私を断罪するのが神のお告げですって?なら、本人を呼んでみましょうか

あーもんど

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 だって、どう考えても彼女は高位貴族のお嬢さんに見えないから。
世間知らずのまま育った田舎貴族の娘かと思っていた。

 まあ、あのパトリシア・ヴァレリー・キートンなら納得だけど。

 キートン家の末娘であるパトリシア嬢は他の兄弟と年が離れているため、相当甘やかされて育った。
自分のワガママを押し通すためなら何でもやる性分で、周りの者達は手を焼いているらしい。
近頃は人の注文したドレスを横取りしたり、招待されていないお茶会に乱入したりしているそうだ。

 何故、私がここまで彼女の事情に詳しいかと言うと、公爵夫人に懺悔……という名の相談をよく受けているから。
『私は一体、どこで育て間違ってしまったのかしら……』と、嘆いていたのをよく覚えている。
叩かれて赤くなった手に治癒を施しつつ、私は改めて彼女と向かい合った。

「一つ聞きたいのだけど、どうしてこんなことを?」

「それは貴方がインチキをしているからよ!」

 ビシッとこちらを指さし、鼻息荒く捲し立てるパトリシア嬢に、私はスッと目を細める。

「ふ~ん。本当は?」

「だから、貴方がインチキを……」

「公爵夫人や周りの人に認められたいから、ではなくて?」

「っ……!」

 声にならない声を上げ、言葉に詰まるパトリシア嬢はカァッと赤くなった。
動揺のあまり声が出ないのか、口を開けたり閉じたりしている。
何とも分かりやすい反応を示す彼女に、私は『やっぱり、そうか』と肩を竦めた。

 公爵夫人はよく『娘と同じ年齢なのに、オリアナちゃんは落ち着いているわね』と私を持ち上げていたから。
もし、家でもそのような発言をしていたなら……パトリシア嬢が私を目の敵にするのも理解出来る。
実の娘からすれば、面白くないものね。
母親が自分より他人を褒めるなんて。
まあ、夫人に悪気はないんでしょうけど。

 『娘に発破を掛ける程度の認識だった筈』と、私は公爵夫人の人柄を思い出す。
そして、パトリシア嬢の考えに否を唱える。

「こんなことをしても、貴方の欲しいものは手に入らないと思うわよ。今なら、まだ丸く収めることが出来るから、引き下がってほしいのだけど」

 神殿を惜しみなく支援してくれて、友達のように接してくれる夫人を困らせるような真似はしたくない。
何より、キートン公爵家と神殿の衝突を公にすれば、トラブルは必須。
出来ることなら、内々で処理したい。
────などと考える私の前で、パトリシア嬢はキュッと唇を引き結ぶ。
と同時に、顔を逸らした。

「何よ、偉そうに……!大体、もう手遅れよ!だって────皇室も貴方の断罪に賛成しているんだから!」

 その言葉を合図に、開きっぱなしの扉から騎士達がなだれ込んでくる。
おかげで、ヴァルテンの石像を除いて何もない空間が人で埋め尽くされた。
『圧迫感が凄いわね』と驚く私を前に、騎士達はまるで示し合わせたかのように左右へ分かれる。
そのまま二列になって向かい合う彼らは、素早く騎士の礼を取った。
すると────列と列の間から、一人の青年が姿を現す。

「聖女オリアナ、貴殿の身柄を拘束させてもらう」

 そう言って、こちらへ向かってきたのは────シャルル帝国の皇太子トラヴィス・ベニー・シャノンだった。
後ろで結い上げた白銀色の長髪を揺らし、私の前で立ち止まる彼はパトリシア嬢の隣に並ぶ。
真剣味を帯びた黄金の瞳でこちらを見つめ、腰に差した剣に手を掛けた。
恐らく、『妙な真似をしたら容赦なく攻撃する』と言いたいのだろう。
まあ、全くもって怖くないが。

 この程度で恐れおののく人間なら、神殿の改革なんて出来なかった。
一体、私がどれだけの修羅場を潜り抜けてきたと思っているのかしら?

 『脅しも暴力も、もう慣れっこよ』と余裕の態度を崩さず、私は口元を緩める。

「聖女である私を拘束?ふふっ。あなた方に何の権限があって、そんなことを?」

 後ろで手を組み、体ごと横に傾ける私は『意味が分からない』とアピールした。
下から覗き込むようにしてトラヴィス殿下の顔を眺め、スッと目を細める。

「大体、両陛下はこのことを知っているの?」

「罪人の問いに答える義理はない」

 間髪容れずに……でも、どこかバツの悪そうな顔でトラヴィス殿下は質問を跳ね除けた。
本人は上手く取り繕っているつもりのようだが、まだ拙い。
『経験が足りないわね』と思いつつ、私は傾けた体を元に戻した。

「まあ、知らないでしょうね。知っていたら、全力で止めている筈だから────こんな越権行為」

「っ……!」

 言外に『非常識』と吐き捨てた私に、トラヴィス殿下は反論出来ず……口を噤む。
一応、不味いことをやっている自覚はあるらしい。
悔しそうに唇を噛み締める彼の前で、私は容赦なく痛いところを突いていく。

「いくら皇室と言えど、神殿内部のことまで口を出すことは出来ない。それくらい、貴方も知っているでしょう?」

「ああ。だが、神殿の不正を見逃す訳にはいかない。神聖力なんて胡散臭いもの、即刻廃止すべきだ」

「力の証明は、もう済んでいるのに?」

「だから!ヴァルテン様より賜りし力とは限らないって、さっきも……!」

 トラヴィス殿下の不利を悟ったのか、パトリシア嬢が横から口を挟んできた。
『貴方の耳は飾りなの!?』という暴言を添えて。
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