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第32話 闇勇者ハヤトとの闘い上
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※闇勇者ハヤト視点
「……ここがエルフの国か」
僕は道案内をしていたエルフの洗脳を解く。
「ひ、ひいっ! こ、殺さないで! た、助けて!」
エルフの目に光が戻った。自由意思を取り戻したのだ。
「ダメだ……エルフは根絶やしにする。僕はエルフ国を攻め落とす命令を受けているんだからさ」
「ひ、ひいっ! ひいっーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
エルフが無様な悲鳴を上げた。僕は剣を振り上げる。そして僕が剣を振り下ろそうとした。
――その時であった。突如声が響く。僕はその時、思わぬ再会を果たす事になったのだ。あの『うすいかげと』とかいう、記憶の片隅にも残っていないようなモブキャラと。
※カゲト視点
「待て!」
俺は叫んだ。エルフを斬ろうとしている、一人の男がいたからだ。
「あ、あなたは——」
「お、お前は——」
俺とエステルはその男を見て絶句した。唯一まともな面識のないレティシアだけがきょとんとした表情をしていた。
「ど、どうして、あなたがここに!」
エステルは叫ぶ。間違いない。こいつは異世界に勇者として召喚された勇者ハヤトだったのである。
間違いない。勇者ハヤト本人だ。そのはずなのだが、とても同じ人物だとは思えなかった。その身体からはドス黒い暗黒のオーラが漲っていたのだ。そして目が据わっている。冷酷な殺人鬼を前にしているかのようだ。
人を殺す事など赤子の手を捻る程度の、造作のない事だとしか思っていない。そういう常軌を逸した人間を目の前にしていかのような、そんな感覚に陥っていたのだ。
そしてその感覚は間違いなく錯覚なんかではない。本能がそう訴えかけてきている。
「お前は日向勇人じゃないか……なんでここにいるんだ? もしかしてお前が魔王軍に加担した新戦力で、このエルフ国を侵略しにきた、侵略者って事なのか?」
「ふふっ……そうだよ。カゲト君。君の言う通り。今、僕は魔王軍に所属している。魔王軍四天王の一角。アスタロト様の直属の部下としてね……エルフの国の侵略者っていうのも間違いなく僕だ。その認識で何も間違ってないよ。クックック」
ハヤトは余裕のある不気味な笑みを浮かべた。
「な、なんでだ……俺は知っているんだぞ。お前は女神から授かるはずだったチートスキルの一切を手違いで授からなかった。お前はただの無力な、何も持ち合わせない一般市民のはずだ。ただの人間のはずだ……それなのに、なぜそれほどの力を持っているんだ」
『解析(アナライズ)』のスキルは使用していない。だが、ハヤトの全身から発している負のオーラは物凄く強いものだった。本能的に警戒せざるを得ない程に、圧倒的なエネルギーを放っているのである。
「なんで、そんなお前がそれだけの力を持ち、魔王軍に所属し、そしてエルフの国を侵略しに来たんだ? どうしてそんな事ができる?」
何となくだが、予想がついていた。自力であの状態から、しかもこんな短期間で強くなれるはずがない。だから、俺もそうなのだが、第三者から力を授けられたに決まっているのだ。
「ハヤト、お前は悪魔に魂を売ったんだな?」
「ハッハッハ! その通り! その通りだよ! カゲト君! 僕は悪魔に魂を売ったんだよ! より正確に言うと闇の女神ネメシスに売ったんだけどさ。そして僕は力を、君を遥かに上回る、絶大な力を手に入れたんだよ! 僕は勇者よりも強い闇の勇者になったんだよ! アッハッハッハッハ! アッハッハッハッハ!」
闇勇者となったハヤトは壊れたように笑い続ける。
「……なぜだ。なぜそんな事をした……勇者として召喚されたお前が、悪しき存在——魔王軍の側に寝返るなんて。そんな事して良いはずがないだろ? そんな事もお前はわからなかったのか?」
俺は呆れて言葉もなかった。
「ふざけるな! あのクソ女神の手違いでスキルを授からなかった僕が今までどんな目に合ってきたのか! お前はそれを知らないからそんな正論が言えるんだ!」
闇勇者ハヤトは叫んだ。その台詞は今までにない程に人間らしい感情の籠ったものであった。
「スキルもない僕はまともに闘えない! モンスターを倒せない! だから経験値も得られないし、LVも上がらないんだ! 何とか繋ぎ止めて置こうと思った剣聖エステルにも逃げられ、僕はあのクソ女神の手違いでスキルを授からなかった事を教わった!」
