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第136死 生徒と先生

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 居るはずのない人物がそこにいる。まりじ様と名乗った彼女は邪魔になった鉄の仮面をドローン充電ユニットの上に置いた。そして驚いたままの青年は消化出来ない山ほどある聞きたい事を、ひとつ漏らし彼女に問うていた。


「なんで先生が!? 捕まったんじゃ?」

「あー、アレはね。本当に私も予想外のことでね、ビリリとプツンと逝ってしまったんだよ、キミたちのミニチュアワールドが」

 腕組みをし、少し微笑みながら答えていく白衣の彼女の言動にまたも青年はさっき出したはずの驚き声を重ねていく。

「ええええ、そうなんですか!? ってビリリプツンと? どういう!?」

「そうなんだよ、それで私はね、これはすごい事だ! と思い籠ってた数時間後だよ、ほいほいっと、身に覚えのないことばかりのバッピーなセットを詰め込まれてね、即お縄なんだよ」

 ビリリプツン……なんなのかは詳しくは分からないけど、これは本物の先生だ。

「えと、マイライフNTカードもそうですよね? 俺情報とか盗られて勝手に吐い信にタイピングされたりして」

「フフ、それも私ってことになっていたな。マ、幸いなのはね、まりじ様(39)ってだけの報道で済んだところだよ、何事もコネが大事とこの歳で実感させられたよ」

「ということだ、全部濡れ衣的な事故でね軽蔑しないでくれるとうれしい、狩野生徒くん」

「それは……災難でしたね先生!」

「そういうキミのシンプルな反応を待っていたんだよ、懐かしいね、ほら」

「ん?」

 広げられた両手。何かが足りない何かを迎え入れるようなそれは、突っ立っている。

 その様子に思わずクエスチョンマークを浮かべ首を傾げた。

「わかれよハグだよハグ」

「いやそんなこと今まで……」

「いいじゃないか、死のダンジョンから帰ってきた生徒を迎えるんだ、親の次は先生だろう?」

 数秒ずっと手を広げたままである。これは自ら行動を起こさないと終わらない……と感じた青年は苦い顔をしつつもゆっくりと近づいていった。

 白衣はぎゅっと包み迎え入れた。しっかりと膨らんだ線の浮かぶ緑のタートルネックの胸に抱きしめられ──顔と顔、さらりとした金髪と黒髪が互いすれ違い合わさっている。

「あぁっ、本当によく来てくれたよ」

「うっ、そそれよりビリリプツンとか怪盗藍紫とか先生は」

「あー、でもそう結びつけるよね、盗みといえば狩野生徒くんが作り上げた怪盗藍紫私も真っ先にソレが浮かんだよ、それが自然だ」

「でもね、本当に私も知らないんだよ、ビリリプツンはビリリプツンだ。気になる迷宮入りは置いて話すよ。事実としてはENの共同研究であるミニチュアワールドのデータは死んで狩野生徒くんが死のダンジョンに行って私は警察署に行った、そして今こうして再びということだ」

「わ分かりました。けど、ENからなんでドッツに!?」

「もともと野心家な女性にドッツに誘われていて色々それに協力していてね、ENは私と生徒たちで色々とAIとシミュレーションについて考えていきたくて、ついでに若くして既に心機人類であるキミたちの創造力も開花させていければお互いにおいしいだろう?」

「な、なるほど?」

「この際だが言うが正直最初は見下していたんだよこのかわいそうな子たちを実験道具にしようだなんて思っていたさ、フフだがねENは私の想像以上にみんな優秀だった、優秀に育っていったんだみんながみんなさ。あ、怒らないでくれよ。毎日純粋にたのしかったんだよ、あの共同研究とミニチュアワールドは宝物だ、失われてしまったけどねフフ。狩野生徒くんキミは最初はまったく何の面白味もなかったが、何回もヤラれてはヤラれて真っ当なキミが捻くれてでも正しく導き出した怪盗藍紫は傑作だと思うぞ、私もキミ以上に気に入っているのかもな彼女を」

