Wit:1/もしも願いが叶うなら〜No pain, no live〜

月影弧夜見(つきかげこよみ)

文字の大きさ
159 / 256
断章Ⅱ〜最終兵器にアイの花を〜

衝突

しおりを挟む
 ……え?
「……な、なあカーオ。……お前もしかして———」

「分からないわよ?……着いて行った訳でもないんだし」

 ———マジかよ。
 てっきり俺はカーオが知ってるもんだと思ってたから、そこに関しては全くの心配をしていなかったのだが……

「なあ……どうする?」


 ———そう、カーオが知らないのなら———のだ。

 ……あれ?
 もしかしてコレ……詰んでない?

「———でも、方角くらいなら覚えてるわよ」
「……じゃあ、それで。……方角しか分からないのは正直言って心配だけど、空に浮かぶ機神もいない今、動かない理由はないだろうからな」



◇◇◇◇◇◇◇◇
 


 そうして、全くの同時刻。



 未だにロストと交戦していた人界軍一同だったが、イデアの思い付いた作戦により、打開への道が示される。

 気付けば辺りはロストの軍勢、言葉ともノイズともとれぬ雑音を垂れ流しながら、円を形作りこちらに迫り来る灰色の波。

 ———が、それらのコアを1つ1つ砕いて浄化させよう……にも、おそらくゴルゴダ機関の奴らは———民間人や使えない戦闘員までもロストに変えて解き放っている。

 もはや1つ1つ処理していこうとキリが無いため、その壁を何らかの方法で切り開き、一気に先に進む、と言った作戦が立ち上がったのだった。

「……で、久々の爆裂魔法の準備はいいんだろうな、サナ?」
「まっかせて! 眼前を吹き飛ばすだけでしょ?……私なら簡単よ!」


 ———作戦、と言える代物ではなかったが。


「魔力———循環っ!……ひっさびさの爆裂魔法、確実に決めてやるわよっ!……エクス……プロージョンっっ!!!!」




 サナが前に振りかざしたその杖より出たのは———たった一息程度の煙であった。


「……え」

 まさかのイデアも、この光景には唖然である。



 そう、いつものサナであれば、爆裂魔法をポンポン連射することは難なくこなせるのだ。
 しかし———この時のサナは違った。

「———うそ、イメージはできてるはず……まさか魔力?! 魔力が足りてないってえのっ?!」

 焦りの垣間見える中、ロストはそれでも迫り来る。



「……なんなんすか、サナさんは……失敗したんすか、イデアさん!」
「いや……でも……アイツが失敗する……なんて……」

 焦燥に駆られるレイラも、もはや悠長に待っている余裕はないと武器を構える。


「……サナ、一体どうしたってわけ?!……こんな時に、魔力器官でも魔力回路でも異常があるわけ?!」
「———ま、まさか……さっきの……飲み込まれた時に、魔力回路に何かをされたっての……っ!」


 絶望的、ではあった。

 ———先程までの時間、サナが爆裂魔法発動までの魔力を溜める時間、その時間稼ぎを担っていたのは、レイラとイデアとレイであり、イデア達が持っていた祝福儀礼の爆剣も、その時間稼ぎの際に全て消費しきっていたからだ。

 この場にて、あのロストを一掃できる魔法や武器と言えば……やはりサナの爆裂魔法しかなく。

 イデアも多重幻覚境界面を扱えば……とも思いはしたが、いくらアレを用いて魔術領域を展開したとて、この数のロストを相手に一掃するとなればかなり苦しいだろう。


 ……ならば、ならばどうするか……?

 既に背後にもロスト、引けはしない。
 サナの魔術も、爆剣もありやしない。
 

「……クソッタレ、今度こそ終わるしかないってのか……っ!」

「ここまで……来たってのに、隊長が託してくれたってのに、こんなのって……アリっすか……?!」

「終わるにしてもあまりにも呆気なさすぎるわね……世界を救ったパーティのお2人まで諦め気味でどーすんのよ!」

「……だって……そりゃあそうじゃない……?……私の魔法も使えないってのに……どう乗り切れってのよ……?」

 




*◇*◇*◇*◇



 サナ達一向が絶望に包まれる中、セン率いるサイドツー部隊はというと———。

 ……その、イデアたちの遥か後方。

「いやっほおおおおおうっ!!」



 ———などと絶叫しながら、サイドツーに搭乗しロストの群れの上を滑るヤンスの姿が。

『ちょっとおおおおおおっ?!……ねえヤンス、このまま突き進んで大丈夫なの?!』

 そのヤンスに続くようにして、センたちのサイドツーもロストの上を踊るように滑ってゆく。

「この数のロストでヤンス、どうせこの先で戦ってるでしょうから、後は俺たちがあっちまで行くだけでヤンス!!」
『それにしてもこれは速すぎるんじゃないのかな~~~っ!!!!』
 

 そんなこんなで、先頭を突っ走っていたヤンスが、そのロストの前列にて垣間見たのは———。

「あーーーっ!……いた、いたでヤンスよーーーっ!」
しおりを挟む
感想 203

あなたにおすすめの小説

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

処理中です...