文字の大きさ
大
中
小
38 / 256
ブレイバー
運命の激突
「……兄さん、コイツは……」
物陰から現れた、黒き鎧を見に纏った女騎士。
しかしその身体には、纏わりついて離れない瘴気が染み付いていた。
「邪魔をするな黒騎士! これは俺様とアレンの必ずつけなければならない勝負だと言ったはずだ!キサマの出る幕なぞ……」
「……黙れ。貴様は私の忠実な下僕になると誓ったのを忘れたのか?」
下僕…………コイツにそう言わしめるまでに、自分のプライドまでも売ったってのか、兄さん……!
「貴様に完全に支配されるとでも思ったのか?」
「黙れ、私が出る」
「何を……!」
「私が出ると言っているんだ!」
場の全てを揺るがす重圧。
その重圧に、イデアは未だ耐えられずにいた。
「……ふざけるな、この、この勝負は、俺たち兄弟の勝負なんだ……!
許さん、許さんぞ……! 邪魔するなど絶対に許さん……!
キサマの思い通り、なんざなってたまるか……!
キサマの、思い……通り…………なんざに……なって、たまるかぁぁぁぁぁあっ!!!!」
「兄さん……?!」
「呪縛から逃れた、か。だが、もう遅……」
「兄さん、逃げるぞ!」
すかさずイデアの手を掴む。
「っなっ?!」
「戦うのは後だ、走るぞ!」
そうして、背水の陣を用い、しまいには兄さんを抱っこして猛ダッシュ。
そのまま木と草の影に隠れて話を進める。
『どこに隠れたぁっ、イデア・セイバーッ!!!!』
猛々しい声は森一帯に響き渡るが、そんなものは今は関係ない。
「……兄さん、まさかアイツと組んで……」
「あんなクズとなぞ、組むわけがないだろう……!」
「……って言うか、アイツどうするんだよ……!多分アレ、俺でも勝てそうにな……」
「…………そうか、アイツが気になって仕方がないのか。……なら」
途端。地上の増してゆく影に隠れるように立ち上がり、兄さんは言った。
「……俺が行く」
「兄……さん?」
「ヤツには勝負を2度と邪魔できぬよう、必ずここで殺す」
「だから兄さん、ヤツは俺でも倒せない、だからせめて2人で……!」
瞬間。うなじに激痛が刻まれる。
「…………ぁ……兄……さ……ん……?」
次第に薄れゆく景色の中で。
「……キサマと一緒にやるなどと、死んでもごめんだぜ」
1人、吐き捨てるように呟く兄さんの姿を見た。
その背中はどこか寂しげで。もう二度と会えなくなるような、そんな悲しさを纏った背中だった。
「……キサマと、徹底的に、何も気にせず、己の全力をぶつけ合う勝負をする為に。俺は、ヤツを倒す。……だからキサマは引っ込んでいろ。キサマがいると集中できん」
「……そして……まあ、弟の為に犠牲になるのが兄らしい生き方なのだとしたら……だったら、俺様はそうした方がいいのかもな」
********
……昔々。父上が、最後の最後。本当に最期の時、「父親らしい事」をしてくれた時のように。
「にいちゃん! 石積もうよ!」
「にいちゃん! 抱っこして!」
「兄さん、今日も戦うの?」
「兄さんは……遊んでくれないの?」
「兄さん!」
「……兄さん」
……アレンの声がする。幼い頃からずっと一緒だったアレンの声が。
そう言えば、アレンとは1度も遊んでやった事がなかったな。
俺は、娯楽というものを教えられてこなかった。
だからこそ、アレンとは遊んでやれなかったし、自分1人では遊べやしなかった。
アレンが娯楽を学び始めてからというもの、アレンは父上とよく遊んでいた。
遊んでいた時のアレンは、決まって笑っていた。俺を視界に入れた時以外は。
アレンは俺を見た瞬間、ハッとしたような、どこか虚しい顔になった。
……全く遊ばせてもらえなかった俺を、まるで、いや、憐れむような虚しい顔に。
「兄さん! 一緒に遊ぼう!」
「兄さん! 一緒に鬼ごっこ……」
「兄さん! 一緒に……」
ある時から、アレンは俺を遊びに誘う時の誘い文句に「一緒に」だなんて言葉をつけるようになった。
……くだらない。全て今まで1人でやってきたってのに。
「1人で」生きていけるように特訓し、
「1人で」殺せるように教えられ、
「1人で」『プロジェクト:エターナル』を終わらせる為に全てを知った。
……カミの一柱、オーディンを堕とした時は、癪ではあるが共闘という手を取ったこともある。
……しかしやはり、そんな俺からすれば。「一緒に」だなんて、くだらない冗談だ。
それでも、アレンは何度も何度も、諦めずに遊びに誘ってきた。
全部全部、無視してみせたさ。
……最後くらい、一緒に遊んであげてもよかったな、と若干後悔している。
俺が1度でも遊んでやれば、アレンは人を喰らう殺人鬼にならず済んだのだろうか。
未だに何度か後悔はするものの、もはやそれは過去の話、今とは一切関係ない。
……だからこそ、何もかも1人でこなしてみせる。
つまり、キサマの出る幕はない、アレン。
腹は決まった。決意は満たされた。
後は、終わりにするだけだ、黒騎士。
黒騎士はなぜかアレンを殺す事に執着している。だからこそ、この場でヤツに勝つしかない。
この場でヤツに勝って、心置きなくアレンと決着をつける。
……それが……アレン……いや、「人斬り白郎」の贖罪の現れとなるのなら。
……待っていろ、黒騎士。
……待っていろ、アレン。
キサマが起きた時には、全ては終わっているはずだからな……!
********
一方その頃。
村にて。
「白さ~ん、白さ~ん!!……いない……か」
白の刀をもち、白たちの宿のドアの前に立っているのは、白の刀を預かっていた鍛冶屋の爺さん……ではなく、その孫であるセンだった。
「……白さんがいない……なら……概念付与もしておこう……かな」
そう呟くと、センは刀を鍛冶屋に持ち帰った。
が、概念付与を出来るような時間が無くなってしまった事については、センは後から知る事となる。
********
鍛冶屋に着いて数分後。
甲高い鐘の音が村内に響き渡る。
普通では鳴らさない決まりのはずなのに。
……普通なら。
思えば、あの時だってこうだった。
「普通ではない事」が起きたり、起こしたりすると決まって悪い事が起こる。
……あの時。村に魔族が侵入してきた時。
僕を庇って死んでいった勇者を見た時。
僕が……勇者になろうと思った時の事を、鮮明に思い出す。
「セン……セン、お前は逃げないのか」
「あ、ああじいちゃん、ちょっとやる事があってさ、先に行っててよ」
「まさかとは思ったが……無事でいろよ」
「……うん」
素っ気ない、少し低い返事だった。
……だって、今まで僕の夢を否定し続けてきたじいちゃんが、今日に限っては全くもって止めやしないんだから。
正直言ってかなり違和感があった。
……恐らくじいちゃんは気付いてるんだろう。
「でも、さ、別に大丈夫だよね」
強くなる鐘の音と共に、迫り来る魔王軍。
はっきり言ったら怖かった。けど、今のこの村には白さんがいる。今はどこにいるかは分からないけど。
……それに、白さんは……白さんのパーティは魔王軍幹部だってやっつけてるんだから、多分大丈夫。
……だからこそ、白さんが戻ってきた時の為にも、概念付与だけでもしておかなくちゃ。
感想 203
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさんパーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
200万年後 軽トラで未来にやってきた勇者たち
半道海豚本稿は、生きていくために、文明の痕跡さえない200万年後の未来に旅立ったヒトたちの奮闘を描いています。
最近は温暖化による環境の悪化が話題になっています。温暖化が進行すれば、多くの生物種が絶滅するでしょう。実際、新生代第四紀完新世(現在の地質年代)は生物の大量絶滅の真っ最中だとされています。生物の大量絶滅は地球史上何度も起きていますが、特に大規模なものが“ビッグファイブ”と呼ばれています。5番目が皆さんよくご存じの恐竜絶滅です。そして、現在が6番目で絶賛進行中。しかも理由はヒトの存在。それも産業革命以後とかではなく、何万年も前から。
本稿は、2015年に書き始めましたが、温暖化よりはスーパープルームのほうが衝撃的だろうと考えて北米でのマントル噴出を破局的環境破壊の惹起としました。
第1章と第2章は未来での生き残りをかけた挑戦、第3章以降は競争排除則(ガウゼの法則)がテーマに加わります。第6章以降は大量絶滅は収束したのかがテーマになっています。
どうぞ、お楽しみください。
黄金の艦隊 マネー・パワーで歴史を変える男
俊也「平和を金で買えるなら、それに越したことはない。
戦争が避けられないなら、せめて日本が負けない力を金で買おう」
1930年代より世界経済の混乱に乗じて自らの海運会社を急成長、新興財閥を立ち上げた男の、重課金架空戦記!??
姉妹作
「零戦戦記」
「総統戦記」
も、よろしくお願いします。