Wit:1/もしも願いが叶うなら〜No pain, no live〜

月影弧夜見(つきかげこよみ)

文字の大きさ
113 / 256
断章Ⅱ〜最終兵器にアイの花を〜

拉致

しおりを挟む
********


「ただいまー。ニトイー、戻った……」

 外から戻った俺が、目にした光景には。

 そこにいたはずの、ニトイは、影も形もいなくなっていた。

 まるで太陽のような輝きを放っていた彼女がいたはずの部屋は、ただ街並みが写す黒に飲まれていた。

 割れた窓。散らかった部屋。散乱する数々の食料品。


「……ああ、ようやく、この生活から解放されたのか……」

 吐いた息は、安堵の息であり。

「正直嫌なんだよ、俺だって年頃の男だし、家にあんな美少女いられたら、集中するもんもできないってもんだ。あーあ、いなくなってよかったー」

「いなくなって、よかったな」




「いなくなって……それで……」






『その子、大切にしてあげてくださいね』

 ふと、つい数時間前の言葉が思い出される。
 ……ダメだな、俺。
 いなくなって、いい訳がないだろ。




『私を、アイして?』





 ダメだよな、このまんまじゃ。

 アイツはきっと———俺に何かしてほしかったんだ。アイツが俺と一緒にいる理由は何なのかは分からないし、何をしてほしいのか、いまだに分からないけれど。



 それでも、その瞳は———まるで俺に、と運命付けているようで。

「…………行くか」

 一度床に置いた木刀を手に取る。
 既に暗黒に落ちた鉄の街にて。
 月明かりの照らす直下、俺は戦う事を心に決めた。





「……それで、……心当たりは……アイツしか、いないよな」

 そう、ゴルゴダ機関、と思わしき少女。
 2日前、学校で出会った化け物。
 ソイツだ。しかし、何の目的で……?
 ニトイを奪って、一体何をするつもりなんだ……?


 考えながらも足を進める。
 本当は真実を知ることが怖かった、のかもしれないけど。

 それでも行くしかない、取り戻すしかないと、義務感に囚われた足は飛躍する。




 あった。
 既に廃れた地下鉄のような、ツタの絡まった地下への入り口。

 暗くて薄気味悪くて、正直入りたくもない、のだが。

 それでも、ニトイを取り戻す為に。
 行くしかない、怖くとも。
 1歩、1歩。歩みを進める足は、どこかすくんでいた。


 重たい鉄の扉をこじ開ける。
 中は薄暗く、朝のそことは……まるで雰囲気の違う廃墟のような場所、だった。

 その中で、1人、電気もついていない中、懐中電灯片手に……何かを物色する女が1人。

 ……扉の軋む音を聞いた途端、その女は———シスター・カレンは、「ひゃあ?!」だなんて情けない声を上げ、その場に倒れ込んだのだが。







「ツバサさん……でしたか、お騒がせしてすみませんでした」

「いえ、こちらこそそっちの邪魔をしてしまったようで……」



「ここに来た、という事は、やはり何か用件があるのですか?」

「………………ニトイが、拐……われて……っ……」

「……そんなに、早くなんて、迂闊……でした、私の責任……ですね……」

「いや、これは1人にした俺の責任……」

「……ツバサさん、ここから先は私にお任せください。……あの子を守れなかったのも、私ですので」



「やっぱりカレンさん、何か知って……」
「ふふ、内緒、です。子供は家に帰る時間ですよ」

「え、いや、一体何を……」
「…………もう、———では、いけませんからね」





 ふと、まばたきをした瞬間、そこには元より何もいなかったかのような、虚無が流れていた。
 ……先程まで、カレンさんが持っていた懐中電灯を除いては。

「うわあううわあああっ?!」

 そりゃあそうなるだろう。
 目の前にそれまでいたはずの人が、突然消えてしまったのだから。
 ……幽霊、と思われても、仕方がないだろう。


 ……その後は———疲れたのかそこで寝てしまったらしい。

 ———なんせ、その後の記憶がすっぽりと、抜け落ちているのだから。
しおりを挟む
感想 203

あなたにおすすめの小説

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

処理中です...