9 / 208
第一章
アイリスの教育③
しおりを挟む
仕方ない……子供相手にあまりこんな話はしたくなかったけど、本当の理由を話そう。
「あのね、アイリス。今、貴方やお継母様はとても微妙な立場に居るの。血筋や名誉を尊ぶ貴族にとって、二人の存在はその……凄くイレギュラーでね。だから、パーティーやお茶会に行ったらきっと白い目で見られるわ」
「!」
ハッとしたように目を見開くアイリスは、ようやくこちらを見た。
教養の大切さや必要性について理解し始め、表情を引き締める。
とはいえ、まだ子供なので何となく『自分に不利かも?』程度の認識しかないだろう。
でも、今はそれで充分だ。
「貴族達は貴方の一挙一動に目を光らせ、少しでも品のない行いをすれば即座に馬鹿にすることでしょう。言葉の端々に見えない棘を仕込みながら」
「……」
危機感を煽られ黙り込むアイリスに、私はそっと眉尻を下げた。
『怖がらせてしまった』と良心を痛めながらも、言葉を紡ぐ。
「アイリス、社交界はそういう所なの。辛いかもしれないけど、他の貴族達に隙を見せないためにも教養を……」
『教養を身につけましょう』と続ける筈だった言葉は、扉の開閉音によって遮られた。
ハッとして顔を上げると、そこには父の姿が……。
嘘……?どうして……?今日は子爵と食事に行くって……!
「子爵が体調不良で来れないからと、代わりにアイリスを食事へ誘いに来たが……まさか、こんなことになっているとはな。早めに帰宅して、正解だった」
「お、お父様……」
血の気が引いていく感覚を覚えながら、私は震える手を強く握り締める。
『この状況はどう考えても、不味い……!』と焦る私の前で、父はズンズンこちらへ近づいてきた。
「私に隠れて、コソコソと……まるで、ネズミのようだな」
「も、申し訳ございません。ですが、これはアイリスを思ってのことで……」
『姉心だったんです』と弁解する私に、父はハッと乾いた笑みを漏らす。
と同時に、私の髪を思い切り引っ張った。
「言い訳は要らない!」
「っ……!」
「お前といい、シエラといい……本当にいつもいつも余計なことばかり!反吐が出る!」
全身から嫌悪を滲ませ、父はソファから私を引きずり落とした。
『きゃぁぁぁああ!』と悲鳴を上げる侍女達を他所に、彼はどこかへ私を連れて行こうとする。
一応アイリスの前だからか、ここで罰を与えるつもりはないらしい。
『今回は鞭打ちくらいじゃ、済まないかも……』と震える中────コンコンッと扉をノックする音が聞こえた。
反射的に顔を上げると、開いたままの扉に寄り掛かる少年が目に入る。
「────ヴィンセント……」
「あのね、アイリス。今、貴方やお継母様はとても微妙な立場に居るの。血筋や名誉を尊ぶ貴族にとって、二人の存在はその……凄くイレギュラーでね。だから、パーティーやお茶会に行ったらきっと白い目で見られるわ」
「!」
ハッとしたように目を見開くアイリスは、ようやくこちらを見た。
教養の大切さや必要性について理解し始め、表情を引き締める。
とはいえ、まだ子供なので何となく『自分に不利かも?』程度の認識しかないだろう。
でも、今はそれで充分だ。
「貴族達は貴方の一挙一動に目を光らせ、少しでも品のない行いをすれば即座に馬鹿にすることでしょう。言葉の端々に見えない棘を仕込みながら」
「……」
危機感を煽られ黙り込むアイリスに、私はそっと眉尻を下げた。
『怖がらせてしまった』と良心を痛めながらも、言葉を紡ぐ。
「アイリス、社交界はそういう所なの。辛いかもしれないけど、他の貴族達に隙を見せないためにも教養を……」
『教養を身につけましょう』と続ける筈だった言葉は、扉の開閉音によって遮られた。
ハッとして顔を上げると、そこには父の姿が……。
嘘……?どうして……?今日は子爵と食事に行くって……!
「子爵が体調不良で来れないからと、代わりにアイリスを食事へ誘いに来たが……まさか、こんなことになっているとはな。早めに帰宅して、正解だった」
「お、お父様……」
血の気が引いていく感覚を覚えながら、私は震える手を強く握り締める。
『この状況はどう考えても、不味い……!』と焦る私の前で、父はズンズンこちらへ近づいてきた。
「私に隠れて、コソコソと……まるで、ネズミのようだな」
「も、申し訳ございません。ですが、これはアイリスを思ってのことで……」
『姉心だったんです』と弁解する私に、父はハッと乾いた笑みを漏らす。
と同時に、私の髪を思い切り引っ張った。
「言い訳は要らない!」
「っ……!」
「お前といい、シエラといい……本当にいつもいつも余計なことばかり!反吐が出る!」
全身から嫌悪を滲ませ、父はソファから私を引きずり落とした。
『きゃぁぁぁああ!』と悲鳴を上げる侍女達を他所に、彼はどこかへ私を連れて行こうとする。
一応アイリスの前だからか、ここで罰を与えるつもりはないらしい。
『今回は鞭打ちくらいじゃ、済まないかも……』と震える中────コンコンッと扉をノックする音が聞こえた。
反射的に顔を上げると、開いたままの扉に寄り掛かる少年が目に入る。
「────ヴィンセント……」
78
あなたにおすすめの小説
【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~
紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。
※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。
※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。
※なろうにも掲載しています。
不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。
桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。
戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。
『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。
※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。
時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。
一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。
番外編の方が本編よりも長いです。
気がついたら10万文字を超えていました。
随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!
幼馴染の生徒会長にポンコツ扱いされてフラれたので生徒会活動を手伝うのをやめたら全てがうまくいかなくなり幼馴染も病んだ
猫カレーฅ^•ω•^ฅ
恋愛
ずっと付き合っていると思っていた、幼馴染にある日別れを告げられた。
そこで気づいた主人公の幼馴染への依存ぶり。
たった一つボタンを掛け違えてしまったために、
最終的に学校を巻き込む大事件に発展していく。
主人公は幼馴染を取り戻すことが出来るのか!?
[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・
青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。
婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。
「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」
妹の言葉を肯定する家族達。
そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。
※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。
(完結)私より妹を優先する夫
青空一夏
恋愛
私はキャロル・トゥー。トゥー伯爵との間に3歳の娘がいる。私達は愛し合っていたし、子煩悩の夫とはずっと幸せが続く、そう思っていた。
ところが、夫の妹が離婚して同じく3歳の息子を連れて出戻ってきてから夫は変わってしまった。
ショートショートですが、途中タグの追加や変更がある場合があります。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
妹と婚約者が結婚したけど、縁を切ったから知りません
編端みどり
恋愛
妹は何でもわたくしの物を欲しがりますわ。両親、使用人、ドレス、アクセサリー、部屋、食事まで。
最後に取ったのは婚約者でした。
ありがとう妹。初めて貴方に取られてうれしいと思ったわ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる