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第21話 【勇者SIDE】闇の女神ネメシスから力を授かる

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僕は深く絶望していた。

もうどうしようもない。僕を召喚した王国も、スキルも何もない、ただの無能勇者だとわかると掌を返したのだ。奴等は僕を保護する事もなく、不要という事で追い出したのだ。

「僕は何も悪くないっ! 悪くないのにっ! ううっ! どうしてだっ! イケメンに生まれたのがそんなに罪だっていうのかっ! 今までの人生で全ての運を使い果たしたって言うのかよ! うっ、ううっ、ううっ!」

 僕は泣いていた。自然と涙が溢れてきたのだ。

「もういい! 僕は絶望したっ! この異世界での人生に絶望したんだっ! なんでこんなに苦労しなければならないっ! こ、これも全てはあのうすいかげととかいう、ただの脇役が紛れ込んで来たからなんだ! 全てはあのクソ女神と紛れ込んで来たモブ野郎のせいなんだ!」

 僕はクソ女神とうすいに責任を押し付けていた。だが、そんな事をして、喚き散らしていても現実は何も変わらなかった。

 僕がスキルも何もない、ただの無能勇者である事に何の変わりもないのだ。

 だから、どうする事もできなかったのだ。

 僕の目の前には大木があり、ロープが吊るされていた。僕がこれから何をしようとしているのか、なんてもう言うまでもない事だった。

「死のう……生きてても何も良い事がない……来世で僕は幸せな人生を送るんだ」

 僕が自殺をする為、ロープに手をかけた、その時の事だった。

 次元の狭間が再び割れたのだ。

「なっ!?」

 僕はあのクソ女神が再び現れたのかと思った。だが、どうやら違うようだった。

 あのクソ女神によく似ているが、褐色の肌をして、黒いローブを羽織っている。クソ女神が天使だとすれば、彼女はまるで悪魔のようであった。

「あらあら、まあまあ……随分とこの世界に絶望しているじゃない。勇者ハヤト。良い感じに心が闇に染まっているわ、今のあなたは」

 彼女は僕に怪しく微笑んだ。

「き、君は一体……誰なんだ?」

「私の名はネメシス。女神よ。あなたを召喚した女神ラクシュミーが光の女神だとしたら、私は闇の女神。彼女が善に仕える女神なら、私は悪に仕える女神なの」

「ネメシス……闇の女神だと……」

 そして、あのクソ女神。名前はラクシュミーとかいうのか。クソ女神のくせに大層な名前しやがって。

「そ、それで、その闇の女神が僕に何の用なんだ?」

「良い感じにあなたは世の中に絶望しているじゃない。こんな世の中、もうぶっ壊してやりたくならない? あなたを裏切った奴等に復讐をしてやりたいと思わない? 復讐できたら、すっごく気持ちよくなれると思わない?」

 闇の女神ネメシスは僕を誘惑してきた。い、いけない、これはきっと、悪魔の誘いだ。絶対に罠がある。だが、僕はもう、その悪魔的な誘いを突っぱねる事ができる程の自制心を持ち合わせてはいなかったのである。

「い、一体僕に何をするつもりだ!? き、きっと良くない事だろう!?」

「人間の世界にとっては確かに良くない事だわ。けど、きっと今のあなたにとってはとても良い契約よ。あなたの魂と引き換えに、私はあなたに凄い力を授けるの。あなたが授かるはずだった、勇者の力以上の力を」

「ゆ、勇者以上の力だと!?」

「ええ。その力があれば、あなたは、その力をかすめ取られた、カゲトって奴に復讐をする事ができるの。さっくとぶっ殺しちゃう事も簡単な事だわ」

「な、なんだと。あの顔も覚えていない、影の薄い野郎をぶっ殺す事も簡単だって……」

「そう……あの女神ラクシュミーにだって、一発くらわしてやる事だって簡単よ。あなたを不幸のどん底に落としたあの女神の顔が苦痛で歪んでいるところ、見て見たくならない? ねぇ? どうなのよ? ねぇ? くっくっく」

 小悪魔のように、ネメシスは笑う。悪趣味なな笑みを浮かべた。こいつはわかっている。とことんまで堕ちた僕が、その悪魔の取引を断れるはずがないという事を。

「ぼ、僕に力を授けてくれ! 闇の女神ネメシス!」

「あら? 良いの? 深く考えなくてもわかると思うけど、私の力は良いものではないわよ。善ではなく、悪。光ではなくて闇よ。だって私は闇の女神なんですもの」

「それでもいい! 僕は復讐したいんだ! あのクソ女神! うすい! そして僕を助けなかった王国の連中! 人類全てに復讐をしたいんだ! その為なら悪魔に魂くらい売ってみせるよ!」

 僕は強く宣言する。

「あら……もう完全に開き直っているのね。今のあなたは心だけは既にこっち側の存在よ。闇に飲み込まれているわね。くっくっく。それじゃあ、そんなあなたを完全にこちら側の住人にしてあげる。闇の力よ、こいつに力を授けたまえ」

