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番外編

再び、笹森家にて

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またまた笹森家。

 今日は野菜の収穫のお手伝いにやって来た。自宅の畑の夏野菜が大量に食べ頃になっていて、好きなだけ持っていって良いと言われ、ウキウキしながら参上した。

 そしてこの場にお義兄さんの輝てるさんと、操みさおさんもいる。
 操さんはこの前見た時よりちょっと痩せたみたいで、顔の輪郭がすっきりしていた。

「わぁ!ミニトマト鈴生すずなり!」
「ほら、食べてみろよ。甘いぜ」

 柊さんが採って軽く洗ったミニトマトを手渡してくれたので、早速いただく。

「あまっ!おいしいっ」
「ほらこっちも」
と、柊さんが渡してくれたのは黄色いミニトマト。
「これ、イエローアイコっていうやつ。さっきの赤いやつよりもっと甘いんだ」
「ほんと甘い。もう野菜と言うより果物ですね」

 トマトを味わいながら、視線を遠くに向けると、黙々と収穫作業をしている輝さんと操さんがいる。
「……あの二人、無言で作業してますね」
「しかも滅茶苦茶早いし」

 あれから二人に進展はあったのかなー。
 操さんは未だ住んでいるのはここから新幹線で1時間位の場所だけど、笹森家からお呼びがかかると週末を利用して帰省してくるらしい。

 二人の事がちょっと気になりつつもキュウリやナスやトマトを収穫して、柊さんが輝さんに頼まれて他の手伝いをしている間、一人笹森家の縁側に座り麦茶を飲んでいたら、「ふううー、暑いねえー」と作業を終えた操さんが戻ってきた。
「操さん、麦茶飲みますか?」
「うん。頂こうかな」

 操さんが帽子を取り首に巻いたタオルを外し、顔の汗を拭う。やっぱり綺麗だなーと、思わずその動作に見入ってしまう。
「操さん色白ですねー」
「え、あ、うーん。そうかも。体質でね。焼くと真っ赤になっちゃうのよねー。だから焼けないように日焼け止めはばっちり塗ってるし、帽子も手袋もしてガッチリガードしてる」
と、にっこり笑う。
「今日は新幹線でこっちに?」
「ううん、車で。買い物して帰りたいし。新幹線だと荷物があんまり持てないから」
「野菜も持っていくんですか?」
「この野菜は実家に持っていくの。私一人暮らしで流石に一人じゃこんなに消費できないし、それに田舎にいるといつも親戚の家で一緒にご飯食べちゃうから、あんまり料理しないんだー」
てへー、と可愛い笑顔を見せる操さん。ああ可愛い。輝さんにもこんな感じで接すればいいのに。

「その後、輝さんとはどうですか?」

 操さんがブホオオッ、と飲んでいた麦茶を吹いた。
 ちょっと面白いぞ。

「なっ、なに、未散ちゃんいきなりっ」
「いやあの……あれからの二人がどうなったか非常に気になっているもので」
「……」
 操さんは途端に色白の肌をかーーーっと紅潮させた。
「あ、あれからは……たまに輝から『俺の作ったトマト食べに来ない?』とか連絡が来るから、その度に帰省してここにお邪魔したりは……してる……けど」
「……輝さんとの結婚の話は進んでないんですね?」
「や、やあだっ、未散ちゃんたら何をっっ!!」
「……操さん。操さんが輝さんの事好きなの、周りにバレバレです」
「え゛っっ!」
 操さんは表情を強張らせた。

 このリアクション……。まさかバレていないと思っていたのか……。

「操さん顔と態度に出ちゃってるから……」
「……そっか、バレてたか。参ったなぁー」
 操さんははあー、とうなだれた。

「未散ちゃんやこちらのご家族と話す時は普通にできるんだけど、私天邪鬼あまのじゃくで……」
「ですよね、バレバレです」
 再び操さんがはあああああと重い溜息をついた。

「……学生時代からずっと輝が好きで。あんなつまらないことで別れてからも忘れられなくて……。だけど輝に対してはどうしても素直になれないの……。もう、こんな自分が嫌になるよ……」
「輝さんとは結婚したいんですよね?」
 再び操さんの顔が真っ赤に。
「し、し……たい…です……」

 最後の方は殆ど聞き取れない位、小さな声で操さんは頷いた。

「それなら素直になりましょうよ。私も柊さんも応援しますし。ねっ!」
「素直になれるかな……」
と、操さんはなんだかもじもじしている。

 可愛いなあー操さん。私、絶対輝さん操さんの事好きだと思うんだけどなあー…


***


 柊さんが畑からレタスを取ってきてくれた。
「取れたてだからシャキシャキしてうまいぞ」
「じゃあ今晩はレタスのサラダですね~!」
「新聞紙に包んで持って帰るか。未散、階段下の収納庫に新聞紙あるから持ってきて包んでおいてくれ。俺他の野菜車に積んでくるから」
「はーい」

 笹森家に上がり、階段下の収納の中で新聞紙を探してゴソゴソしていたら、何処からか話し声が聞こえてきた。

「……だから。俺が何でお前を家に呼んでるのか、分かんないの?」

 ……これは。輝さんの声だ。

「お母様に言われたんでしょう?……いいよ、無理してお嫁にもらおうとしなくたって。輝はちゃんと自分の好きな人と一緒になった方がいいよ。私、気にしないから……」

 ああっ!操さんやっぱり素直になってないーーー!!
 収納庫の壁にピタリと耳を当てて聞き耳を立てる。

「お前、本気で言ってる?」
「……だって……」
「俺、お前好きだよ。ちゃんと好きで付き合ってたし」
「――嘘。だって私と別れた後、すぐ違う子と付き合ってたじゃない」
「お前が振ったんだろ。大学で会っても目も合わせてくれないから、もうダメだって諦めたんだよ。じゃなかったら俺はお前とずっと付き合っていきたいと思ってた」
「……ほ、本当に……?」

 気のせいか、操さんの声がちょっと震え気味。

「本当。だからこの前、お前から会いに来てくれて嬉しかった。あんな言い方で結婚話持ち出したのは悪かったけど、俺本当にお前となら一緒にやっていけると思ってる。だから操、結婚しよ」

 おおお……!輝さーーーん!!よくぞ言った!!

