Wit:1/もしも願いが叶うなら〜No pain, no live〜

月影弧夜見(つきかげこよみ)

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ブレイバー

復活/神威、起動……

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********

 これが、最後だと思った。
 やっぱり、どうあがいても現実は残酷で。
 どうしようもない事実を僕に突きつけてきた。

 祈りは届かない。
 願いは叶わない。
 じいちゃんの言う通りだった。
 何をしたって無駄だって、分かりきっていたはずなのに。







 その背後にて。
「ありがとうな、サナ」

 暗闇の先に見えたソレは、白、いや、白銀に輝く髪。

 ……そして真紅に染まるは、透き通ったような瞳。

 その肩に担いだ刀は、それはもうギンギラギンに輝いていた。

 眩し過ぎて見えなくなるほどに。
 鋭く光る、銀色の星。
 その姿は、まさに———。

「よく頑張ったな、セン。もうここからは俺に任せろ」

 よく見ると大剣はもう1つの剣に止められており、すぐ横には、あの人の姿が。

「白……さん……!」

「安心しろセン。もうお前は、立派な勇者だ」

「……はい……!」




********

「貴様は……イデアと一緒にいたあの男か」

「……そうだ、イデアの弟、アレン・セイバーだ。イデアの仇は俺がとる」


「白! 1人で大丈夫なの?!」

 心配して声をかけてくれたサナに、今の自分の決意を語る。

「……ああ、こいつは俺がやる! 俺1人で!」


「貴様1人とは、血迷ったか」



「……いいや、お前は俺が、俺が殺さなくちゃならない……俺1人の手で!……だから力を貸してくれ、兄さん……!」

 左手で、羽織った兄の服を握りしめる。



「私に勝てると思うか?」

「勝ってみせるさ」

「中々に自信過剰なようだな」

 静かに燃え上がる怒り。
 思考は既に完全に切り替わっていた。

「……俺には、キサマが許せない。兄さんが、自分の命をかけて守り通した誇りと信念を、キサマはその命ごと踏み躙った。

 だからこそ、お前に同情の余地があろうとも、俺はお前を確実に叩き潰す。見逃す、などと言う選択肢などないと思え……っ!」

「ならばこちらも出し惜しみはしないぞ、救世主セイバーの末裔よ」





 ……その時の白は、今まで以上に、絶対的な殺意に満ちていた。
 周りの景色が全くもって映らなくなった真紅の虚な瞳は、まさに心のない機械を連想させる。






 1分経過。
 どちらも動かず。
 互いに互いの隙を見合い、確実に一撃で仕留めようとしている。

 ……が。
「……どうした? 黒騎士ともあろう者が、たかが勇者1人に怖気付いたか?」

 煽りを入れると、黒騎士は過剰に反応する。
「……ならばこちらから向かってやろうか?」

 ……普段の黒騎士、いつものように他者を蹂躙し、見下す冷徹な、非情に徹した黒騎士ならば、このような反応はしないはずだった。

 しかし度重なる連戦に、自身の片腕を持っていかれる程の強敵を目にし、黒騎士の脳内ではこれでもかと言わんばかりの大量のアドレナリンが放出されていた。



 ……だからこその攻めた戦法。しかし、白の戦法に対しては———。





「背水の、陣っ!」

 左の掌を前に突き出し、右足で地を思いっきし踏みつけ、構えをとる。


 目を閉じ、意識を研ぎ澄ます。
 眼前、いや、前方に座する敵を屠る為だけに意識を集中させる。

 黒騎士はいくら隻腕とは言え、それでもなお猛スピードで大剣を振り回す。

 ……だがそんなものは、守りに徹した戦闘スタイルには効くはずがなかった。


「当たらない……?」
「……」

 無言で攻撃を避けまくる。
 ……その内、ヤツがバテて、一瞬だけでもチャンスが生まれる事を信じて。


「……っ!!」

 先に限界を迎えたのは、やはり俺の方だった。

 大剣をそのまま刀で塞ぐ、が、やはりその衝撃は凄まじく、刀を弾かれ数メートル先まで転がりながら後退。

「……無尽蔵、か……!」

「やはり無駄だ。やはり無意味だ。雑魚が何匹集まったとて、私を殺す事はできぬ」

「無意味、か。今キサマは、俺の事を無意味だと言ったな……?」

「当たり前だ。無意味だと何度言えば分かる」



「……俺は、多くの人の犠牲の上にここに立っている。

 俺が来るまで散っていった勇者たちの犠牲があってこそ、今の俺はここにいて、キサマの腕は隻腕になっている。そうだろう?」


「隻腕だろうと、貴様を殺すには造作もな———」

「いいや違うな、キサマは……俺を殺すのに手間取っている。……だからこそ、俺はこのチャンスを無駄にはしない……!」

「全く、よくもそんなに減らず口が叩けるものだ。だが…………全て……無駄にしてやるのみだ」



「さあ始めるぞ、皆が繋いでくれた奇跡の幕開け、ワンダー・ショウタイムだ!」

「パーティ名……! 白、ようやくその名前を認めてくれたのね……!」

 地面に転がったサナは、俺が現れた時以上に喜ぶ様子を見せていた……けれども。



「認めちゃいねえよ! こんな時以外あのパーティ名を口にしたくないわ! ただでさえ恥ずかしいってんだから折角言ってやったのに……ちくしょう、流れが台無しだ……!」


「……白さん、正直それが言いたかっただけですよね……? カッコつけたかっただk……」

「やめろセン、お前それ以上言うなあっ!」

 くだらないオチで締められてしまった。

 慌てて前方を確認すると、もう既に黒騎士はこちらまで迫っており。
 ……だがしかし、今の俺にはこの状況を打破できる技がある……!



