3 / 12
3.ふたりのゆくえ
しおりを挟む
桜が散って一ヶ月が経った。
新しい出会いの波も一旦は落ち着き再び退屈な日々が繰り返し始める。静かな雨が滴る大きな駅のホーム、何も考えず遥か先をただ眺めているだけ。
友達と遊ぶとか帰る予定なんてものもなくて、ただ淡々と家に帰るだけ。そうして今日も一日が終わる。
「マジでびしゃびしゃに濡れた、これは明日風邪だな」
抜け殻になっていた身体に一瞬にして再び魂が飛び入る。どうやら、同い年くらいの男子が三人で濡れながら駅に走ってきたらしい。
「てか、違う。ホームここじゃない」
髪もぐちゃぐちゃ、服もびちゃびちゃな一番不恰好な人がそう焦ったように放った。その瞬間、三人一斉に気づいたに走り出した。
違う場所に遊びに行くのに、いつもの帰り道の方に来てしまったのか。くらいの軽い想像が頭をよぎる。
「電車が参りますので黄色い線の…」
アナウンスが鳴り響き、電車へ乗り込む。さっきの人たちの向かった方にも電車が来ていたようで、丁度同じタイミングで電車に乗り込んでいた。
少し気になってその三人組を見つめていると、先ほどの不恰好な人と目が合った。
なんて思ったのも束の間で、すぐさま目を逸らされる。
「な…」
そんなすぐに目を逸らさなくてもいいのに。髪の毛ぐちゃぐちゃのくせに、風邪引くぞ絶対。そう心の内で決めゼリフを放ち音楽を聴き始める。
心配して損したような気がして仕方なかった。少しは用意周到にも欲しいものである。雨の日はわざわざ小さめなタオルを持ち歩いているほどだ。これ以上抜け目のない人はいないと自負したくなる。
そんな女子の矜恃を述べたところで、誰に届くわけでもなく、今日も一人の足取りを邪魔するものはない。とため息を吐く寸前までは進んでいたのだが。
「また今日もか…」
昨日の、一番不恰好で、すぐに目を逸らしてきた男子が、たった一人で真横で息を切らしているのだ。しかも今日も昨日と同じくらいの雨で、そんなことは周りも知っているはずなのだ。しかし傘を持っている様子も、タオルを持っている様子もない。
「今日は一人なの?」
傘に両手を添え、斜に構えて言葉を放つ。
「昨日も居たから知ってると思うけど、二人はこの雨で風邪ひいて、今日は俺だけでさ」
「これ、使う?」
少しの相槌を挟み食い気味にタオルを手渡した。何かこの男子っぽい雰囲気が気に入らなかったのかもしれない。
「いや大丈夫。多分」
「はぁ…?」
人の折角の善意を踏み躙られたような気分になる。もうそのぐちゃぐちゃな髪の毛をもっと不恰好にしてやりたくなる。すかした雰囲気に怒りを感じながら、一つの疑問が頭に浮かび上がった。
「てか、昨日も、居たからってどういうこと?」
「毎日居るじゃん、ここのホームに。他の二人が気づいてるかは知らないけど」
一人でいることがバレていたらしい。怒りはすぐさま一直線の恥ずかしさへと転換される。
「なんで喋ったこともないのに認識されてんの…」
「やっぱり二人に続いて俺まで風邪ひきそうだからタオル借りてもいい?また違う日返すからさ」
言葉を遮ってタオルの要求が飛んでくる。妙に笑顔なことが疑問だが、ここでタオルを貸さずに風邪を引かれると困るので仕方なく手渡す。
「また返す時にまた連絡するから、これ」
タオルで顔を覆いながら、連絡先を手渡してくる。そんな時くらい目を見て話したらどうかとも思うが、言われるがままに押し負けてしまう。
「良いけど…?」
「よっしゃ」
その言葉を理解しようとする前に、電車が到着する。会話に夢中で、アナウンスにも気付かなかった。
電車に乗り込んだあともなんとか会話は弾んだ。ここ最近で一番楽しい帰り道だったと思う。
もう雨は上がっているのに、それでも会話は止まらない。
少しこれからが楽しみになった。
淡い期待を胸に、私は彼に手を振った。
