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最終章

透明な心

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 気絶した僕────シルフが目覚めたのは精霊国の医務室だった。
 真っ白な天井や壁紙にクリーム色の家具たち。
 ここは間違いなく精霊国の医務室だ。

「あっ!お目覚めになられましたか?シルフ様!」

「ジン....」

 僕の配下にある風の精霊ジンは柔らかい笑みを浮かべながら、こちらに近づいてきた。
 その手にはグラスが握られている。
 水を入れてくれたのか....。
 ジンからグラスを受け取り、それを一口煽る。
 透明なそれに何故か虚無感が募った。
 僕は何で.....何であの国を攻撃したんだろう?何でサラマンダーと戦ったんだろう?
 ────何で僕は....こんなにも泣きそうなんだろう?
 何か大事なものを失ったような喪失感と寂しさが僕の心を支配していた。

 嗚呼────また僕は透明に戻ったんだ。

 ....あれっ...?何で僕今.....。
 何で今『また僕は透明に戻ったんだ』って思ったんだろう?
 だって、僕は元々透明だったじゃないか。今も昔もずっと....。
 僕の心は白にすら染まらない透明な心。
 どんな人物にも出来事にも動じない...それが僕、シルフだ。
 そう....その筈なのに....何で僕の胸はこんなにも痛むんだろう?何かを取り戻さなきゃって強く思うんだろう?
 分からない.....分からないっ!

「ねぇ、ジン....サラマンダーは...」

「それが....サラマンダー様は現在行方不明になっておりまして...ちなみにノーム様も。あのスターリ国との戦い以降、姿が確認されていません」

「....ねぇ、何で僕たちはあの国と戦っていたの...?」

「それは....その...実は誰も戦いの理由や原因を知らないと言いますか....と言いますか....」

 誰も覚えていない....?
 それにサラマンダーとノームが行方不明!?
 一体どういうことなんだ!?
 ただ1つ分かるのはその戦いの原因とやらが僕たちの記憶からすっぽり抜け落ちてしまっていることだけ。
 いや、それだけじゃない.....。
 何か大事な....とても大事なことを忘れている気がする....。
 でも、それが物なのか生き物なのか、はたまた姿形のない何かなのかも分からない。
 ただ確かなのは“それ”が僕にとってとても大切なもので.....僕の透明な心を鮮やかな色で彩ってくれていたこと。
 胸にぽっかりと空いた穴はきっと“それ”を失ったから....。
 取り戻したいと貪欲に願うと同時によく分からない罪悪感が押し寄せてくる。
 まるで『取り戻してはいけない』と僕を諫めるみたいに罪悪感が心の中で暴れまわるんだ。
 .....どうすべきなのかな...。
 胸の中にじんわりと広がるよく分からない後悔の念に僕は苦笑するしかなかった。
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