151 / 208
第二章
地下牢③
しおりを挟む
「フランシス卿、早くこちらへ」
向かってきた風の刃を“混沌を律する剣”で無力化しつつ、ヴィンセントは避難を促す。
『僕の後ろに来てください』と主張する彼を前に、祖父は素早く後退した。
体の向きは変えずに。
恐らく、父へ無防備に背中を見せたくなかったんだと思う。
「それで、セシリア達は何故ここに居るんだ?」
ヴィンセントより後ろに下がると、祖父は再度質問を投げ掛けた。
『自宅に居る筈では?』という疑問を前面に出す彼の前で、私とアイリスは返答に悩む。
どこから話せばいいものか、と思って。
「えっと、細かい点は省きますが、実はお父様の件でクライン公爵家へ協力要請が来たところ私達もたまたまその場に居合わせて」
「『身内の不始末を見過ごす訳には、いかない』と判断し、同行したんです」
自らの意思で出向いたことを告げると、祖父────ではなく、父が反応を示した。
「なんだと!?お前達、実の親を処断するためにやってきたのか!?」
『助けに来てくれた』とでも思っていたのか、父は表情を険しくする。
恐らく、期待を……信用を裏切られて、腹を立てたのだろう。
先に裏切ったのは、そちらだというのに。
『都合のいい時だけ、家族の絆を持ち出すのね』と辟易する中、彼は鋭い目つきでこちらを睨みつけた。
「こんなみすぼらしい姿になった私を見て、何とも思わないのか!」
ところどころ解れたズボンや薄汚れたシャツを示し、父は顔を顰める。
と同時に、祖父が口を開いた。
「そうなったのは、元を正せばお前の責任……つまり、自業自得だ。いちいち、孫達が気に掛ける必要はない」
「うるさい!父上には、聞いていない!」
『話に入ってくるな!』と喚き、父は奥歯を噛み締めた。
まるで癇癪を起こした子供のような対応に、私達はちょっと戸惑う。
昔から大人気ない人ではあったが、ここまで幼い言動を取るようなことはなかったので。
生活が一変した影響かしら?それとも、お祖父様の前ではいつもこんな態度を?
などと考えていると、ヴィンセントが大きく手を叩く。
場の空気を……混乱を鎮めるみたいに。
「とりあえず前公爵のお気持ちは今、関係ないので置いておきましょう」
『そんなことを話している場合じゃない』とバッサリ切り捨て、ヴィンセントは一歩前へ出た。
かと思えば、父に“混沌を律する剣”を向ける。
「では、本題へ入ります。前公爵、今ここで降参してください。そしたら、これ以上誰も傷つかずに済みます」
最初で最後の降伏勧告を行い、ヴィンセントは父の意思を確認した。
『今なら、まだ引き返せる』と主張する彼に、父は────
「降参など、するものか!これは私に与えられた最後のチャンスなのだから!」
────と、拒絶の姿勢を見せる。
きっと、『こんなところで一生を終えるくらいなら』と思っているのだろう。
貴族としての待遇に慣れてしまった父からすれば、地下牢での暮らしは地獄そのものだろうから。
結局、この人はどこまで行っても自分本位なのよね……。
私達家族への影響とか、自分の過去の清算とか……そんなものは一切考えていない。
もし、少しでも頭にあるならこんな選択しない筈だもの。
父の本質が全く変わっていないことを確認し、私は嘆息する。
でも、思ったよりショックは受けなかった。
多分、心のどこかでこうなることが分かっていたんだと思う。
『我ながら、肉親に対してちょっと冷た過ぎるな』と感じる中、ヴィンセントは一つ息を吐く。
「分かりました。では、容赦なく叩き潰します」
その言葉を合図に、私達の戦いは始まった。
向かってきた風の刃を“混沌を律する剣”で無力化しつつ、ヴィンセントは避難を促す。
『僕の後ろに来てください』と主張する彼を前に、祖父は素早く後退した。
体の向きは変えずに。
恐らく、父へ無防備に背中を見せたくなかったんだと思う。
「それで、セシリア達は何故ここに居るんだ?」
ヴィンセントより後ろに下がると、祖父は再度質問を投げ掛けた。
『自宅に居る筈では?』という疑問を前面に出す彼の前で、私とアイリスは返答に悩む。
どこから話せばいいものか、と思って。
「えっと、細かい点は省きますが、実はお父様の件でクライン公爵家へ協力要請が来たところ私達もたまたまその場に居合わせて」
「『身内の不始末を見過ごす訳には、いかない』と判断し、同行したんです」
自らの意思で出向いたことを告げると、祖父────ではなく、父が反応を示した。
「なんだと!?お前達、実の親を処断するためにやってきたのか!?」
『助けに来てくれた』とでも思っていたのか、父は表情を険しくする。
恐らく、期待を……信用を裏切られて、腹を立てたのだろう。
先に裏切ったのは、そちらだというのに。
『都合のいい時だけ、家族の絆を持ち出すのね』と辟易する中、彼は鋭い目つきでこちらを睨みつけた。
「こんなみすぼらしい姿になった私を見て、何とも思わないのか!」
ところどころ解れたズボンや薄汚れたシャツを示し、父は顔を顰める。
と同時に、祖父が口を開いた。
「そうなったのは、元を正せばお前の責任……つまり、自業自得だ。いちいち、孫達が気に掛ける必要はない」
「うるさい!父上には、聞いていない!」
『話に入ってくるな!』と喚き、父は奥歯を噛み締めた。
まるで癇癪を起こした子供のような対応に、私達はちょっと戸惑う。
昔から大人気ない人ではあったが、ここまで幼い言動を取るようなことはなかったので。
生活が一変した影響かしら?それとも、お祖父様の前ではいつもこんな態度を?
