Wit:1/もしも願いが叶うなら〜No pain, no live〜

月影弧夜見(つきかげこよみ)

文字の大きさ
122 / 256
断章Ⅱ〜最終兵器にアイの花を〜

勃発、正妻戦争

「……ようやくお目覚めか?……まったく、1度人の道を踏み外したヤツは、最後まで化け物らしい生き方をしろってんだ……!」

 薄暗がりな部屋にて、俺はその目を開ける。


 目を開けると、あの男……クラッシャーが目の前にいて。
 オマケに手足は拘束されている。
 それでもなお、自らの身が無事だという状況を見るに、この男の目的は俺たちを捕らえる、ってことなんだろうけど。

「……ニトイは、ディルはどうした……!」
「ディルが何者かは知らねえが、ニトイってヤツならお前の隣のヤツだろうな」

 しかし……捕らえられた……のだが、一体コイツの本当の目的はなんだ……? 
 結局それは、依然として分かりはしなかったため、

「何なんだ、お前の目的はなんなんだよ」

 と問うと、

「これはあくまで交換条件、ヤツらと協力するための交換条件だ。後は煮るなり焼くなり、ヤツらの好きにさせるぜ……」

「……っぁおい待て!」

 そう意味深気に告げると男———クラッシャーは、流れるようにその部屋の暗がりへと消えた。



 しかしここはどこだ?
 光もないため、この部屋がどう言った形状をしているのかが全く分からない。
 オマケに……「ヤツら」の存在も分からないまま。

 分からない、一体何が起こってるんだ……?


「……ツバサ……?」

 横から聞こえてきた、弱々しく可愛らしい声に振り向く。



「ニトイ……無事、だったんだな……!」

「……ニトイ、アイスクリーム、たべたい」
「んなこと言ってる場合じゃないだろ……」

 いきなり馬鹿なこと言い出すニトイに、心の中で笑いつつも、俺は今の状況を憂いていた。
 ……すると。


「………………随分と、ご機嫌なようね」

 暗がりから人影が現れる。

 とんがり頭……の帽子に、少しばかり古ぼけた服を着て、金色の少し長い髪をたなびかせた……女……?

 手には杖……ってことは、魔法使い……なのか?


「誰、だ、誰なんだ、お前は」
「…………忘れた、っての……?」
「は……あ……?」


 すると、女は俺に掴みかかり、

「忘れた、忘れただなんて言わせない……!

 貴方は、貴方が一番、自分を見失っちゃいけないってのに、って、そう決めた……はずよね……!!」


 ……と、鬼気迫る勢いで責め立てる。
 だが、俺には全く何の事か分からない。
「贖罪」、妙に、俺にはその言葉が引っかかる。

「誰なんだ、誰なんだよ、お前は!」

「……そう、そう……! 本当に、本当に忘れたってのね……!……だったら教えてあげる。私の、名前は……」

 
 怒りに打ち震えた、噛み締めるような声で、女はその名を口にした。



「私の、名前は……。サナ・グレイフォーバス。本当の名じゃ、ないけどね……!」



 グレイ……フォーバス……?
 ニトイと、同じ……名前……?
 一体、何が、どうなって……


「…………分かんない、のね……やっぱり、どうやっても。………………解除」

 女……サナがそう発した瞬間、俺とニトイの拘束が解かれる。


「な……何してるんだ、お前……俺たちの拘束を解くような真似して……いいのか……?」

「…………私のやりたいことは、そんな事じゃない。、貴方とケジメをつけることが、今の私のやりたいことよ」


 し、ろ……?
 白……?

「……なあニトイ、白、って誰なん…………っ……!」

 すぐ横に目をやると、無機質な目をして、身体中の武装を既に開放させたニトイがそこにいた。


「…………だめ。白、は、わたさ、ない……!」

 白は渡さない……って、どういう事……なんだよ……?

「……ニトイ、いや、もはやニトイじゃないか。

 ……とりあえず、ちょうだい。……そうしたのは、貴女なんでしょ……?」


 記憶……俺は、俺は何かを忘れてしまっているとでも……っ……!!







「……っあ、あああ、ああああああっ!!」

 瞬間、身体に電撃が走る。
 身に覚えのない記憶が、身体の隅々からインプットされる。






 偽りの仮面。


 偽りの名前。


 偽りの身分。


 偽りの人格。


 偽りの記憶。


 強烈な頭痛、重度の目眩。
 吐き気をもよおす内部変貌に、他ならぬ自分が耐えきれなくなってきた頃。
 ……ようやく、全て思い出した。



 俺は、そうだ、俺は『雪斬ツバサ』じゃなかった。


 点となって思い出された全てが、線と線でつながってゆく。


 そうだ、俺は———、


 ジャンおじさんに育てられ。
 宗呪羅師匠に、教えられ。
 黒に、叩き込まれ。
 サナと出会い。
 リーを倒し、
 イデア……兄さんと再会し。
 センと出会い。
 コックと出会い。
 黒騎士を倒し。


