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5.笑話
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怪しげな男が前で語るのは人生論。先生から説かれたというなんとも信じ難い話をしている。講義室には春風と生暖かい陽の光が舞い込んでくる。なんとも眠たくなる場のなか、何故だか周りの大学生達は一心不乱にもノートに何かを書き込んでいる。そこまでして、その怪しげな男の戯言が気になるのか。はたまた、その戯言に大事な意味があるのか。そっちの方が私には気になって仕方なかった。
怠けた根性の私はろくに努力などしなかった。それは今後一生、何かと足を引っ張ることになるはずなのだが、今一度、内心問いただしてみても答えは変わらなかった。きっと私は生まれ変わっても努力はできない人間でいる。だからこそこの人生論は私にとって面白味が無いのかもしれない。
努力には無限の可能性があります。そうか!そうか!とただ繰り返される空間はまるで食物連鎖を見て驚いている原始人でしかなかった。
ただどうにも面白くて仕方なかったのは、生徒に一人、ノートを開いているのにも関わらず机にペンを、コン、コンと打ち付けるだけで何もしない奴が居るのだ。
こういう奴に限って妙に態度がでかいのだ。私はもう人生と言うものを知り尽くした。と言わんばかりに御大層に人の話を聞いているフリをする。この場合は必ずと言っていいほど人の言葉は聞こえていない。その生徒を見て私はどうにも仲間意識と嫌悪感を感じてしまった。
どちらの立場も、いや、どの立場も、側からみれば阿呆だろう。実に滑稽だろうと思う。
「私は先生の言葉を聞いて、世界が三百六十度変わったのです」
先程の滑稽な輪の中に私を混ぜた数分前の自身を殴りたくなった。三百六十度も変われば同じではないか。一周回ってもう一度前を見て、世界が変わっていればそれは天変地異でも起こった後だ。
刹那、周りが何も気付かずペンを動かしている最中、先程の何も書き込んでいなかった生徒がバタン。と立ち上がった。
「三百六十度では何も変わらんでしょう!せめて三百六十五度辺りにでもせねば!」
私はこの生徒はどうしようもなく馬鹿なのだと悟った。どうにも問題点を正確に見る頭がないらしい。
辺りの生徒もそれに気付いたようで、馬鹿だ。馬鹿だ。と口を揃えだした。
しかし、その時だ。前に出ていた怪しげな男の横に、その馬鹿が並び出した。二人は一度目を合わして、笑い合った。
やられた。しくじった。私は途端に恥ずかしくなった。この男達の方が少し上手だった。
「皆がこうして笑えたのは、過去の努力あってこそだ。つまり、こういうことだ」
これは初めから仕込まれていた罠だったのだ。つまり、これは話を真面目に聞いていない私へ恥をかかせるための作戦だったのだ。真面目に聞いている奴ほど、三百六十度に敏感に反応できない。
「我々の笑話を聞いてくれてありがとう。さあ、もうひと踏ん張りだ」
講義室全体から拍手が起こった。私は余計に恥ずかしくなった。もう私はこの場には居たくなくなった。
それでも、私が今ここから逃げれば、それこそ笑い話の的だ。
春風の生暖かい陽の光を感じながら、私はノートを開きペンを取り始めた。
怠けた根性の私はろくに努力などしなかった。それは今後一生、何かと足を引っ張ることになるはずなのだが、今一度、内心問いただしてみても答えは変わらなかった。きっと私は生まれ変わっても努力はできない人間でいる。だからこそこの人生論は私にとって面白味が無いのかもしれない。
努力には無限の可能性があります。そうか!そうか!とただ繰り返される空間はまるで食物連鎖を見て驚いている原始人でしかなかった。
ただどうにも面白くて仕方なかったのは、生徒に一人、ノートを開いているのにも関わらず机にペンを、コン、コンと打ち付けるだけで何もしない奴が居るのだ。
こういう奴に限って妙に態度がでかいのだ。私はもう人生と言うものを知り尽くした。と言わんばかりに御大層に人の話を聞いているフリをする。この場合は必ずと言っていいほど人の言葉は聞こえていない。その生徒を見て私はどうにも仲間意識と嫌悪感を感じてしまった。
どちらの立場も、いや、どの立場も、側からみれば阿呆だろう。実に滑稽だろうと思う。
「私は先生の言葉を聞いて、世界が三百六十度変わったのです」
先程の滑稽な輪の中に私を混ぜた数分前の自身を殴りたくなった。三百六十度も変われば同じではないか。一周回ってもう一度前を見て、世界が変わっていればそれは天変地異でも起こった後だ。
刹那、周りが何も気付かずペンを動かしている最中、先程の何も書き込んでいなかった生徒がバタン。と立ち上がった。
「三百六十度では何も変わらんでしょう!せめて三百六十五度辺りにでもせねば!」
私はこの生徒はどうしようもなく馬鹿なのだと悟った。どうにも問題点を正確に見る頭がないらしい。
辺りの生徒もそれに気付いたようで、馬鹿だ。馬鹿だ。と口を揃えだした。
しかし、その時だ。前に出ていた怪しげな男の横に、その馬鹿が並び出した。二人は一度目を合わして、笑い合った。
やられた。しくじった。私は途端に恥ずかしくなった。この男達の方が少し上手だった。
「皆がこうして笑えたのは、過去の努力あってこそだ。つまり、こういうことだ」
これは初めから仕込まれていた罠だったのだ。つまり、これは話を真面目に聞いていない私へ恥をかかせるための作戦だったのだ。真面目に聞いている奴ほど、三百六十度に敏感に反応できない。
「我々の笑話を聞いてくれてありがとう。さあ、もうひと踏ん張りだ」
講義室全体から拍手が起こった。私は余計に恥ずかしくなった。もう私はこの場には居たくなくなった。
それでも、私が今ここから逃げれば、それこそ笑い話の的だ。
春風の生暖かい陽の光を感じながら、私はノートを開きペンを取り始めた。
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