Wit:1/もしも願いが叶うなら〜No pain, no live〜

月影弧夜見(つきかげこよみ)

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断章Ⅱ〜最終兵器にアイの花を〜

タルム隊長とは———。

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「…………そうよ、あの人は……いい男だったわあ……情熱的で、何にでも熱心に取り組んで…………だから、その面がレイラちゃんにも移っちゃったんでしょうね。

 レイラちゃんも最初は無気力で、無関心で、目にも……光なんて映ってなかった。……だけど、その明るい光に照らされていくにつれ———あの子も少しずつ、変わっていった。

 まるで、花が咲くように———虚で埋め尽くされてたあの子の顔は、みるみるうちに輝いていった。

 誰かと接してて楽しい、恐怖もなく誰かと接せることが嬉しい、そういった感情が、あの子にも浮かんできた……そうして、今のレイラちゃんが出来上がったのよ」


「……俺、アイツのこと……知らなかったんだな、全然———そんな事があったようには見えなかった」


「あの子は本当にすごいわよ、薬もやめて、トラウマをも乗り越えて———そういう、才能……みたいなものがあったのかしらね。

 今のあの子は、薬をやっていた時の面影を感じさせないほどの笑顔を持っている。


 ……だからこそ———あの子は今のディルを軽蔑しているの」


「今のディル———ああ、そういえば俺も———会ったんだった」




 生気のない顔をして。
 この世に、全てに絶望したアイツの姿を———俺は見てきたんだった。




「会った、のね、今の……ディルちゃんに」

「……ああ、そして……俺の全てを話した。今俺がここにいる理由、今まで戦ってきた理由。……それでもアイツは、戦う方へは揺り動かなかった。

 俺には———アイツを救うことができなかった」



「…………戦うことが、ディルちゃんにとっての全てじゃないとは———」

「そうは思う。———だけど、ここで動かなきゃ……きっと、アイツはずっと後悔するだろうから。

 ……それだけは、耐えられなくって」


 頬を伝い、暖かな水が床にこぼれ落ちてゆくのを感じる。
 何もできなかった非力な自分を恨み、そっと左拳を握り締める。


「———ふふ、って、いい人なのね」


 ———は?
 い、今……カーオは俺のことを『白ちゃん』って呼んだのか?
 俺はコイツに正体を明かしていない、ならなぜ俺の名前が———、

「おっと、これも図星?……今私って、世界を救ったヒーローと話してるのねぇ、ゾクゾクしちゃうわ……!」

「いやゾクゾクしないでくれこっちが怖くなってくる!!」


 ……世界を救った救世主とて、理解できない感情の前には、ただただ怯えるしかないのだ。




「……昔の、ただの思い出話。……なのに、もう既に2人も当人がいないだなんて———虚しいわね」

「———でも、その内の2人は———戦う決断を下した。……多分、そうなんだろ?……だから、俺たちは行くべきだ」

 どこが行くべき場所なのかも分からない。
 だからと言って、がむしゃらに探す時間もない。
 それでも、行くべき理由も、目的も、戦う意味もあるというのならば。


 ならば、俺は行かなくちゃならない。
 どんなデメリットが、どんな困難が待ち受けていようと、ここで引き下がることなどできない。

 痛みが無ければ、俺は生きられないのだから。




「…………ならば、私もついていくわ。……爆剣は、16分の15くらいはあの子たちに渡しちゃったけど。……手負いだけど、私は最年長だし、行かない理由なんて、ないわよねえ……!」



「だったら……アテナ。……行くぞ、決着をつけに」

 毎度の如く石で遊んでいた———今回に限っては、例の白い花を祀るように石を積み上げていたアテナに呼びかける。


「カーオ、さんは……大丈夫、なの?」

「あらニト…………アテナちゃん、心配してくれてありがとうっ!……でも大丈夫よ、ここで動かなければ———隊長の意志が報われないから」

 そうだ、俺は———俺たちは、皆の意志を背負って立っている。






「あら?……この花は……、ねえ……?」
「……そう、なの?」






 特に俺に至っては———いつかの誰か師匠の意志も背負って。

「———ところで、カーオ。……レイラたちが戦ってる場所って……どこ?」


 聞いた瞬間。
 ……木枯らしが1つ、静かな場に吹き荒れた。
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