「て、輝……!!う、嘘みたい……私、私……ずっと輝の事好きで……」
「うん」
「輝の事忘れるために他の人と付き合おうとしたけど、やっぱり輝以上に好きになれなくて……」
「うん」
「……この前、嫁に来るかって言われた時もすごく嬉しかったのに、私素直になれなくて……」
「操、ちょっと上向いて」
「え?」

 ……あれ?なんか静かになった。
 気になって収納庫の扉の隙間から声が聞こえてきた方向に目を向けた。すると、抱き合ってキスをする二人の姿が。

 (きゃーーーーーーーーーー!!!)←未散、心の叫び

 わー! わー! 生で人のキスを見るの初めてぇ!!(結婚式は除く)

 唇を離した輝さんが、嬉しそうに真っ赤になった操さんの頭を手でポンポンする。
「もうキャンセル受け付けないからな」
「……キャンセルなんて、しないもん……」

 良かった……!操さん良かったよ……!!
 輝さんたらカッコいいよ!!さすが柊さんのお兄さんだよ!うわー、こっちまでドキドキしたー

 一人収納庫の中で喜びに浸っていたら、

「……未散」
「はっ!はいっ!!」

 声に驚いて思わず飛び上がって返事をすると、柊さんが収納庫の扉を開けて不思議そうに私を見ていた。
「お前何やってんの?」
「み、操さんの恋の行方をひっそりと見守っておりました……」
柊さんは少し呆れ顔。
「……二人ならもう向こうにいるけど。で、うまくいったみたい?」
「はい!!そりゃもうバッチリ!!」
「ならよかった」
 柊さんもにこり、と笑った。

「で、新聞紙は?」
「あ、いけない。えーと……」
 本来の目的を完全に忘れてた。再び足元の新聞紙の束を手に取ると、何故か後ろから柊さんにぎゅっと抱きしめられた。
「……柊さん?具合でも悪いの?」
「違うわ。……なんかこう、薄暗いとムラムラっと……」
「えっ!や、止めてくださいよっ。こんなところで発情しないでください!」
「ちょっとだけ。ね?未散ちゃん」
 柊さんの手が、服の裾から侵入し私の胸に触れると、ブラごと揉みしだき始めた。
「ちょっ……!ダメだって!あっ、どこ触って……」
「未散、かーわい」
 クスクス笑いながらブラをずらすと、指で直に胸の先端に触れる。
「あっ……!ちょっと、だめぇ!」
「やべー、とまんねー。未散、どうしたらいい?」

 ど……どうもこうも……

「今すぐやめいっっ!!!」

 バチーン。

***

 そろそろ帰るかと帰り支度をして外に出たら、操さんに呼ばれた。

 あの後輝さんに
「操と結婚することにしたから」
と報告を受けた。
「そっ、そうなんですか!?おめでとうございます!!」
と知らなかったふりをして、ちょっとわざとらしく驚いて見せた。バレバレだったかな?
 でも輝さんが嬉しそうで、なんだかこっちまで嬉しくなってしまう。


「未散ちゃん、ありがとう。私やっと輝に自分の気持ち言えたよ。未散ちゃんが応援してくれたお陰よ」
「いえいえ、私何もしてないし。でも良かったですね。輝さんと結婚したら『お義姉さん』ですね!」
「そうだね~!未散ちゃんが義妹になるなんて、嬉しいなぁ~」

 二人でへへへ~!と笑いあった。

 ところで、と操さんは車の横で輝さんと何やら立ち話をしている柊さんに視線を向けた。

「柊くん、なんか頬っぺた赤くなってない?どうしたのかしら」
「……どうしたんでしょうね……」

****


「未散のケチ」

 柊さんが車を運転しながらボソッと呟いた。

「……誰がケチですか。あんなところであんなことする柊さんがいけないんです!実家ですよ?誰かに見られたらどうするんですか!!」
「しかも平手打ちって……。お前結構力強いのな。痛かったし」
「た、叩いたのはごめんなさい。つい手が。でも素直に止めてくれたら叩きませんでしたよ?」
「だって……未散の腰のラインがさ……なんかこう……俺に触ってくれって訴えてたというか……」
「意味わかんないこと言わないでください!訴えてないし!」
「……いいじゃん。触りたかったんだよ」
 柊さんの口がへの字になる。

 叱りすぎたかな。

「……家に帰ったら、好きなだけ触っていいですから」
「え?」
「家に帰ったら、柊さんの好きにしていいです!」
「……マジで?」
 嬉しそうに私を見る柊さんに根負けして、
「マジで」
と頷いた。

「よし!!さー、早く帰って未散を触りまくるかな」
「……柊さん、昔のクールなイメージが台無し……」
「これが本来の俺ですが、何か?」
「まぁ、私はこっちの柊さんの方が何となく好きですけどね」

 私の呟きに、フッと笑みを漏らした柊さんは、私にちらりと視線を送った後再び前を見据え、

「俺はそんな未散の全てが好きだけどね」

 と呟き私をゆでだこにさせた。
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