 そして、魔王を倒した、勇者。

 世界を救った、「救世主」、「アレン・セイバー」であり。
「無辜の人を守る剣」を受け継いだ、「雪斬白郎」で。




「———そうだ、俺は」

 突然植え付けられた記憶。
 本当かどうかも定かではないが、少なくとも嘘の可能性は少ない、ということは、今ここにある神威———俺のずっと携えていた刀が示していた。




「俺が、……だったか」



「…………おかえり、白」

 一段と、普段よりも低いサナの声が聞こえる。


「私、誰だか……分かった……?」

「……分かったさ。……俺と共に、世界を救った……魔法使い。

 そして、俺が———




 サナは少し微笑んだ後、告げた。

「…………だったら、私かニトイ、どっちか選んで」



 ……そう、目に見えて分かるだろう。記憶が戻った俺にとっては、手に取るように分かった。

 俺の知らないところで。俺の気付かないうちに。



 正妻戦争が、勃発していたのであった。


 
 正直、俺は今自分が置かれた状況が、分からなくなりつつあった。

 今まで俺が、「運命の人」と思い込んでいた人は、その実偽物で。
 急に現れた誰かさんが、俺の本当の「運命の人」だってえ……?

 そりゃあそのはずだ、サナだって俺と一緒に旅をしてきた仲なんだ。
 





 ……それで、どっちが俺の運命の人か、だと……?

 ……いいや、勘違いかもしれない。実はもっと、別のことについて聞いてるのかもしれない。そう思いたくなってきた。


「ニトイ、これって一体……」

 不意に、ニトイに答えを望んでしまう、が。

「……白、……選んで。ニトイ、か、サナ……か」

 だが現実は非情で。
 一瞬たりとも、微塵もそうは思い込ませてくれなかった。




 選ばなきゃいけない。

 おそらく、「どっちも」は死ぬ。確実に。
 必ず、どちらかを選ばなきゃいけない。今の俺にとって、どっちが「運命の人」かを。

 じゃあ、選べるか?

 どちらか一方を蔑ろにして、どちらか一方を取るか?

 ……ダメだ、それも俺には……



 場には静寂の刻が流れる。
 まるで、時が止まったかのような、誰一人として微塵とも動かない、完全に静止したような世界が。

 結論を出すことは終ぞ叶わなかった。
 だが、それでも、今の俺にとって誰が大事か。
 それは結局、もう既に分かりきっていたことだった。



 ……結果、俺は夜に佇む「月」ではなく、数々の星々の中から、自分の好きな人を、選んだ。


「俺には、やっぱり受け入れられなかった。

 いきなり、そんなこと言われても、俺には全くもって分からないし、それを自然に見ろって言われても、そんなのは……やっぱり無理だった。

 だからこそ、今の俺は雪斬白郎じゃなくて、白でもなくて、雪斬ツバサだったんだ。

 ……そうじゃなければ、俺が俺でなくなる……からだ。だから……!」

 ———ニトイへと手を伸ばす。



「……そう、貴方は………そっちを選ぶのね」

「……すまん、サナ。勝手に、前から消えて。俺は、多分お前の気持ちを……裏切った。

 でも、選べと言われたら、それがどんなに残酷なことでも、選ぶしかなかったんだ」



「……あ……し、ろ……?」

 こちらを見上げ、不安そうにそう呟くニトイに。

「違う。……俺は、雪斬ツバサだ」

 他の誰がどう言おうと。
 今の俺は、絶対に雪斬ツバサだった。


「……行って。早く、外に出て……!」

 サナは、必死に呟く。
 まるで、何かを押しのけるように、力強く。


 ……すぐに、ニトイの手を引き外に出る。
 きっとサナも、そんな自分は見てほしくなかった……のだろう。

 だからこそ、絶対にそれだけは、戻って盗み聞きなど、絶対にしてはならないと、俺の記憶が叫んでいたから。



********


「…………あーあ……もう…………嫌だな…………!」

 少女は1人、その運命に咽び泣く。
「こんなことなら……さっさと……告白……しとけばよかったってのに……!!」

 今までの全てを振り返る。
 今までの全てを否定する。
 結局そんなことはなかった、と。
 結ばれることはなかった、と。

 痛みが喉を通り、心の芯に突き刺さる。
 喉元まで出かかった「やめて」の言葉が詰まる。
 大粒の涙と共に。
 残った想いを、サナはその場に吐き捨てた。
感想 203

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

絶交した幼馴染と大学の合コンで再会した。

孤独な蛇
恋愛
中学生の浅野春樹は上級生と喧嘩騒動を起こしたことがあった。 その上、目つきが悪く地毛は茶髪のため不良少年のような扱いを受けて学校では孤立していた。 そんな中、幼馴染の深瀬志穂だけは春樹のことをいつも気遣ってくれていた。 同じ高校に行こうと声を掛けてくれる志穂の言葉に応えたい一心で受験勉強にも力を入れていた。 春樹にとって、学校で孤立していることは問題ではなかった。 昔から志穂が近くにいてくれるから……。 しかし、3年生なってから志穂の態度がよそよそしくなってきた。 登下校も別々になり、学校で話しかけてくることも無くなった。 志穂の心が自分から離れていってしまっている気がした春樹は焦っていた。 彼女と話がしたい。笑った顔が見たい。 志穂と一緒に帰ろうと、彼女が部活動を行っている体育館へ向かったのだが……。 そこで春樹が耳にしたのは、自分の悪口を言って部活の友達と楽しそうにしている志穂の声だった。 その瞬間、春樹の中で志穂に対する想いや信頼は……消滅した。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。