 ネメシスの掌に闇の力が集まっていく。

「こ、これが闇の力」

「さあ、この力を飲み込む事によって、あなたは闇の世界の住人になるわ。くっくっく」

 飲み込む、とネメシスは言っていたが、彼女は僕の心臓に闇の力を植え付けたのだった。

「な、なにっ! あ、あついっ! 心臓のあたりが……く、苦しい! う、うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 僕の絶叫が森に響く。身体の中が熱を帯びているようだった。

「ふふふっ、素敵ね……新しいあなたに身体が作り変えられているのよ。この変化が終わったら、あなたは完全にこっち側の存在。闇の世界の住人。闇勇者の誕生よ。くっくっく」

「すうぅーはぁー……」

 僕は落ち着いた様子で深呼吸する。

「なんだか、生まれ変わった気分だ。今までの僕じゃなくなったような気分」

 僕の体内から、闇の力が充実しているのを感じた。それに伴い、今までの僕とは異なった精神状態になった。今までの僕は無力で無能だった。だから、どことなく落ち着きのない感じではあったが、今は落ち着き払っている。

「そうよ。だってあなたは生まれ変わったんだもの。勇者ハヤト。いえ、闇勇者ハヤト」

「闇勇者か……そうか、僕は生まれ変わったんだものな」

「ねえ、闇勇者ハヤト。ステータスを見て見て。あなた、すっごく強くなってるはずよ」

「へぇ……そうなんだ。だったら見て見ようか……ステータスオープン」

 僕は自身のステータスを確認する事にした。

======================================



日向勇人 16歳 男 レベル:50



職業:闇勇者



HP:500



MP:500



攻撃力:500



防御力:500



素早さ:500



魔法力:500



魔法耐性:500



運:500



装備:武器『ダークエクスカリバー』※闇属性 攻撃力+500 HP及びMPの吸収(ドレイン)効果保有
防具『暗黒の鎧』闇属性 防御力+500 聖属性以外の魔法攻撃の効果を半減する

資金:0G ※闇勇者となった僕に金など必要ない。欲しかったら奪うのみである。

スキル:『暗黒剣装備可能』※闇属性の剣を装備できるスキル 聖剣は装備不可である『暗黒防具装備可能』※闇属性の防具を装備可能※このスキルがないまま装備すると時間経過でHPを失う事がある
『攻撃力上昇大』『防御力上昇大』『素早さ上昇大』『暗黒闘気』※HP50%以下で発動。全ステータスが向上する。『自動LVUP』モンスターを倒さなくても、時間経過で自然とレベルが上がる。『属性ダメージ半減』※ただし聖属性を除く
『HP&MP自動回復(大)』時間経過でHP&MPを大回復する
『自動蘇生(1回)』※死に至るダメージでも一度だけ蘇生する
『魔獣使い』※聖獣などの一部の聖属性のモンスターを除いて使役する事ができる
『魔眼』※低LV(具体的には自身よりLVが30以上低い相手)を高確率で洗脳し、無条件で自身の命令を聞かせる事ができる。

技スキル:『暗黒鬼神剣』※使用SP100 敵全体に闇属性の超ダメージ
『ダークエクスカリバーEX』※『ダークエクスカリバー』を装備時のみに発動可能な技スキル。残全SPを消費する。その割合に応じて敵全体に闇属性の超ダメージ。大抵の場合『暗黒鬼神剣』を超えるダメージ。

魔法スキル:『ダークウェイブ』使用MP100 敵全体に闇属性の魔法ダメージ


アイテム:特になし※今の僕にアイテムは必要ない。なにせ、強力な装備とスキルが山程あるからね。ポーションやエーテルの類は余り必要としないんだ。


======================================

「な、なんて強さなんだ……これが新しく生まれ変わった僕の力なのか」

 僕はそのあまりの強さに震えていた。かつての僕など、今の強さに比べたらカスみたいなものだった。

「そうよ。これが生まれ変わったあなたの強さ。もう、ゾクゾクしてくるでしょう? 自分より弱い奴を踏みにじって、力を見せつけたくて、ウズウズとしてきているでしょう? ふっふっふ」

 女神ネメシスは笑う。

「あ、ああ……僕はこの力を試してみたい。有り余るこの力をぶつけてみたい」

「今ね、魔王軍がエルフの国を攻め込んでいるの。エルフは色々な魔法を使ってくるらしくて、魔王軍も手こずっているみたい。ねぇ、あの駄女神とカゲト、それから、王国の人間達に復讐するよりも前に。手ならしとしてエルフの国を蹂躙してみない?」

 ネメシスが耳元で優しく語り掛けてくる。

「エルフの国か……良いだろう。新しい僕の力で、奴等を蹂躙してやろう」

「そうそう……それに、王国はともかく、そのカゲトって男は釣れるかもしれないし……ねっ?」

 ネメシスは僕にウィンクをしてきた。

 こうして僕はエルフの国へと向かう事になった。もう、僕は昔の僕ではない。もう、元の道には戻れない。例えこの世界を滅ぼす事になったとしてもだ。

 エルフの国を舞台に、血と騒乱の予感がしたのであった。

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