闇勇者ハヤトの目は怒りの炎で真っ赤に染まっていた。
「それから僕は盗賊に襲われ、身ぐるみを剥がれたんだ! そして僕は路頭に迷った! 挙句の果てにはホームレスにまでなって物乞いをする羽目になったんだ! そして僕を召喚したそんな哀れな僕を救おうともせず、見捨てやがったんだ!」
今までの鬱積とした感情を闇勇者ハヤトは爆発させてきた。
「そんな僕に闇の女神ネメシスが力を与えてくれたんだ。僕の魂を代償にね。当然、それは悪魔の契約だった。僕にだってそれくらいの事はわかっていたさ。でもさ、この世界は僕に優しくなかったんだよ! 冷たかった! 冷淡だったんだ! だから僕が悪魔に魂を売る事に対して、躊躇いなんてあるわけがなかったんだ!」
闇勇者ハヤトは叫ぶ。その叫びには怒りが滲んでいたが、どこか悲しい感じもした。
「ハヤト……お前は」
悲しい奴だ。彼は確かに人の道を外れてしまった。だが、彼には彼なりの理由があったのだ。世界は彼を救えなかった。元々は俺がいたからだ。俺があの時、ハヤトの勇者召喚にたまたま巻き込まれたから。彼は女神から授けられるはずのチートスキルを授けられずに。こうして不遇な異世界生活を送る事になったのだ。
だから、彼がこうなってしまった責任の一旦は俺にある。そう言ってしまっても過言ではなかった。
生まれついての悪などいない。そう、周囲の環境や不運が重なり、彼は闇に落ちてしまったのだ。
「もう、戻れないんだな。俺達は——刃を交える以外にないのか」
「ふっ……そんな事言うまでもないだろ」
闇勇者ハヤトは剣を構える。不気味な剣だ。漆黒の剣。闇属性のレア武器に違いない。
お互いの立場が異なり、利害が不一致する。結局は人だろうが魔族だろうが、争いというものは避けられないものなのだ。
「僕はエルフの国を侵略しに来た。そして、君達はエルフの国を守りにきた。僕と君達の動機は平行線だ。決して交わる事などないのさ。だったらやる事は一つだ。闘って、どちらかが勝ち、どちらかが負ける。それだけの事さ」
闇勇者ハヤトは笑みを浮かべた。その笑みはどこか悲し気にも見えたのだ。
場の緊張感が増していく。誰も会話をする者がいなくなった。そしてその緊張が最高潮に達した時、風船が破裂するみたいに、突如弾けたのだ。戦闘の狼煙が上がる。
こうして俺達のパーティーと闇勇者ハヤトとの闘いが始まったのである。
「……ここがエルフの国か」
僕は道案内をしていたエルフの洗脳を解く。
「ひ、ひいっ! こ、殺さないで! た、助けて!」
エルフの目に光が戻った。自由意思を取り戻したのだ。
「ダメだ……エルフは根絶やしにする。僕はエルフ国を攻め落とす命令を受けているんだからさ」
「ひ、ひいっ! ひいっーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
エルフが無様な悲鳴を上げた。僕は剣を振り上げる。そして僕が剣を振り下ろそうとした。
――その時であった。突如声が響く。僕はその時、思わぬ再会を果たす事になったのだ。あの『うすいかげと』とかいう、記憶の片隅にも残っていないようなモブキャラと。
※カゲト視点
「待て!」
俺は叫んだ。エルフを斬ろうとしている、一人の男がいたからだ。
「あ、あなたは——」
「お、お前は——」
俺とエステルはその男を見て絶句した。唯一まともな面識のないレティシアだけがきょとんとした表情をしていた。
「ど、どうして、あなたがここに!」
エステルは叫ぶ。間違いない。こいつは異世界に勇者として召喚された勇者ハヤトだったのである。
間違いない。勇者ハヤト本人だ。そのはずなのだが、とても同じ人物だとは思えなかった。その身体からはドス黒い暗黒のオーラが漲っていたのだ。そして目が据わっている。冷酷な殺人鬼を前にしているかのようだ。
人を殺す事など赤子の手を捻る程度の、造作のない事だとしか思っていない。そういう常軌を逸した人間を目の前にしていかのような、そんな感覚に陥っていたのだ。
そしてその感覚は間違いなく錯覚なんかではない。本能がそう訴えかけてきている。
「お前は日向勇人じゃないか……なんでここにいるんだ? もしかしてお前が魔王軍に加担した新戦力で、このエルフ国を侵略しにきた、侵略者って事なのか?」
「ふふっ……そうだよ。カゲト君。君の言う通り。今、僕は魔王軍に所属している。魔王軍四天王の一角。アスタロト様の直属の部下としてね……エルフの国の侵略者っていうのも間違いなく僕だ。その認識で何も間違ってないよ。クックック」
ハヤトは余裕のある不気味な笑みを浮かべた。
