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第39話(闇勇者視点)王国を侵略する
しおりを挟む僕はアスタロトと共に、王国軍を侵略すべく、その前線へと来ていた。
「あそこが僕を召喚した国である、エスティーゼ王国か……」
遥か、遠方には人間の国であるエスティーゼ王国が霞んだように見えた。
「アスタトロ様!」
一人の魔族兵がアスタロトの前にかしづく。こいつは小間使いのように動き回る雑兵だ。
「報告があります。我が魔王軍は人間達に対して劣勢であります。何卒、ご協力を」
「わかっている。だから我々が援軍へとかけつけたのだからな……」
「全く……魔王軍も数が多いというだけでだらしのない連中の集まりだ」
「ぐっ……」
僕がわかりやすく悪態をつくも、魔族兵はただ押し黙るだけだ。僕のような強者にたてつくとどうなるか、弱者なりに理解しているのだろう。
「魔族兵を引き下げろ。負傷している者は治癒魔法(ヒーリング)で癒せ」
「は、はぁ……ですが、それをすると、前線が突破され、本陣まで敵兵が迫ってくる事に……」
「良いから、言う通りにせよ。ここは戦場だ。上官である私の命令は絶対だぞ」
「し、失礼しました。前線の兵士達を引き下げさせます」
「どうするつもりなんですか? アスタロト様」
「私は死霊術士(ネクロマンサー)だ。MPを消費すれば魔族兵の代わり位作り出せる」
アスタロトは魔法スキルを発動した。
「『不死者召喚(アンデッドサモン)」
魔法陣から召喚されたのは、膨大な数の不死者だった。スケルトン、ゾンビ。そういった低級の不死者(アンデッド)達だが、MPを消費して召喚しただけなので、魔族兵とは異なり使い勝手が良い。失ったとしても、MPさえ回復すればまた召喚する事ができるのだから。
「こいつ等で前線の兵士の代替にさせる」
「へー……便利なものですね」
「行け! 不死者(アンデッド)達よ!」
『『『ヴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!』』』
奇妙な声を発しつつ、不死者(アンデッド)達が進軍していった。
◇
「な、なんだ? この唸り声は」
前線での兵士達の事だった。やっとの事で魔王軍を退ける事ができたかと思うと、今度は異様な唸り声が聞こえてきたのである。その場にいた人間達は違和感を覚えたようだった。
「み、見ろ! 不死者(アンデッド)だ! 不死者(アンデッド)の大軍が襲い掛かってくるぞ!」
「くっ! 応戦だ! 魔導士大隊は聖魔法(ホーリー)で応戦しろ! こいつ等は斬撃や打撃には強いが、聖属性の攻撃には弱いんだ!」
人間の兵士は、混乱し始めた。
◇
「さて……僕も行くよ」
僕はそう言って、その場を後にした。
「がんばれ! がんばれ! 闇勇者ハヤトちゃん!」
闇の女神ネメシスが僕を応援し始めた。こいつは本当に何もしないな。確かに、僕に力は授けてはくれたが、それでも直接戦闘に協力したりはしないようだ。女神という立場の連中はどちらかと言うと、中立的な存在なのだろう。
あのクソ女神もまた、直接的にこの世界に対して何かしようとはしていなかった。
「良いのか? 闇勇者ハヤトよ」
「見てるだけっていうのも退屈だしね……それに、僕はあの王国の人間達に恨みがあるからね」
僕は邪悪な笑みを浮かべ、前線へと赴いた。
◇
「こいつ! こいつ! こいつ!」
前線の兵士がでたらめに剣を振り回す。
その混乱とした戦線に、僕が姿を現す。
「な、なんだ! こいつは! お、お前は人間じゃないか!」
「み、見た事があるぞ! こいつの顔、こいつは我がエスティーゼ王国が召喚した、伝説の勇者様だ!」
王国の兵士達は僕が登場した事で、さらに慌て始めた。
「勇者様! 何をやってるのですか! どうか我々にご協力ください! そして一緒に魔を滅ぼし、世界の平和を勝ち取りましょうぞ!」
一人の兵士が歩み寄った来た。
「うるさい、黙れ」
僕はその兵士の首を刎ね落とした。
「えっ?」
兵士は何が起こっているのかもわからないといった様子だった。惨めな人生の最後であった。だけど『死』なんていうものはそういうものだ。いつだって突然に、理不尽に訪れる。当の本人にだってわからない。恐らくはそういうものなのだ。
「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
それを見た兵士が突然、発狂したように叫び出す。
「な、なぜなのですか! 勇者様! なぜそのような非道な行いを!」
「僕はもう勇者じゃない……僕は魔王軍の側についた。お前達の敵だ。僕は勇者ではなく、闇勇者になったんだ」
「なぜですか!? なぜそのような事を! なぜ敵である魔王軍の側についたのです!」
「そんなの決まっているだろ! あのクソ女神の手違いで何のスキルも授からなかった僕にお前達は何もしなかったんだ! 何のスキルもない、無能な僕にこの世界は冷たかった……だから僕は誓ったんだ。こんなクソみたいな世界なら滅んでしまえばいいと。もうどうなってしまってもいいと……だから僕は魔王軍の側についたんだ」
「そ……そんな、身勝手な理由でこの世界を滅ぼそうというのですか」
兵士達は呆れていた。当人以外にとってはそんなようなものだろう。だが、僕にとっては十分すぎる理由だったのだ。
「うるさい。僕の勝手だ。もうどうなってしまってもいいんだよ。こんな世界。僕が、この僕の力で滅ぼしてやる。かかってくるならかかってこい。もう言葉は不要だ。力で語ろうじゃないか」
「もはやこの勇者様は人間ではない……倒すしかないぞ」
「ああ……」
兵士達は僕に襲い掛かろうとしてくる。
僕は技スキルを発動した。
「『ダークエクスカリバーEX』」
僕の装備している剣『ダークエクスカリバー』が暗黒の光を放つ。全てを滅するだけの強力なエネルギーをこの剣は秘めていた。
「なっ!? なんだ、この力は!」
「潰れろ。愚かな人間達よ!」
暗黒の光が王国の兵士達を飲み込んでいった。こうして、エスティーゼ王国の兵士達は壊滅していったのだ。
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