「背水の陣……力!」

 迫り来る刃。しかし。

「爆!」

 刀を近くに投げ捨て、そう口にした瞬間、自身の身体、筋肉が膨れ上がる。



 背水の陣『力爆』。
 長い修行期間の末身につけた、パワー超特化の形態。

 筋肉を何倍にも膨れ上がらせる、俺なりの身体強化魔術……!

「だりゃあああああああっ!」

 筋肉をこうまで膨れ上がらせれば、黒騎士の剣など素手で弾くには造作もなく。
「……かっ……ふ……!」

 そのまま黒騎士の腹に強烈な打撃。
 いくら黒騎士の鎧とは言えど、この打撃ならばその鎧も貫ける!

 ……ただ、この形態にはデメリットもあり。
「…………中々、やるじゃ、ないか……!」

 黒騎士はすぐさま後退する、が、俺はそのスピードに追いつけない。

 パワー重視の形態なので、はっきり言うと超パワー以外の利点が「ない」。
 ……それと、もう1つデメリットがあり。

「……白ーーっ、白ーーっ! 何してんのよ! 下の方破けちゃうじゃない!!」

 掠れた声で必死に叫ぶサナ。……が、その必死な叫びが、場の惨状を思い起こさせる。

 その、デメリットとは。

 ……膨張し過ぎた筋肉によって、服が破ける……恐れアリ。
「フゥーーーーッ」

 力爆を解除し、身体から蒸気に変化した魔力が噴き出し始める。

 筋肉は萎縮し、伸びきった服は元の大きさより大きくなっていた。

「……へへ……やっぱりこの形態は……こたえるな……」
 服の方にもこたえてます。




「……来い! 神威!」

 右手を横に広げ、神威を呼び寄せる。
 すると。

 猛スピードで神威は接近し、うまく俺の右手に収まった。


 ……さて、ヤツは今怯んでいる。やるなら今のうちだろう。

「背水の陣、極ノ項」

 口にした瞬間、身体の周りを白色に可視化された魔力が覆う。

「突・爆牙」

 よろけながらも立ち上がり始めたヤツの臓腑を、この刀で貫いてみせる!




「……ヘファイストス擬似神核、同期」




 ……待った。今ヤツは何と口にした?

「ヘファイストス擬似神核」……? ヘファイストスの神核はこの「神威」に込められているはず……なのに。

 ……分からない、分からないが何かまずい……!

 イデアと対峙した時と同じく、何か異質な何かが込み上がってくる……!




「アイギスの盾よ、起動せよ」

 ……もう何でもいい! 強行突破だ……!

「爆牙!」

 ……貫いた。はずだ。




 それなりの感触はあった。
 だが、それなりだ。
「……そのような攻撃では、防護概念壁アイギスは破れんぞ」

 ヤツの前に突如出現した光の壁によって、神威は完全に静止していた。

「っまずっ……!」

「ふんっ!」

 振り下ろされた剣を刀で支え食い止める……が。


「なるほど、さっき止めた時よりもパワーが増している……!」

 そのまま大剣を弾き返し、地を蹴り後退する。

 ……しかし、何だ先程の壁は?
 魔力反応……ではなかった。つまり、魔力以外の何らかの力で編み上げられたシールドという事……なのか?


 ならば。あちらが盾ならば、その防護を凌駕する一撃を与えればいい話だ。
 事実、今の俺には、神威にはそれが可能である。

「魔力器官接続。概念武装、起動。起きてくれ神威、出番だ」

「自律型戦闘システム・オーディン起動。ユーザー名:アレン・セイバー、魔力器官認証」

 ……なるほど、いざ神威を使うとなると神威の中からあの時の女性の声が聞こえてくる、と。


「当該概念武装の真名は『複合神核製五十三数同時多発連撃式神聖概念武装神威』でございます。以後如何なる呼称でも構いませんよ、我が主よ」

「……長ったらしいから神威で呼ぶよ。五十三連撃、解除アンロック

「五十三神同時多発連撃、ただ今解除いたしました。……して、基礎訓練は必要でございますか?」

「基礎訓練は必要ない、だが、最低限の応用方法についてだけ教えてくれ」

「五十三神連撃は、一閃にして53もの絶対的斬撃を同時刻に付与する権能でございます。絶対的斬撃ゆえ、現実改変等の神技ジルを用いても無力化は叶いません。

 ですが、物理的に受け止める方法ならいくらでもございます故、充分にお気をつけください」

「五十三撃を一点に集中させることは?」

「可能でございます。その場合、53もの斬撃が同時刻に一点に集中するとの事なので、如何なる防御をも貫通する事象飽和が発生します」

「分かった、ありがとう神威。できればその状態で頼む」

「承知しました、お役に立てて何よりです」



 ……勝機は見えた。ヤツの絶対的な防御。それすらも貫通する事象飽和。

 確実に今度こそ、その臓腑を貫いてみせる……!


「突……」

 刀を引き、腕を前に突き出し黒騎士の姿を眼前に収める。



「背水の陣、極ノ項、脚ノ項、手ノ項……同時並列接続使用」

 確実に捉え、一撃で全てを終わらせる。
 避けられればそれで終わりだ。しかし、今ヤツはアイギスの絶対的防御に頼り過ぎている。

 その証拠に、ヤツは絶対に受け止めてみせると言わんばかりに盾を構え、こちらの動向を慎重に伺っている。

 ……が、その戦法が、キサマに「避ける」と言う選択肢を、そのような駆け引きのチャンスを消失させた……!


 ……ならば……!
 構えられた神装を、神撃を以て凌駕するのみ———!


「———爆牙!」
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