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第23話 火竜の鱗を利用して、露天風呂を作る

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「はぁ………………つ、疲れた………………………………………………」

 ドサッーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!

 俺はミスリルの家に帰ってくると同時に、崩れ落ちた。長旅であり、そして何度もの激闘を繰り広げてきた疲労が帰ってくると同時に、ドッと出てきたのだ。

 緊張して、気が張っていた時は気づかなかった疲労に、気が緩むと気づくのである。気を張って誤魔化していた疲れが、緩むと同時にドっと出てくるのである。それは人間の性質みたいなもので致し方ない事だった。

 それはリノアとリディアも同じであった。

「はぁ……。流石に私も疲れました……………」

「それは私も同じです。ばたんきゅー…………ですー」

 二人は雪崩れ込んだ。

「身体が寒いです……温まりたいです」

 リディアはそう嘆く。

「……お風呂……最後に入ったのは数か月前です。

 疲れて、ついついと本音が噴き出てきたのだ。不平不満を言いたくはないものだが、疲れてしまっていては無理もない。

 生活環境に不満が出るのも当然だった。一応のところは問題なく生活していけているが、それは何とか生存していけるという最低限のハードルをクリアしているに過ぎない。それでもお風呂に入れないという事は婦女子にとってはネックになる点なのであろう。
 
 俺は考えた。お風呂の問題をクリアする必要性があるという事に……。今まではできなかった。だが、今ならきっと出来るはずだ。泉から水を得る事も出来るようになったし、そして火竜の鱗も入手した今。

 水を沸騰させ、お湯にする事も出来る事だろう。

「……大砲を作るのは後回しだ。大砲っていうのは武器だ。武器は有事の際には役立つかもしれないが……日頃から役に立つものではないし。そもそも役に立つ機会なんてやってこないのが好ましいものだ」

 俺はそう語る。武器はなくてはならないものかもしれないが、そもそも必要な機会が来ない方がいい。それが平和というものだ。平和な方が好ましいのは当然の事であった。

「だから最初にお風呂を作ろうと思う」

「「お風呂ですか!?」」

 二人は声を張り上げた。明らかに声のトーンが変わった。それだけ関心が高いという事なのだろう。やはり、女性にとってはお風呂というのは大の関心事なのだ。彼女達にとっては衣食住と同じかそれ以上に、入浴による清潔というものは代え難いものなのである。

「で、でも、どうやって……どうやってお風呂を作るというのですか?」

 リノアはそう聞いてきた。

「俺の『ビルドスコップ』で地面を掘り起こし、ミスリル鋼で風呂釜を作る……そして泉から汲んで来た水を入れて、火竜の鱗を火力にするんだ……そうすれば多分、露天風呂が問題なく出来るはずなんだ」

「「露天風呂!?」」

「……心配しなくても、こんな北の辺境には誰もいないから誰かに覗かれる心配はない……多分、恐らく……」

 容易に入浴を覗く事ができる人間が一人いる。それは俺ではあるが……それは俺が自制すればいいだけという問題である。

「どうする? 作ろうか……露天風呂」

「は、はい! 勿論です!」

「入れるというのなら入りたいです! ずっと沐浴しかできていませんでしたから、芯から温まるという経験をしていたのです!」

 二人はそう答えた……。まあ、そうだろう。多少危険性はあるが……露天風呂といものは。外で風呂に入る以上、無防備になるのだから、外敵に襲われるリスクなどはありえた。

 だが、その危険性を考慮してでも、彼女達の風呂に入りたいという生理的欲求は大きかったのである。

「よし、なら作ろうか。露天風呂を!」

 俺は早速、露天風呂を作る工事に取り掛かった。作業は丸一日の時間を経過し、そして、ついには完成する事になる。

 ◇

「よし! できたぞ!」

 丸一日の作業を経て、露天風呂が完成した。我ながら良い出来だった。手を入れて水温を確認する。

「よし! 問題ないな……これなら入れそうだ」

 俺はそう言った。露天風呂の水温は適温だった。ちょうどいい湯加減に調節できたようだ。

「ありがとうございます、グラン様」

「これでお風呂に入れますー」

 二人は風呂に入れるとあって、大喜びをしていた。

「グラン様――その」

 リノアは俺に目を配らせる。何かを訴えかけてきているようだ。

「わかってる……俺は家の中で待たせて貰うよ。二人が入った後に、風呂に入らせて貰う」

「ありがとうございます」

 リノアは頭を深々と下げ、俺に感謝の言葉を伝えてきた。

 ――だが、この露天風呂による入浴中に予期せぬ出来事が起こったのだ。それは――。

 ◇

「……ふぅ」

 露天風呂を作る工事で多少疲弊していた。だから、家の中のベッドで休む事にしていた。

 だが、程なくして、彼女達の悲鳴が聞こえてきたのだ。

「「きゃああああああああああああああああああああああああああああああああ!」」

 二人の悲鳴が露天風呂の方から響いてきた。

「なっ! なんだっ!」

 俺は慌てて、外に飛び出していったのだ。

 ◇

「ぐっへっへ! 隙を見せないかと様子を伺っていたら、こんなにあっさりと隙を見せるとはなっ!」

「そんな無防備な状態ではどうしようもないだろう……クックック」

「……脱がせる手間がなくていい……俺達がたっぷりと可愛がってやるからな」

「その通りだ……生まれてきた事を後悔する位の屈辱を貴様達に与えてやろうぞ……クックック」

 魔王の手先である――魔族兵達が、彼女達の前に姿を現したのだ。恐らくは魔王軍の斥候(スパイ)だろう。俺達の動向を伺うべく、斥候(スパイ)を忍ばせていたのだ。その数は二名と、さほど多い人数ではない。

 ――だが、リノア達が入浴し、無防備な状態になったのを好機と見て、姿を現し、襲い掛かってきたのである。

「待て!」

 俺は魔族兵の前に姿を現し、立ちはだかるのであった。

「なに!」

「くっ! 人間が! たった一人で何が出来るというのだ!」

「させてなるものか!」

 俺は【建築(ビルド)】スキルで『ビルドハンマー』を作り出す。

「やっちまうぜ! こらっ!」

「血祭りだ! 愚かな人間よっ!」

 こうして、突如として魔族兵との戦闘が始まったのである。




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