思っていて。なにせ、危険が多いじゃないですか、この仕事。だから適当なところで身を引く事が大事じゃないかと」
「なるほど。それはそうです。何事も引き際が肝心」
「あった!」
 シオンは宝石箱をあける。
「忘却のリングだ。これは結構な高値で売れる。王国金貨50枚はするよ」
 恐らくはシオンは鑑定スキルも持っているのだろう。そう言った。
王国金貨の価値であるが、一枚で一般家庭が一カ月暮らせる。日本円にして20万円ていどだ。1000万の価値があると思えばいい。
「そうか、でかしたぞシノン!」
 レノンは言った。
 残念だ。俺はそう思う。実に残念だ。引き際が肝心、そう、引き際が肝心だこの仕事は。
 俺が残念に思ったのは彼等が引き際を見誤った事にある。彼等は引き際を一歩誤った。俺に出会うより前に引退しておくべきだったのだ。
「ガッ!」
 俺はレノンに裏拳を見舞う。
「なっ!? てめぇ! 何を! ガッ!」
 倒れたレノンに追撃をお見舞いする。俺は腹部に更に拳を見舞う。
 レノンは悶絶して動かなくなった。死んではいないだろう。だが意識は保てていないようだ。
「て、てめぇ! レノンに何をする!」
 シオンはダガーを構える。だが、盗賊(シーフ)の彼女と狂戦士(ベルセルク)の俺では戦闘能力が違いすぎる。
「……騙していた事がある。俺は狂戦士(ベルセルク)だ」
「なっ!?」
「お前みたいな若い女を見ると、ムラムラとして我慢できなくなるんだよ。もう我慢の限界なんだ」
 俺はシオンに襲いかかる。
「く、くそっ! ふざけんなッ! レノン! レノン!」
 恋人の名をシオンは叫ぶ。
 しかし力では圧倒的に俺が上だ。襲いかかられればひとたまりもない。
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