「な、なんでだ……俺は知っているんだぞ。お前は女神から授かるはずだったチートスキルの一切を手違いで授からなかった。お前はただの無力な、何も持ち合わせない一般市民のはずだ。ただの人間のはずだ……それなのに、なぜそれほどの力を持っているんだ」
『解析(アナライズ)』のスキルは使用していない。だが、ハヤトの全身から発している負のオーラは物凄く強いものだった。本能的に警戒せざるを得ない程に、圧倒的なエネルギーを放っているのである。
「なんで、そんなお前がそれだけの力を持ち、魔王軍に所属し、そしてエルフの国を侵略しに来たんだ? どうしてそんな事ができる?」
何となくだが、予想がついていた。自力であの状態から、しかもこんな短期間で強くなれるはずがない。だから、俺もそうなのだが、第三者から力を授けられたに決まっているのだ。
「ハヤト、お前は悪魔に魂を売ったんだな?」
「ハッハッハ! その通り! その通りだよ! カゲト君! 僕は悪魔に魂を売ったんだよ! より正確に言うと闇の女神ネメシスに売ったんだけどさ。そして僕は力を、君を遥かに上回る、絶大な力を手に入れたんだよ! 僕は勇者よりも強い闇の勇者になったんだよ! アッハッハッハッハ! アッハッハッハッハ!」
闇勇者となったハヤトは壊れたように笑い続ける。
「……なぜだ。なぜそんな事をした……勇者として召喚されたお前が、悪しき存在——魔王軍の側に寝返るなんて。そんな事して良いはずがないだろ? そんな事もお前はわからなかったのか?」
俺は呆れて言葉もなかった。
「ふざけるな! あのクソ女神の手違いでスキルを授からなかった僕が今までどんな目に合ってきたのか! お前はそれを知らないからそんな正論が言えるんだ!」
闇勇者ハヤトは叫んだ。その台詞は今までにない程に人間らしい感情の籠ったものであった。
「スキルもない僕はまともに闘えない! モンスターを倒せない! だから経験値も得られないし、LVも上がらないんだ! 何とか繋ぎ止めて置こうと思った剣聖エステルにも逃げられ、僕はあのクソ女神の手違いでスキルを授からなかった事を教わった!」
闇勇者ハヤトの目は怒りの炎で真っ赤に染まっていた。
「それから僕は盗賊に襲われ、身ぐるみを剥がれたんだ! そして僕は路頭に迷った! 挙句の果てにはホームレスにまでなって物乞いをする羽目になったんだ! そして僕を召喚したそんな哀れな僕を救おうともせず、見捨てやがったんだ!」
今までの鬱積とした感情を闇勇者ハヤトは爆発させてきた。
「そんな僕に闇の女神ネメシスが力を与えてくれたんだ。僕の魂を代償にね。当然、それは悪魔の契約だった。僕にだってそれくらいの事はわかっていたさ。でもさ、この世界は僕に優しくなかったんだよ! 冷たかった! 冷淡だったんだ! だから僕が悪魔に魂を売る事に対して、躊躇いなんてあるわけがなかったんだ!」
闇勇者ハヤトは叫ぶ。その叫びには怒りが滲んでいたが、どこか悲しい感じもした。
「ハヤト……お前は」
悲しい奴だ。彼は確かに人の道を外れてしまった。だが、彼には彼なりの理由があったのだ。世界は彼を救えなかった。元々は俺がいたからだ。俺があの時、ハヤトの勇者召喚にたまたま巻き込まれたから。彼は女神から授けられるはずのチートスキルを授けられずに。こうして不遇な異世界生活を送る事になったのだ。
だから、彼がこうなってしまった責任の一旦は俺にある。そう言ってしまっても過言ではなかった。
生まれついての悪などいない。そう、周囲の環境や不運が重なり、彼は闇に落ちてしまったのだ。
「もう、戻れないんだな。俺達は——刃を交える以外にないのか」
「ふっ……そんな事言うまでもないだろ」
闇勇者ハヤトは剣を構える。不気味な剣だ。漆黒の剣。闇属性のレア武器に違いない。
お互いの立場が異なり、利害が不一致する。結局は人だろうが魔族だろうが、争いというものは避けられないものなのだ。
「僕はエルフの国を侵略しに来た。そして、君達はエルフの国を守りにきた。僕と君達の動機は平行線だ。決して交わる事などないのさ。だったらやる事は一つだ。闘って、どちらかが勝ち、どちらかが負ける。それだけの事さ」
闇勇者ハヤトは笑みを浮かべた。その笑みはどこか悲し気にも見えたのだ。
場の緊張感が増していく。誰も会話をする者がいなくなった。そしてその緊張が最高潮に達した時、風船が破裂するみたいに、突如弾けたのだ。戦闘の狼煙が上がる。
こうして俺達のパーティーと闇勇者ハヤトとの闘いが始まったのである。
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