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第一章
アイリスの教育③
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仕方ない……子供相手にあまりこんな話はしたくなかったけど、本当の理由を話そう。
「あのね、アイリス。今、貴方やお継母様はとても微妙な立場に居るの。血筋や名誉を尊ぶ貴族にとって、二人の存在はその……凄くイレギュラーでね。だから、パーティーやお茶会に行ったらきっと白い目で見られるわ」
「!」
ハッとしたように目を見開くアイリスは、ようやくこちらを見た。
教養の大切さや必要性について理解し始め、表情を引き締める。
とはいえ、まだ子供なので何となく『自分に不利かも?』程度の認識しかないだろう。
でも、今はそれで充分だ。
「貴族達は貴方の一挙一動に目を光らせ、少しでも品のない行いをすれば即座に馬鹿にすることでしょう。言葉の端々に見えない棘を仕込みながら」
「……」
危機感を煽られ黙り込むアイリスに、私はそっと眉尻を下げた。
『怖がらせてしまった』と良心を痛めながらも、言葉を紡ぐ。
「アイリス、社交界はそういう所なの。辛いかもしれないけど、他の貴族達に隙を見せないためにも教養を……」
『教養を身につけましょう』と続ける筈だった言葉は、扉の開閉音によって遮られた。
ハッとして顔を上げると、そこには父の姿が……。
嘘……?どうして……?今日は子爵と食事に行くって……!
「子爵が体調不良で来れないからと、代わりにアイリスを食事へ誘いに来たが……まさか、こんなことになっているとはな。早めに帰宅して、正解だった」
「お、お父様……」
血の気が引いていく感覚を覚えながら、私は震える手を強く握り締める。
『この状況はどう考えても、不味い……!』と焦る私の前で、父はズンズンこちらへ近づいてきた。
「私に隠れて、コソコソと……まるで、ネズミのようだな」
「も、申し訳ございません。ですが、これはアイリスを思ってのことで……」
『姉心だったんです』と弁解する私に、父はハッと乾いた笑みを漏らす。
と同時に、私の髪を思い切り引っ張った。
「言い訳は要らない!」
「っ……!」
「お前といい、シエラといい……本当にいつもいつも余計なことばかり!反吐が出る!」
全身から嫌悪を滲ませ、父はソファから私を引きずり落とした。
『きゃぁぁぁああ!』と悲鳴を上げる侍女達を他所に、彼はどこかへ私を連れて行こうとする。
一応アイリスの前だからか、ここで罰を与えるつもりはないらしい。
『今回は鞭打ちくらいじゃ、済まないかも……』と震える中────コンコンッと扉をノックする音が聞こえた。
反射的に顔を上げると、開いたままの扉に寄り掛かる少年が目に入る。
「────ヴィンセント……」
「あのね、アイリス。今、貴方やお継母様はとても微妙な立場に居るの。血筋や名誉を尊ぶ貴族にとって、二人の存在はその……凄くイレギュラーでね。だから、パーティーやお茶会に行ったらきっと白い目で見られるわ」
「!」
ハッとしたように目を見開くアイリスは、ようやくこちらを見た。
教養の大切さや必要性について理解し始め、表情を引き締める。
とはいえ、まだ子供なので何となく『自分に不利かも?』程度の認識しかないだろう。
でも、今はそれで充分だ。
「貴族達は貴方の一挙一動に目を光らせ、少しでも品のない行いをすれば即座に馬鹿にすることでしょう。言葉の端々に見えない棘を仕込みながら」
「……」
危機感を煽られ黙り込むアイリスに、私はそっと眉尻を下げた。
『怖がらせてしまった』と良心を痛めながらも、言葉を紡ぐ。
「アイリス、社交界はそういう所なの。辛いかもしれないけど、他の貴族達に隙を見せないためにも教養を……」
『教養を身につけましょう』と続ける筈だった言葉は、扉の開閉音によって遮られた。
ハッとして顔を上げると、そこには父の姿が……。
嘘……?どうして……?今日は子爵と食事に行くって……!
「子爵が体調不良で来れないからと、代わりにアイリスを食事へ誘いに来たが……まさか、こんなことになっているとはな。早めに帰宅して、正解だった」
「お、お父様……」
血の気が引いていく感覚を覚えながら、私は震える手を強く握り締める。
『この状況はどう考えても、不味い……!』と焦る私の前で、父はズンズンこちらへ近づいてきた。
「私に隠れて、コソコソと……まるで、ネズミのようだな」
「も、申し訳ございません。ですが、これはアイリスを思ってのことで……」
『姉心だったんです』と弁解する私に、父はハッと乾いた笑みを漏らす。
と同時に、私の髪を思い切り引っ張った。
「言い訳は要らない!」
「っ……!」
「お前といい、シエラといい……本当にいつもいつも余計なことばかり!反吐が出る!」
全身から嫌悪を滲ませ、父はソファから私を引きずり落とした。
『きゃぁぁぁああ!』と悲鳴を上げる侍女達を他所に、彼はどこかへ私を連れて行こうとする。
一応アイリスの前だからか、ここで罰を与えるつもりはないらしい。
『今回は鞭打ちくらいじゃ、済まないかも……』と震える中────コンコンッと扉をノックする音が聞こえた。
反射的に顔を上げると、開いたままの扉に寄り掛かる少年が目に入る。
「────ヴィンセント……」
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