などと考えていると、ヴィンセントが大きく手を叩く。
場の空気を……混乱を鎮めるみたいに。
「とりあえず前公爵のお気持ちは今、関係ないので置いておきましょう」
『そんなことを話している場合じゃない』とバッサリ切り捨て、ヴィンセントは一歩前へ出た。
かと思えば、父に“混沌を律する剣”を向ける。
「では、本題へ入ります。前公爵、今ここで降参してください。そしたら、これ以上誰も傷つかずに済みます」
最初で最後の降伏勧告を行い、ヴィンセントは父の意思を確認した。
『今なら、まだ引き返せる』と主張する彼に、父は────
「降参など、するものか!これは私に与えられた最後のチャンスなのだから!」
────と、拒絶の姿勢を見せる。
きっと、『こんなところで一生を終えるくらいなら』と思っているのだろう。
貴族としての待遇に慣れてしまった父からすれば、地下牢での暮らしは地獄そのものだろうから。
結局、この人はどこまで行っても自分本位なのよね……。
私達家族への影響とか、自分の過去の清算とか……そんなものは一切考えていない。
もし、少しでも頭にあるならこんな選択しない筈だもの。
父の本質が全く変わっていないことを確認し、私は嘆息する。
でも、思ったよりショックは受けなかった。
多分、心のどこかでこうなることが分かっていたんだと思う。
『我ながら、肉親に対してちょっと冷た過ぎるな』と感じる中、ヴィンセントは一つ息を吐く。
「分かりました。では、容赦なく叩き潰します」
その言葉を合図に、私達の戦いは始まった。
105
あなたにおすすめの小説
【完結】嫌われ公女が継母になった結果
三矢さくら
恋愛
王国で権勢を誇る大公家の次女アデールは、母である女大公から嫌われて育った。いつか温かい家族を持つことを夢見るアデールに母が命じたのは、悪名高い辺地の子爵家への政略結婚。
わずかな希望を胸に、華やかな王都を後に北の辺境へと向かうアデールを待っていたのは、戦乱と過去の愛憎に囚われ、すれ違いを重ねる冷徹な夫と心を閉ざした継子だった。
【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~
紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。
※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。
※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。
※なろうにも掲載しています。
(完結)私より妹を優先する夫
青空一夏
恋愛
私はキャロル・トゥー。トゥー伯爵との間に3歳の娘がいる。私達は愛し合っていたし、子煩悩の夫とはずっと幸せが続く、そう思っていた。
ところが、夫の妹が離婚して同じく3歳の息子を連れて出戻ってきてから夫は変わってしまった。
ショートショートですが、途中タグの追加や変更がある場合があります。
前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします
柚木ゆず
恋愛
※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。
我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。
けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。
「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」
そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。
妹ばかり見ている婚約者はもういりません
水谷繭
恋愛
子爵令嬢のジュスティーナは、裕福な伯爵家の令息ルドヴィクの婚約者。しかし、ルドヴィクはいつもジュスティーナではなく、彼女の妹のフェリーチェに会いに来る。
自分に対する態度とは全く違う優しい態度でフェリーチェに接するルドヴィクを見て傷つくジュスティーナだが、自分は妹のように愛らしくないし、魔法の能力も中途半端だからと諦めていた。
そんなある日、ルドヴィクが妹に婚約者の証の契約石に見立てた石を渡し、「君の方が婚約者だったらよかったのに」と言っているのを聞いてしまう。
さらに婚約解消が出来ないのは自分が嫌がっているせいだという嘘まで吐かれ、我慢の限界が来たジュスティーナは、ルドヴィクとの婚約を破棄することを決意するが……。
◇表紙画像はGirly Drop様からお借りしました💐
◆小説家になろうにも投稿しています
【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください
ゆうき
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。
義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。
外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。
彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。
「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」
――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。
⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎
幼馴染の生徒会長にポンコツ扱いされてフラれたので生徒会活動を手伝うのをやめたら全てがうまくいかなくなり幼馴染も病んだ
猫カレーฅ^•ω•^ฅ
恋愛
ずっと付き合っていると思っていた、幼馴染にある日別れを告げられた。
そこで気づいた主人公の幼馴染への依存ぶり。
たった一つボタンを掛け違えてしまったために、
最終的に学校を巻き込む大事件に発展していく。
主人公は幼馴染を取り戻すことが出来るのか!?
妹が公爵夫人になりたいようなので、譲ることにします。
夢草 蝶
恋愛
シスターナが帰宅すると、婚約者と妹のキスシーンに遭遇した。
どうやら、妹はシスターナが公爵夫人になることが気に入らないらしい。
すると、シスターナは快く妹に婚約者の座を譲ると言って──
本編とおまけの二話構成の予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる