世跨ぎ

宮浦透

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3.ふたりのゆくえ

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 桜が散って一ヶ月が経った。
 新しい出会いの波も一旦は落ち着き再び退屈な日々が繰り返し始める。静かな雨が滴る大きな駅のホーム、何も考えず遥か先をただ眺めているだけ。
 友達と遊ぶとか帰る予定なんてものもなくて、ただ淡々と家に帰るだけ。そうして今日も一日が終わる。
 「マジでびしゃびしゃに濡れた、これは明日風邪だな」
 抜け殻になっていた身体に一瞬にして再び魂が飛び入る。どうやら、同い年くらいの男子が三人で濡れながら駅に走ってきたらしい。
 「てか、違う。ホームここじゃない」
 髪もぐちゃぐちゃ、服もびちゃびちゃな一番不恰好な人がそう焦ったように放った。その瞬間、三人一斉に気づいたに走り出した。
 違う場所に遊びに行くのに、いつもの帰り道の方に来てしまったのか。くらいの軽い想像が頭をよぎる。
 「電車が参りますので黄色い線の…」
 アナウンスが鳴り響き、電車へ乗り込む。さっきの人たちの向かった方にも電車が来ていたようで、丁度同じタイミングで電車に乗り込んでいた。
 少し気になってその三人組を見つめていると、先ほどの不恰好な人と目が合った。
 なんて思ったのも束の間で、すぐさま目を逸らされる。
 「な…」
 そんなすぐに目を逸らさなくてもいいのに。髪の毛ぐちゃぐちゃのくせに、風邪引くぞ絶対。そう心の内で決めゼリフを放ち音楽を聴き始める。
 心配して損したような気がして仕方なかった。少しは用意周到にも欲しいものである。雨の日はわざわざ小さめなタオルを持ち歩いているほどだ。これ以上抜け目のない人はいないと自負したくなる。



 そんな女子の矜恃を述べたところで、誰に届くわけでもなく、今日も一人の足取りを邪魔するものはない。とため息を吐く寸前までは進んでいたのだが。
 「また今日もか…」
 昨日の、一番不恰好で、すぐに目を逸らしてきた男子が、たった一人で真横で息を切らしているのだ。しかも今日も昨日と同じくらいの雨で、そんなことは周りも知っているはずなのだ。しかし傘を持っている様子も、タオルを持っている様子もない。
 「今日は一人なの?」
 傘に両手を添え、斜に構えて言葉を放つ。
 「昨日も居たから知ってると思うけど、二人はこの雨で風邪ひいて、今日は俺だけでさ」
 「これ、使う?」
 少しの相槌を挟み食い気味にタオルを手渡した。何かこの男子っぽい雰囲気が気に入らなかったのかもしれない。
 「いや大丈夫。多分」
 「はぁ…?」
 人の折角の善意を踏み躙られたような気分になる。もうそのぐちゃぐちゃな髪の毛をもっと不恰好にしてやりたくなる。すかした雰囲気に怒りを感じながら、一つの疑問が頭に浮かび上がった。
 「てか、昨日も、居たからってどういうこと?」
 「毎日居るじゃん、ここのホームに。他の二人が気づいてるかは知らないけど」
 一人でいることがバレていたらしい。怒りはすぐさま一直線の恥ずかしさへと転換される。
 「なんで喋ったこともないのに認識されてんの…」
 「やっぱり二人に続いて俺まで風邪ひきそうだからタオル借りてもいい?また違う日返すからさ」
 言葉を遮ってタオルの要求が飛んでくる。妙に笑顔なことが疑問だが、ここでタオルを貸さずに風邪を引かれると困るので仕方なく手渡す。
 「また返す時にまた連絡するから、これ」
 タオルで顔を覆いながら、連絡先を手渡してくる。そんな時くらい目を見て話したらどうかとも思うが、言われるがままに押し負けてしまう。
 「良いけど…?」
 「よっしゃ」
 その言葉を理解しようとする前に、電車が到着する。会話に夢中で、アナウンスにも気付かなかった。
 電車に乗り込んだあともなんとか会話は弾んだ。ここ最近で一番楽しい帰り道だったと思う。
 もう雨は上がっているのに、それでも会話は止まらない。
 少しこれからが楽しみになった。

 淡い期待を胸に、私は彼に手を振った。
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