新しい出会いの波も一旦は落ち着き再び退屈な日々が繰り返し始める。静かな雨が滴る大きな駅のホーム、何も考えず遥か先をただ眺めているだけ。
友達と遊ぶとか帰る予定なんてものもなくて、ただ淡々と家に帰るだけ。そうして今日も一日が終わる。
「マジでびしゃびしゃに濡れた、これは明日風邪だな」
抜け殻になっていた身体に一瞬にして再び魂が飛び入る。どうやら、同い年くらいの男子が三人で濡れながら駅に走ってきたらしい。
「てか、違う。ホームここじゃない」
髪もぐちゃぐちゃ、服もびちゃびちゃな一番不恰好な人がそう焦ったように放った。その瞬間、三人一斉に気づいたに走り出した。
違う場所に遊びに行くのに、いつもの帰り道の方に来てしまったのか。くらいの軽い想像が頭をよぎる。
「電車が参りますので黄色い線の…」
アナウンスが鳴り響き、電車へ乗り込む。さっきの人たちの向かった方にも電車が来ていたようで、丁度同じタイミングで電車に乗り込んでいた。
少し気になってその三人組を見つめていると、先ほどの不恰好な人と目が合った。
なんて思ったのも束の間で、すぐさま目を逸らされる。
「な…」
そんなすぐに目を逸らさなくてもいいのに。髪の毛ぐちゃぐちゃのくせに、風邪引くぞ絶対。そう心の内で決めゼリフを放ち音楽を聴き始める。
心配して損したような気がして仕方なかった。少しは用意周到にも欲しいものである。雨の日はわざわざ小さめなタオルを持ち歩いているほどだ。これ以上抜け目のない人はいないと自負したくなる。
そんな女子の矜恃を述べたところで、誰に届くわけでもなく、今日も一人の足取りを邪魔するものはない。とため息を吐く寸前までは進んでいたのだが。
「また今日もか…」
昨日の、一番不恰好で、すぐに目を逸らしてきた男子が、たった一人で真横で息を切らしているのだ。しかも今日も昨日と同じくらいの雨で、そんなことは周りも知っているはずなのだ。しかし傘を持っている様子も、タオルを持っている様子もない。
「今日は一人なの?」
傘に両手を添え、斜に構えて言葉を放つ。
「昨日も居たから知ってると思うけど、二人はこの雨で風邪ひいて、今日は俺だけでさ」
「これ、使う?」
少しの相槌を挟み食い気味にタオルを手渡した。何かこの男子っぽい雰囲気が気に入らなかったのかもしれない。
「いや大丈夫。多分」
「はぁ…?」
人の折角の善意を踏み躙られたような気分になる。もうそのぐちゃぐちゃな髪の毛をもっと不恰好にしてやりたくなる。すかした雰囲気に怒りを感じながら、一つの疑問が頭に浮かび上がった。
「てか、昨日も、居たからってどういうこと?」
「毎日居るじゃん、ここのホームに。他の二人が気づいてるかは知らないけど」
一人でいることがバレていたらしい。怒りはすぐさま一直線の恥ずかしさへと転換される。
「なんで喋ったこともないのに認識されてんの…」
「やっぱり二人に続いて俺まで風邪ひきそうだからタオル借りてもいい?また違う日返すからさ」
言葉を遮ってタオルの要求が飛んでくる。妙に笑顔なことが疑問だが、ここでタオルを貸さずに風邪を引かれると困るので仕方なく手渡す。
「また返す時にまた連絡するから、これ」
タオルで顔を覆いながら、連絡先を手渡してくる。そんな時くらい目を見て話したらどうかとも思うが、言われるがままに押し負けてしまう。
「良いけど…?」
「よっしゃ」
その言葉を理解しようとする前に、電車が到着する。会話に夢中で、アナウンスにも気付かなかった。
電車に乗り込んだあともなんとか会話は弾んだ。ここ最近で一番楽しい帰り道だったと思う。
もう雨は上がっているのに、それでも会話は止まらない。
少しこれからが楽しみになった。
淡い期待を胸に、私は彼に手を振った。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる