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断章Ⅱ〜最終兵器にアイの花を〜
母として、旧知として———
◆◇◆◇◆◇◆◇
私は、機神アテナの元付き人だった。
十数年ほど前……突如として、成層圏より飛来し、地上に舞い降りた月天使徒殲滅制圧用機神兵器、アテナ。
その機神の管理を任されていたのが、私と……雪斬宗呪羅だった。
任務として、さまざまな地域、さまざまな亜人を、この機神アテナのスペアボディと共に滅ぼしてきたのだ。
そこに慈悲など一切なく、ただただひたすら、与えられた任務を遂行していたのが、私だった。
ただただひたすら、殺して、殺して。
機神アテナと共に、亜人という亜人を。オリュンポスに逆らう者どもを、ひたすら血祭りに上げることしか、私にはできなかった。
それは家庭環境がどうとか、そういう問題ではなくって。
ただただ私が強かったからこそ、そんなことを強いられてきたのだと。
ソレに、もはや抵抗すらなかったのだから、その頃の私は人の形相をしていなかったのだろう。
そうして、1年前の出来事が巻き起こる。
久しぶりの任務だった、消えた神殿国の神剣、神威の神気反応があるからと、西大陸へ赴くことになった時の事。
当時6番隊の隊長を務めていた私は、皆がアテナ機神体に搭乗したことを確認して、出発しようとしていた時のことだった。
アテナ機神体が、突如動き始めたのだ。
アテナは、我々ゴルゴダ機関の意向にかなり忠実な機神であったため、ライセンスが5以上の者の指示しか聞かない……そのはずだった。
それでも、私の乗り込む前に動き出したとあれば、消去法で考えるとライセンス-5以上の、6番隊の者しかいなくなるわけで。
それが指し示す人物はただ1人。
6番隊副隊長、ラースであった。
彼女は……他のゴルゴダ機関隊員と違って、孤児ではなく普通の家庭で育った少女だった。
母親は早くして亡くなったが、父親と共に十数年間、大人しく過ごしてきた……そんな子だった。
それでも……まあ、金がないからと、そんな単純な理由でゴルゴダ機関へと入ってきたのが……始まりだった。
彼女のすることに、彼女の父は全くの無関心を貫いていたそうだ。
普段は———というかいつもカーテンの奥にて姿を隠しており、逆らったらただただ叱られる、そんな生活。
例え彼女がどれだけ頑張って、学校のテストでいい点を取ろうと、格闘技の大会で優勝を飾ろうと、その父は———ただ一言、「やめてしまえ」としか言わなかったと言う。
端的に言えば———褒められたことがなかったのだ。
……まあ、彼女の行動原理はすぐに見てとれた。
金が欲しい———確かにソレもあるのだろうが、彼女が一番欲しかったのは、自分を認めてくれる身近な存在だったのだ。
いいや違う、一度だけ、たった一度だけ、あったらしい。
……彼女が、学校でうまくいかなかったことがあった時、彼女は父にこう言ったらしい。
「学校とか、勉強とか……やめていい?」
普通は怒られる、叱られるようなものだったため、彼女も嗚咽混じりの声でそう言ったらしいが、父からは、
「賢明な判断だ」
……と、一言。
…………ただの、それだけだったらしい。
「……………………どうしたら、ねえ、どうしたら、私はパパに……褒められるのかな……あの時みたいに、どうやったら褒められるのかな……!」
ずっと。ずっと、彼女はそればかりを聞いてきた。任務中はただずっと、大人しく———されど冷酷にやるべきことをやっていたのに。
「……泣かないで、ラース。貴方は泣かない方がずっといい———だから、お願い、その瞳を、涙で濡らさないで」
「……でも、でも……!」
「気持ちは……分かるわ。……でも、泣いたら……ずっと落ち込んでたら、貴方の褒められるべきところさえも、台無しになってしまうでしょうから」
……きっと、彼女の言う「あの時」が、彼女にとってのハードルを上げ続けていたのだと。
だからこそ彼女は、私に無断でアテナに命令をし、自分1人でも任務がこなせると、そう信じて戦地へ赴いたのだろう。
