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第一章

アイリスの教育②

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「分かればいい」

 それだけ言い残し、父はさっさと部屋から出て行った。
と同時に、使用人達がこちらへ駆け寄ってくる。
『大丈夫ですか……!?』と心配する彼らに、私は笑顔を向け小さく頷いた。

 ────その翌日。
私は父と継母の居ない時間を狙って、アイリスの部屋へ繰り出した。
父にはああ言ったものの、やはり教養は身につけるべきだと思って。
こっそり、アイリスに教えようと考えたのだ。

 父にバレないよう動くとなると、家庭教師は雇えない。
だから、私自ら教えなければならなかった。

 『仕事との両立は難しいけど、頑張らないと』と奮起しつつ、私はアイリスの元を訪ねる。
まずは簡単な挨拶を交わし、来客用のソファに腰掛けた。
侍女の用意した紅茶とお菓子を前に、『ちょうどいいからテーブルマナーから教えよう』と思い立つ。

「あのね、アイリス。ティーカップを持つ時はこうやって……」

「え~!?お姉様ってば、また私に勉強させるつもり!?」

「いや、これは貴方のためでもあって……」

「嫌よ、私!やりたくない!」

 プイッと顔を背け、アイリスは足でテーブルを蹴る。
本人はただプラプラ足を揺らしているだけのようだが、かなりお行儀が悪かった。

 まだ六歳の子供だからあまりガミガミ言いたくはないけど、社交界でこんな真似をしたら周りにどう思われるか分からない。
ここは姉として、しっかり指導しないと。

 父や継母はさておき、ある意味被害者の一人とも言えるアイリスのことはそこまで嫌いじゃないため、どうにか矯正出来ないか考える。
『どうやったら伝わるかな?』と知恵を絞っていると、アイリスはチラリとこちらを見た。
かと思えば、プクッと頬を膨らませる。
どうやら、説得を諦めていないことが伝わってしまったらしい。

「お父様は『やらなくてもいい』って、言ったもん!」

「ええ、そうね。でも、習っておいて損はないと思うわ。そうだ、こっそり練習してお父様達に披露すればきっと褒めてくれるわよ?」

「お父様もお母様は私が何をしたって、褒めてくれるわ!」

「それは……そうかもしれないけど、でも自分の力で何かを成し遂げた時の達成感は凄いわよ?」

 『自信にも繋がるし』と言葉を重ねるものの……アイリスは全く意に介さない。
今までずっと甘やかされてきたからか、何かのために頑張るとか我慢するとか、そういうことが理解出来ないようだ。
『だから、何?』と言わんばかりの態度を取るアイリスに、私はほとほと困り果てる。
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