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第一章

混沌を律する剣③

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「っ……!」

 “混沌を律する剣”によって本来の姿へ戻った“均衡を司りし杖”を前に、父はたじろぐ。
カランと音を立てて床に転がったソレらの前で、思い切り顔を歪めた。
怒りに震える彼を他所に、ロジャー皇帝陛下は席を立つ。

「ふむ。確かにこれは“均衡を司りし杖”だな。昔、一度だけ実物を見たことがある故間違いない」

 落ちた杖の近くまで足を運び、ロジャー皇帝陛下はまじまじとソレを眺めた。

「そうなると、セシリア嬢の証言にも信憑性が……」

「し、知りません!私はやってない!」

 ここまで来てまだシラを切る父に、ロジャー皇帝陛下はもちろんルパート殿下まで呆れ返る。
『もうさっさと罪を認めておけよ』とでも言うように溜め息を零し、小さくかぶりを振った。

「まあ、入れ替わりの件は一旦置いておくとして────“均衡を司りし杖”を発見しておきながら秘匿していたこと、許可なく使用していたことは重罪に当たる。いくら、エーデル公爵家と言えど処罰は免れぬぞ」

「っ……!」

 グッと両手を握り締め、父は俯く。
もはや入れ替わり云々の話じゃなくなってきたことに、焦りを覚えているのかもしれない。

 下手したら、これ反逆罪になるからね。
だって、エーデル公爵家もクライン公爵家も家宝の力の使い道を皇室に委ねることによって、忠誠心を示してきたから。
このような対応は、非常に不味い。

 『確実に信用は失っただろうな』と肩を竦め、ことの成り行きを見守る。
もう私の手に終える話じゃないため。
『陛下の咎を待つしかない』と考える中、父は床に膝をついた。

「何故、いつもこうなんだ……」

 譫言のようにそう呟き、父はふとこちらを振り返る。
その目はとても濁っていた。

「お前の母も、そして私の父も……お前と同じだった。口を開けば、貴族としての義務や責任だのなんだのと……好きで貴族に生まれた訳じゃないのに」

 贅沢すぎる悩みを吐露し、父は目尻に涙を浮かべる。

「私はただ普通に……人間らしく、生きたかっただけなんだ」
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