———彼女のソレは、過信に過ぎなかった。
たった1人で、任務を遂行すれば———その時こそようやく、父に褒めてもらえる、とでも思ったのだろうか。
……だからなのか、あの、例の任務の直前、彼女が妙にソワソワしていたのは。
6番隊だった頃、私のすぐ下に付いていたこの子を、私はまるで———母のように愛した。
もちろん、初めはただの同僚……先輩後輩の間柄だったが、なぜだろうか、いつかのタイミングから、徐々にねじれていったのだ。
……太陽の影が、徐々にその姿を地面に落とすように、ゆっくり、じっくりと。
あの子も、まるで私を親子のように慕い、自他共に認める擬似的な親子関係へと発展しようともしていた。
最後に、もう少し———彼女のことを褒めておけば、とも思ったが。
———そんな、最中の出来事だった。
「超巨大高圧密度の魔力が……」
「機神……アテナ、反応……消失」
『……アテナが、機神アテナが、堕とされました!』
「西大陸のヤツらに……?」
「まさかぁ……魔王か!」
「ガイア・コンソールを使ったというのか?」
「馬鹿な、まさか魔王城からあの距離で命中させたと言うのか?!」
「……6番隊、おそらく全滅かと……」
「だからあれほど別機体と連れて行けと……!」
あの子が乗っていった機神アテナが、魔王の魔槍によって……破壊されたのである。
当然ながら、6番隊は私を除いて全滅。
「は……あ……ラース、は、ラースは、あの子はどうなって……!」
「…………おそらく、亡くなった」
「……っ!」
1番隊隊長、レインから告げられたのは、どうやっても覆しようのない、現実だった。
「なん、で、なんで、どうして……!……これから、これからあの子は、幸せになるはずだったのに……!」
「………………非常に惨い、結末だ」
アテナも、その神核のみを残して完全に破損。後に神核ごと行方不明に。
「わた……私の、私のせいで、死んだんだ……私が、私があの場にいなかったから、ラースを……守れなかった……!」
……だが、アテナは———生きていた。
そう、あの子———ニトイちゃんとして。
おそらく神核ごと、自らの新生を試みたのであろう。……そしてそれは成功に終わり、あのニトイちゃんが生まれた。
———ソレよりもさらに数年前。私は、宗呪羅とアテナの会話を聞いてしまった。
それは、アテナの中にもなかった『アイ』の感情について。
そして、いずれアテナが出会うであろう『運命の人』について。
———だからこそ、元付き人として。
新生を果たしたその子を、初めて「機神だ」と認識した時に思ったことは、『この子を幸せにしてあげなければ』などと言う感情であった。
それはまるで、母性のような。
いつかの誰か、ラースにだって与えたように———と。
……だから、もう一度。
守れなかった……では、終わらせたくなかったのだ。
あの日。
ツバサ君が、夜中に突然……ゴルゴダ機関に押しかけてきた日。
私は、ニトイをさらったのが誰なのか、それを知ってしまったからこそ。
この問題こそ、私が決着をつけなくてはと。
かつての旧知を前にして、そう思ってしまったのだ。
『……生きて、いたのね。ラース』
『そう、そうよ!……今度、こそ、任務を果たす為に……!』
静かににやけたその笑顔は、もはや前の———純粋のように見えるものとは違うと知った。
「……何が目的なの、ニトイちゃんをさらって、何をするつもりだったの」
「『鍵』を誘き出す。オマエだって、誰が『鍵』だか、見当はついてるんでしょ……?」
「そう、本来の目的はツバサ君だった。……そういう、こと」
「…………邪魔をするなら……オマエも殺して……あげるっ!!!!」
でも、今の私はあの子と、ツバサ君の想いも背負っているわけだから。
だから———例え我が子と見なした者でも———手にかけなければならないと、一瞬そう思い。
本当ならば、戦いたくはなかったのだ。
こんな事、ただただ無益でしかなかった。
もっと、出会えるならもっと穏やかに、もっと穏便に、もっと感動的な出会いをしたかった、そう思っていたのに。
「……終わり、ね……!」
———気がついた時には。
既に、私の腑は引き裂かれていた。
本来、私がこの子に負けるはずがなかった。
いくら相手がソウルレスだろうと、私が本気を出せば……確実にあの世に送ることができたのだ。
そう、本気を出せば。
「あっけなーい……! そんなに雑魚だったかしらねぇ……?」
最初から、殺す気で行けば。
「でも、もうこれでおしまい。あとは……『鍵』を殺すだけ……そうすれば、パパに……褒めてもらえる…!」
そんな感情など、アテナと共に既に捨て去ったはずの慈悲などという感情を、その心に浮かばせなければ。
「やっと、やっと褒めてもらえる……ようやく……!」
違う、か。
私は、どうあっても、この子に負ける運命だった。
この子を殺して、ツバサ君を救うか。
この子に付き従って、『鍵』も殺して、そうして———その先に救いがあるかは分からないけど、それでもこの子を救うために動くのか。
判断する猶予はたったの数瞬ほどしかなかったが、そこで答えを出せなかった———どうするかを選べなかったからこそ、私は負けたのだ、と。
……でも、まだ生かしてもらえるというのなら。
『……どうか、あの子を……ラースを、殺して、あげて…………!』
せめて、母に成ろうとした者として。
それが私の負うべき罪で、地獄の果てまで背負って、持っていくべき十字架なのだとしたら。
せめて、せめてそれだけでも願うべきだと、それだけでも祈るべきだと、私の中の何かがそう言っていた気がしたのだから。
……だから、お願い。
こんなことを祈るのは、自分勝手かもしれないけど。
それでも、今の『死』に囚われた———ソウルレスと化したラースを、せめて殺してあげることが、私の———私の意志を継いだ、誰かがやるべきことだと思ったのだから。
……これは私の責任だ。
もっとあの子の笑顔を尊重してあげれば、こんな事にはならなかったはずだ。
もっとあの子の為に、せめて私だけでも尽くしてやれば、あの子に、誰かを殺させる、だなんて判断をさせなければ、或いは———。
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私は、機神アテナの元付き人だった。
十数年ほど前……突如として、成層圏より飛来し、地上に舞い降りた月天使徒殲滅制圧用機神兵器、アテナ。
その機神の管理を任されていたのが、私と……雪斬宗呪羅だった。
任務として、さまざまな地域、さまざまな亜人を、この機神アテナのスペアボディと共に滅ぼしてきたのだ。
そこに慈悲など一切なく、ただただひたすら、与えられた任務を遂行していたのが、私だった。
ただただひたすら、殺して、殺して。
機神アテナと共に、亜人という亜人を。オリュンポスに逆らう者どもを、ひたすら血祭りに上げることしか、私にはできなかった。
それは家庭環境がどうとか、そういう問題ではなくって。
ただただ私が強かったからこそ、そんなことを強いられてきたのだと。
ソレに、もはや抵抗すらなかったのだから、その頃の私は人の形相をしていなかったのだろう。
そうして、1年前の出来事が巻き起こる。
久しぶりの任務だった、消えた神殿国の神剣、神威の神気反応があるからと、西大陸へ赴くことになった時の事。
当時6番隊の隊長を務めていた私は、皆がアテナ機神体に搭乗したことを確認して、出発しようとしていた時のことだった。
アテナ機神体が、突如動き始めたのだ。
アテナは、我々ゴルゴダ機関の意向にかなり忠実な機神であったため、ライセンスが5以上の者の指示しか聞かない……そのはずだった。
それでも、私の乗り込む前に動き出したとあれば、消去法で考えるとライセンス-5以上の、6番隊の者しかいなくなるわけで。
それが指し示す人物はただ1人。
6番隊副隊長、ラースであった。
彼女は……他のゴルゴダ機関隊員と違って、孤児ではなく普通の家庭で育った少女だった。
母親は早くして亡くなったが、父親と共に十数年間、大人しく過ごしてきた……そんな子だった。
それでも……まあ、金がないからと、そんな単純な理由でゴルゴダ機関へと入ってきたのが……始まりだった。
彼女のすることに、彼女の父は全くの無関心を貫いていたそうだ。
普段は———というかいつもカーテンの奥にて姿を隠しており、逆らったらただただ叱られる、そんな生活。
例え彼女がどれだけ頑張って、学校のテストでいい点を取ろうと、格闘技の大会で優勝を飾ろうと、その父は———ただ一言、「やめてしまえ」としか言わなかったと言う。
端的に言えば———褒められたことがなかったのだ。
……まあ、彼女の行動原理はすぐに見てとれた。
金が欲しい———確かにソレもあるのだろうが、彼女が一番欲しかったのは、自分を認めてくれる身近な存在だったのだ。
いいや違う、一度だけ、たった一度だけ、あったらしい。
……彼女が、学校でうまくいかなかったことがあった時、彼女は父にこう言ったらしい。
「学校とか、勉強とか……やめていい?」
普通は怒られる、叱られるようなものだったため、彼女も嗚咽混じりの声でそう言ったらしいが、父からは、
「賢明な判断だ」
……と、一言。
…………ただの、それだけだったらしい。
「……………………どうしたら、ねえ、どうしたら、私はパパに……褒められるのかな……あの時みたいに、どうやったら褒められるのかな……!」
ずっと。ずっと、彼女はそればかりを聞いてきた。任務中はただずっと、大人しく———されど冷酷にやるべきことをやっていたのに。
「……泣かないで、ラース。貴方は泣かない方がずっといい———だから、お願い、その瞳を、涙で濡らさないで」
「……でも、でも……!」
「気持ちは……分かるわ。……でも、泣いたら……ずっと落ち込んでたら、貴方の褒められるべきところさえも、台無しになってしまうでしょうから」
……きっと、彼女の言う「あの時」が、彼女にとってのハードルを上げ続けていたのだと。
だからこそ彼女は、私に無断でアテナに命令をし、自分1人でも任務がこなせると、そう信じて戦地へ赴いたのだろう。
———彼女のソレは、過信に過ぎなかった。
たった1人で、任務を遂行すれば———その時こそようやく、父に褒めてもらえる、とでも思ったのだろうか。
……だからなのか、あの、例の任務の直前、彼女が妙にソワソワしていたのは。
6番隊だった頃、私のすぐ下に付いていたこの子を、私はまるで———母のように愛した。
もちろん、初めはただの同僚……先輩後輩の間柄だったが、なぜだろうか、いつかのタイミングから、徐々にねじれていったのだ。
……太陽の影が、徐々にその姿を地面に落とすように、ゆっくり、じっくりと。
あの子も、まるで私を親子のように慕い、自他共に認める擬似的な親子関係へと発展しようともしていた。
最後に、もう少し———彼女のことを褒めておけば、とも思ったが。
———そんな、最中の出来事だった。
「超巨大高圧密度の魔力が……」
「機神……アテナ、反応……消失」
『……アテナが、機神アテナが、堕とされました!』
「西大陸のヤツらに……?」
「まさかぁ……魔王か!」
「ガイア・コンソールを使ったというのか?」
「馬鹿な、まさか魔王城からあの距離で命中させたと言うのか?!」
「……6番隊、おそらく全滅かと……」
「だからあれほど別機体と連れて行けと……!」
あの子が乗っていった機神アテナが、魔王の魔槍によって……破壊されたのである。
当然ながら、6番隊は私を除いて全滅。
「は……あ……ラース、は、ラースは、あの子はどうなって……!」
「…………おそらく、亡くなった」
「……っ!」
1番隊隊長、レインから告げられたのは、どうやっても覆しようのない、現実だった。
「なん、で、なんで、どうして……!……これから、これからあの子は、幸せになるはずだったのに……!」
「………………非常に惨い、結末だ」
アテナも、その神核のみを残して完全に破損。後に神核ごと行方不明に。
「わた……私の、私のせいで、死んだんだ……私が、私があの場にいなかったから、ラースを……守れなかった……!」
……だが、アテナは———生きていた。
そう、あの子———ニトイちゃんとして。
