Wit:1/もしも願いが叶うなら〜No pain, no live〜

月影弧夜見(つきかげこよみ)

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ブレイバー

誇り高き死

********

 同時刻。森の中にて。



「……よお、黒騎士。探してたんだろ、俺様のことを」

 決着を、つけに来た。
 キサマはこのイデア様が、直々に粉々にしてやろう……!

「……当たり前だ。先程の出来事によって、私はお前を裏切り者だと判断したが……間違ってはいないか?」

「そうさ、俺様は魔王軍の裏切り者だ。だが……だからどうした? くだらない話は後にして、さっさとかかってきやがれ……!」

「よほど自分の強さに自信があるようだな」

「当たり前だ。魔王にもらった力のおかげで、今はとても強くなった気分だ……!」

「その強さ、真っ向からへし折ってやろう」

「……ふん。俺様も、キサマのその舐めた態度をへし折るとするぜ」

 刀を左手に持ち替え、
 右腕をまっすぐ伸ばし、
 その先にいる黒騎士の姿を、人差し指と中指の間で捉える。

「……何のつもりだ」

「その甲冑、さぞ動きにくいんだろうな。だから、キサマの甲冑ごとその肉を貫く」

「やらせると思ったか」

 すかさず黒騎士は移動し、俺の胸を貫く。が。


「それは幻術だ。まさか黒騎士様ともあろう者がこんな簡単な手に引っかかってくれるなんてな」

 ———がしかし、貫いた方は既に偽物。

「無駄な足掻きをするものだ」

 瞬間。黒騎士の頭上には、25もの自身の影。
「その中のどれかに本体がいる———」



 ……が。
 黒騎士がその脈動する身体に気合いを入れた瞬間、その覇気で幻術による分身は姿を散らす。

「———いるとは思えなかったが、やはりか」

 頭上に残った影はなく。
 既に俺は、黒騎士の懐まで接近していた。

「確実に、これで殺……」

「無駄だと言ったであろう」

 甲冑を纏っているにも関わらず、猛スピードで蹴り上げられる足に、今まさに懐に突っ込んでいる俺が対応できるはずもなく。

「ぶ……ごぉ……っ……!」

 なす術も無く、その攻撃を受け入れるだけであった。




 ……今の蹴りの威力はなんだ……?
 顎が……外れた?! 骨が……割れた……?
 生まれてこのかた味わった事のない激痛。

 ……やばい、流石にヤバいな、黒騎士は。
 1発1発、重くもあり素早い。

 木をも薙ぎ倒す激しさと、大陸を一瞬で駆け抜けるほどの瞬速が合わさった悪魔の攻撃。

 ……隙が……隙なんてない……これは、奥の手を使うしかあるまい……!



 本来ならばアレン相手にに使う予定であったが……やむを得ん……!

「……もう来ないというなら、今すぐに終わらせるが。まだ戯れを続けるか?」



「まだまだ、こんなところで終われる訳がなかろう! 死ぬのはせめて、キサマを倒してからだ……!」

「そのまま向かってくるだけで勝てると思うか?」




「……フッ、流石にそんな事微塵も思っちゃいないな。


 ……魔術領域、展開!」

 自身の身体からこの森一帯にかけて、魔力を放出し、空間自体を囲むようにして領域の素を形作る。



「顕現しろ……多重幻覚境界面ホロウ・ミラーディメンジョン!」

「魔術領域……素晴らしい技量だが、私の前には無意味———なるほど、また幻術の類いか」



 無数に浮かぶイデアの影。
「幻術など、消し飛ばして……!」

 黒騎士は覇気を放出する。だが。
「幻影が……消えない?!」

「固有魔術領域、多重幻覚境界面、ホロウ・ミラーディメンジョン。この魔術領域内においては、幻想模倣魔術であろうと現世に顕現させる事ができる。つまり……」


「幻影が簡単に吹き飛ばなくなった……?!」

「物分かりがいいじゃないか、そういう事だ!」

「……なるほど、斬りつけてようやく消えるくらいには存在強度が増している。貴様の奥の手……だろうが、そんなものでは私には勝てん」

 黒騎士は目を瞑り、意識を魔力探知のみに集中させる。
 だが。

「……どういう事だ……全ての幻影及び本体の魔力強度が同じだと……?」


「ここはミラーディメンジョン。まるで鏡合わせのように、全ての幻影はその能力をコピーされ顕現する! キサマの頼みの綱、魔力探知も完封済みだとも……!」


 上空、右方、左方、正面、後方。黒騎士の全ての範囲から、幻影が襲いかかる……!
 瞬間、風を斬る音。

 甲冑を纏っているにも関わらず、黒騎士は目にも留まらぬスピードで大剣を振り回していた。

「ここにはいない。というなら、上か」

 すると今度は足で体幹を支え、上に向かって大剣を振り上げる。

「ここにも……いないだと……! つまりは下か!」

 途端、黒騎士は大剣を投げ捨て、地面に手を突き刺し、
「エクスプロージョンッ!」

 あろう事か、爆裂魔法の最上位魔法を軽々と地面に向けて使いやがった。


 ……その様子を、幻影領域よりも遥か上空、魔術領域の外から見ていた俺は、ようやく動き出す。




「終わりだな。あの世で後悔するといい。しかし、中々に……」





 ……しめた。隙だ。ここまで一瞬もの隙を見せなかった黒騎士が、あろう事かここまで隙を見せている……!

