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断章Ⅰ〜アローサル:ラークシャサ・ラージャー〜
止界黒剣
しおりを挟む◇◇◇◇◇◇◇◇
大陸中腹、ある低木の森にて。
その巨漢は、未だに虐殺を続けていた。
「ひ……嫌、助け、助けて……神様……!」
「黙れ、敗者には死あるのみだ」
そこに容赦などなく、慈悲などはなく。
「神に祈るか、……がしかし、その神はこちら側におられるのでな」
「や……め…………」
またも飛び散る肉塊。
もう何度見てきただろうか。
男は、血に飢えていた。
戦いに飢えていた。
しかし「命令」があった。
「できることなら『鍵』を確保してこい、できないのであれば人界軍を内部から崩壊させよ」と。
だが、コイツも違う。
どいつもこいつも、鍵の気配が微塵もしない。
……ならばこそ、抵抗する芽は早めに摘み取っておくべきだ。
例えば、このように握り潰して……と。
「人殺しは順調か、殺生院」
「……誰だ? もはや殺生院は消え去った。今となっては……」
「ゴルゴダ機関、だろ。まだやってるのか、プロジェクト:エターナル」
「……」
「シラを切った……つまりは知らない、か……?」
「……まず、貴様は誰だ? なぜゴルゴダ機関の名を知っている? 貴様は、一体……」
「ヘファイストスの使徒、と言えば、聞こえはいいだろうか」
返り血にて紅く染まったその男と対峙するのは、古ぼけたフードを被った謎の男。
……本来はこの戦いに参加せずともよかった人間である。
「刀……神殿国か」
「正解、そっちは素手か? 素手で戦えるのか?」
「貴様こそ、刀などという小道具で私に勝てるとでも……思っているのか?」
「あいにく、小道具、小細工には手慣れてるもんでねっ!!……背水の、陣!!」
「そうか、貴様……死んだと思っていたぞ、影武者っ!!」
◇◇◇◇◇◇◇◇
一方その頃。白たちは、自らがいるエリアからの移動を余儀なくされていた。
最も……殺人鬼が潜んでいる……なんてこの状況じゃ、もはや試合など関係ないのだが。
『このエリアは、明日には禁止ゾーンとなっています。速やかに立ち去ってください』
「……だってよ、もう砂漠ぐらいしかセーフゾーンないんじゃないか……?」
「……だったらそこに、アイツはいて……」
「もう、はっきり言って試合どころじゃなさそうね、白、これからはもう出し惜しみはしないで、いい?」
「もちろんだ、ヤツが、殺人鬼が何者かは分からないが、見つけ次第容赦なく叩き潰す」
*◇*◇*◇*◇
戻ってまたまたその頃、白の向かう砂漠地帯にてフードの男とヴォレイの激闘が繰り広げられていた。
最早雑兵はいない。試合も、今やほとんど関係ない。
「背水の陣、炸裂……!」
地を走る稲妻の如く、男敵の周りを走り抜ける。
こうまで速ければ、いくらゴルゴダ機関の力自慢とは言えど、捉える事はできな……
「そこか、小癪な……!」
「ぶごおっ!!」
ヴォレイはその剛腕で、フードの男の顔面を掴む。
「も……もがっ……」
「力が全てだ、それ以外は何も……!」
「……終わり、と思ったか?」
気が付けば、ヴォレイの背後から声がし、その手に握っていた男の頭も既になくなっていた。
「どうだ、力だけじゃ勝てないだろ?」
「何をした……!」
「神気反応を調べてみろ、よく分かるだろ」
「神技を使ったか…だが、なぜこの私の腕から逃げ出して……」
「俺も、弟子には負けちゃいられないんでね」
「神魔領域、展開……!」
そのフードの男は、自らの持てる全てを費やし、禁忌へと挑む。
それは、他人の神技の複製。
……とは言え、あまり使えたものでもないのだが。
「シャットダウン・オブ・ワールド」
********
世界が止まる。
これがアイツの、白の見ていた時間。
時空魔力連続体の異常は、やはり全てこれだった。
視界から色が消え失せる。
全てがモノクロへと変わる。
その中にて、俺はもちろん自由だ。
他の誰もが、他の全てが完全に静止する中で。
……だが、「絶対に全員が静止する」などという固定観念は、たった今崩れ去った。
……元々、そう確定した訳ではなかったが。
「ぬああっ!」
その巨漢は、どうやったか原理は全くもって分からないが、その完全に静止した世界での動作を許可された。
「余計な一言……言っちまったな」
「やはりそうか、時間停止の神魔領域……! 神力と魔力を織り交ぜるとは、なかなかやるじゃないか……!」
「お褒めにあずかり光栄……ではないか、お前は殺人鬼だからな」
視界が戻る。
止まった時間は、たった今動き出す。
風の音も、水のせせらぎも、全てがこの瞬間に、まるで連続したように見せかけられて動き出す。
「流石に……不完全、か、他人の神技を真似るのは、それも『鍵』を真似るのは流石に……キツいし、制御も難しい……」
「……それが貴様の奥の手、というのなら、私の勝ちだが」
「…………どうやら、そうらしい。俺の不完全な時間停止では、お前を完全に静止させる事は難しかったみたい、だ」
「さらばだ、神殿の剣士よ」
迫り来る巨腕、圧倒的な力の差。
間違いない、まともに食らえば、いくら俺でも、流石に……
「随分と手こずっているじゃないか、貴様ともあろう者がなっ!!」
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