おそらく神核ごと、自らの新生を試みたのであろう。……そしてそれは成功に終わり、あのニトイちゃんが生まれた。
———ソレよりもさらに数年前。私は、宗呪羅とアテナの会話を聞いてしまった。
それは、アテナの中にもなかった『アイ』の感情について。
そして、いずれアテナが出会うであろう『運命の人』について。
———だからこそ、元付き人として。
新生を果たしたその子を、初めて「機神だ」と認識した時に思ったことは、『この子を幸せにしてあげなければ』などと言う感情であった。
それはまるで、母性のような。
いつかの誰か、ラースにだって与えたように———と。
……だから、もう一度。
守れなかった……では、終わらせたくなかったのだ。
あの日。
ツバサ君が、夜中に突然……ゴルゴダ機関に押しかけてきた日。
私は、ニトイをさらったのが誰なのか、それを知ってしまったからこそ。
この問題こそ、私が決着をつけなくてはと。
かつての旧知を前にして、そう思ってしまったのだ。
『……生きて、いたのね。ラース』
『そう、そうよ!……今度、こそ、任務を果たす為に……!』
静かににやけたその笑顔は、もはや前の———純粋のように見えるものとは違うと知った。
「……何が目的なの、ニトイちゃんをさらって、何をするつもりだったの」
「『鍵』を誘き出す。オマエだって、誰が『鍵』だか、見当はついてるんでしょ……?」
「そう、本来の目的はツバサ君だった。……そういう、こと」
「…………邪魔をするなら……オマエも殺して……あげるっ!!!!」
でも、今の私はあの子と、ツバサ君の想いも背負っているわけだから。
だから———例え我が子と見なした者でも———手にかけなければならないと、一瞬そう思い。
本当ならば、戦いたくはなかったのだ。
こんな事、ただただ無益でしかなかった。
もっと、出会えるならもっと穏やかに、もっと穏便に、もっと感動的な出会いをしたかった、そう思っていたのに。
「……終わり、ね……!」
———気がついた時には。
既に、私の腑は引き裂かれていた。
本来、私がこの子に負けるはずがなかった。
いくら相手がソウルレスだろうと、私が本気を出せば……確実にあの世に送ることができたのだ。
そう、本気を出せば。
「あっけなーい……! そんなに雑魚だったかしらねぇ……?」
最初から、殺す気で行けば。
「でも、もうこれでおしまい。あとは……『鍵』を殺すだけ……そうすれば、パパに……褒めてもらえる…!」
そんな感情など、アテナと共に既に捨て去ったはずの慈悲などという感情を、その心に浮かばせなければ。
「やっと、やっと褒めてもらえる……ようやく……!」
違う、か。
私は、どうあっても、この子に負ける運命だった。
この子を殺して、ツバサ君を救うか。
この子に付き従って、『鍵』も殺して、そうして———その先に救いがあるかは分からないけど、それでもこの子を救うために動くのか。
判断する猶予はたったの数瞬ほどしかなかったが、そこで答えを出せなかった———どうするかを選べなかったからこそ、私は負けたのだ、と。
……でも、まだ生かしてもらえるというのなら。
『……どうか、あの子を……ラースを、殺して、あげて…………!』
せめて、母に成ろうとした者として。
それが私の負うべき罪で、地獄の果てまで背負って、持っていくべき十字架なのだとしたら。
せめて、せめてそれだけでも願うべきだと、それだけでも祈るべきだと、私の中の何かがそう言っていた気がしたのだから。
……だから、お願い。
こんなことを祈るのは、自分勝手かもしれないけど。
それでも、今の『死』に囚われた———ソウルレスと化したラースを、せめて殺してあげることが、私の———私の意志を継いだ、誰かがやるべきことだと思ったのだから。
……これは私の責任だ。
もっとあの子の笑顔を尊重してあげれば、こんな事にはならなかったはずだ。
もっとあの子の為に、せめて私だけでも尽くしてやれば、あの子に、誰かを殺させる、だなんて判断をさせなければ、或いは———。
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