 上空から、その身体を甲冑ごと両断するのみだ……!

 上空何メートルか、そんなことは知らん。ただただ、ヤツを倒す為だけに刀を振り下ろす。


 妥協はしない。油断はしない。落下の衝撃など関係ない……! ヤツを一撃で葬れるというのなら、またとない千載一遇のチャンス……!

 これ……で……終わらせる!


「くたばれええええええっ!!」








 手ごたえはあった。肉を斬った感触だ。
 同時に地面に接地した左膝が割れた。

 おそらく、と言ってもほぼ確実に、下半身の骨、左脹脛から左膝経由して骨盤まで、確実に折れて砕けている。

 もう動けやしない。だが、ヤツを殺せたのなら、もうそれだけで……!



「惜しかったな」

 うずくまった俺の頭上から聞こえたのはヤツの声。



「貴様は私を両断した、と思っていたのだろうが、貴様が斬ったのは私の左腕だ」

 見上げると、そこには隻腕となった黒騎士の姿が。勢いよく吹き出す紅が、その威力を物語っていた。

「流石の私も油断した。もう少し対応が遅れていれば、もう少し貴様を視界に入れるのが遅れていれば、私が両断されていた事だろう」

「……ち……ちくしょう……殺りそこ……なっちまった……」

「だが貴様もこれで終わりだ」

「くや……しいぜ……! キサマを……この手…………で、殺せない…………なんて…………!」

「さらばだ、誇り高き戦士よ。素晴らしい戦いであったぞ」


「ち……くしょう…….こんなところ……じゃ、終われない……っての……に———っ」

 次の瞬間、イデアの横たわった身体は、黒騎士の大剣によって腹から両断されてしまった。


 無残にも残された2つの肉片。
 無念にも散った、誇り高き戦士の返り血。
 ここに、魔王軍幹部同士の争いは終結した。
 白の兄、イデアの死を以て。











 数分後、その付近にて白は目覚める。
 なぜだか妙な胸騒ぎがしたからだ。
 何だか、大切なものを失ってしまいそうな妙な胸騒ぎが。


********

 いつの間にか、外は暗くなっている。
 もう、夜になってしまったのか。


「……なんだ……アレ……?」

 目にしたのは、戦火に染まる村の逆光、ではなく。
 その村の上空に浮かぶ、巨大な鉄の塊。球体。


 何……だ?
 ヤツは……一体何なんだ……?
 球体、鉄の球体なのか? 魔王軍が? あんな機械的なもの使う……というのか?

「……何が起こっているかは分からない、が」

 やはり行くしかないか。
 あまり動きそうにない、鈍った身体を起こし足を進める。

 ……と。
 走り始めて数十秒。


「……そうか。やっぱり、負けたか」


 そこには、腹を斬られ、血を流し横たわっている兄さんの姿が。

 腹に致命傷を負い、血を流し倒れ込んでいるが、それ以外の身体的な異常は見当たらなかった。

 しかし目には、涙を……浮かべていた。




「そう……そうだよな、悔しかったんだよな……ヤツに勝てなかったのが。

 悔しかったんだよな、俺と決着をつけれなかったのが。……こんな事なら、さっさと終わらせておくべきだった……でも、その無念だけは、その悔しさだけは、連れて行くからな……!

 兄さんは、正直言って嫌いだった。出会えばどこそこ構わず戦いに来るから。……でも、正直言って尊敬していた。

 兄さんには、絶対に譲れない信念があった。自分がやると決めた事は、何が何でもやり通す、それが兄さんだった……だから、俺とは違うんだ。

 俺は1度決めた事を、最後まで貫き通す事はできなかった……だから、兄さんはすごいと思うし、正直言うととても尊敬していた。

 ……だからこそ、2人で、2人で戦ってほしかった。兄さんと協力して、一緒に何か1つの事をやり遂げた事はなかったけど。きっと、2人でやれば勝てたんじゃないか、って、そう思うんだ。

 とりあえず……兄さんはよく頑張った。後は俺がやる。俺が終わらせる。俺が……兄さんの仇をとる……!」








「…………その為に、一緒に来てくれ、兄さん」

 残った全ての思いを独り言として吐き出した後、
 イデアの、前が破れボロボロに破れた服を、バンダナの如く首から羽織る。

 薄汚れていて、かなり汚かった。返り血もついており、若干嫌な匂いがした。

 が、これが、兄さんの歩んできた道だと思うと、自然と胸が熱くなった。


 泣き出したかった。逃げ出したかった。
 正直、兄さんが勝てなかったヤツに、勝てるとは思い難かった。

 しかし、やはりやらなくちゃいけない。

「漢には」
「やらなくちゃならない時があるんだ」

 言ったのは俺だ。
 だからやらなくちゃならない。
 泣いている暇などない。
 死を弔っている暇などない。
 ただただ、目の前にそびえ立つ、正体の分からない敵を殺す事。それが今の使命だ。
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