Wit:1/もしも願いが叶うなら〜No pain, no live〜

月影弧夜見(つきかげこよみ)

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断章Ⅱ〜最終兵器にアイの花を〜

ほし/月

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◇◆◇◆◇◆◇◆
********



「ツバサ、かえって、きたーー!」
「おわっと……おい、人前で抱き付くんじゃないぞニトイ……あ、カレンさん、ニトイの面倒見てくれてありがとうございます……」
 
「いえ、大丈夫です、それよりも……」




 カレンさんの、その柔らかい唇が、自身の耳元まで迫る。


 ……俺は、俺は今から、一体何をされるんで———。

「その子、大切にしてあげてくださいね」

「……その子って……ニトイ……?」




 ニトイを、大切に……?
 カレンさんは何でそんなことを……
 …………まさか。

「カレンさん、もしかしてニトイについて何か知って……!」
「私は何も知りません。……ただ、その子の幸せを願っている、それだけです」


 カレンさんの軽く、どこか郷愁感漂うその微笑をもって、会話は終わりを告げた。





◇◇◇◇◇◇◇◇

「……で、ニトイ……お前一体何をした……?」

 帰り道。
 夕陽に赤く染まった道を歩き、家へと一直線で帰る最中。

「ニトイ……じゅんれー、した!」
「カレンさんと……か?」

「あい」

 ……やっぱり、その時か、おそらく何かがあったとすれば……


「……! ニトイ、アイスクリーム、食べたい…!」

 ……ニトイが指差したのは、公園の一角にて、車で屋台を開いているアイスクリーム屋。

 え、俺の給料を用いてアイスクリームを買えと?


 ……まあ、でもいっか。今日もなんだかんだで給料は貰えて———たった2日ながら、生活は徐々に安定し始めている。……断らなくっても、いいか。

「あーはいはい、買ってやるよ」

 金は……かなり余ってるしな。



「つめたくて、おいしい……!」
「ああ、……ここで排泄すんなよ?」


「…………ほし、きれい」


「はい?」
「ほし」

 ニトイが眺め、その指を指したのは———暗くなりかけの、青と赤の混じった幻想的な空に浮かぶ、無数の星々。


「……そうか、まあ、綺麗、だよな」

 ———俺は、星……ではなく、月に。

 暗黒の空に1つ輝く、まるで██のような月に、手を伸ばす。

「……ちがう。ニトイ、アルテミスじゃ、ない」


「は? アル……誰……?」
「かんけい、ない……!」
「な、なんだよ、ムスっとしないでくれよ……ああもう、とりあえず帰るぞ」

 ニトイの手を握る。
 まるで幼女の、それでいて自分の娘……みたいな、ヘンな感覚にさせられる、その白い手を。


「んで、ニトイは……弁当食えるか?」
「弁当……たぶん、たべれる」

「なんでもいいのか?」

「何味でも、おっけ……!」
「じゃあ行ってくるから、留守番頼んだぞ」
「あい」




********



 きれいだった。
 そのまちなみは、とてもきれいで。
 そのほしぼしも、とてもきれいで。
 でも、それでも。
 そのけしきも、やはりツバサ、のかがやきには……かてない。
 どうしても、どうみても、やっぱりツバサが、いちばんかがやいてみえる。





 ……でも、もう、終わりにするべき……?
 まだ、この現実を……偽りだらけの現実を見ていても、いいの……?


 それで███は、お父様は許してくれるの?
 私は、まだ、ツバサといても、いい、の?
 私はまだ、『ニトイ』であって、いいの?




********




 あまりにも唐突に響くは、耳を突く衝突音。
 甲高い風の音と、外の木枯らし音の鳴り止まぬ窓に、既にソレは迫ってきていた。


 砕けた窓ガラスの破片が、雨の如く部屋に散乱する。


 よろけながらもニトイに近づくのは、赤髪の少女。
 身に纏ったその修道服から察せられるは、かのゴルゴダ機関の一員であり。

「…………あぶない、ひと……!」

 ニトイにとっては、ただの不審者というか、3ツバサと話す時間を邪魔した邪魔者でしかなかった。
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