「うっ、そ、それはありがとうございますですけど……そろそろもう3分ぐらいハグ続いてます……っ」

「いいじゃないか? こういう機会なんてそうはないんだ落ち着く────髪伸びた?」

 ながく、あたたまっていくほど長く。あまりにも長いハグをそろそろ解いてほしいと青年は先生に願ったが。髪の襟足を細指に絡めてさらさらと触られ──


「伸びたかもですけど、離れても話せるんでっ!」

 少し強引に、身をよじり抵抗の素振りを見せて──離れた。離れた互いの身体にはアツいほどの体温がまだ残っている。

 少し驚いた顔をしているのは金髪の白衣の方であり。

「この私に狩野生徒くんが怒るとは想定外だ。慕われていると自負していたのだが?」

「慕っていてもこんなの怒ったうちに入りませんって先生……俺って、そだおばみんさんは?」

「マッドなおばみんくんならおそらく来てないと思うが、気にしてはなかったからさぁね? どのみち私が話があるのはキミだよ狩野生徒くん」

「俺?」

「キミのこれだよ、これ────」

 ごたついた室内を歩いていった先生の後を生徒はついていった。立ち止まった先には、何やら大掛かりな機具と机上に置かれている見覚えのあり過ぎる長方形の黒。

「これは俺のホットプレート……? あ、そういえばスカイハイに置いたかさばる荷物はドッツまで送られてたのか?」

「そうそう、キミのこれだけが先に着いてね。私は熱心に調整に取り組みつつも待っていたんだよ遅刻の狩野生徒くんを、ポールタワーの観光でもしていたのかな? アレはまだスカスカだけど夢があるからねキミも好きだろう」

「それはすみません……観光あはは……そんなところ、でした! でも俺今日はおばみんさんからメディカルチェックって聞いていたんですけど?」

「ん? あー、それも大事だね、でもそんな意味のない事より大事なのはこのホットプレートだろう。さっそくたのむよ狩野生徒くん」

「え?」

「ホットプレートをこの私がブレンドしたシミュレーターに挿して、識・ホトプスしてみてくれ」

「えっとホトプス? ……はい?」

 ブレンドしたシミュレーター。彼女が指で指し示したのは、大型のゴテゴテとしたツブラなひとつ目をした鉄色だ。剥き出しの配線にマザーボード基盤、大容量のメモリ、投影レンズ。

 作りかけのプロトタイプのような見た目と言わざるをえない。

 見たこともない大型のシミュレーターに、青年は驚き先生の言っていることの意味を未だ十分に汲み取れず、要領を得れずにいた。

 そんな戸惑う生徒の様子を見て先生は補足を続けた。


「吐い信者丘梨栄枯くん何もかもがスペシャルな彼女に私の興味が尽きることはないが、狩野生徒くんキミのホットプレート特に識別のホトプスのチカラに私は目をつけていてね。電境世界の死のダンジョンの物を詳細に識別するとはおそろしいデータ量と生電子せいでんしのチカラ理解力を含んでいると思わないか? 分からない事が明らかになるんだ、微弱な生電子を含んだこの未完成なシミュレーターさえ足りない部分を補完してヒントをくれるのではないかと期待するのが自然だろう」

 生電子、現世をくぐり電境セカイで人が存在する、その境を越えたときには個人の持つ全ての情報が、身体が生電子と呼ばれる微細なチカラの集合体に置き換えられると言われている。

「な、なるほど? たしかに! いやでも俺にコイツにそこまで拡大解釈したチカラがあるとは」

「なに怪盗藍紫のときと同じだ、拡大解釈いいじゃないか、実際に怪盗藍紫はキミと私の子として生まれたんだ。これだって不可能と決めつけるのはENじゃないだろう? 試さなければ拡大しない試しても可能性は縮小はしない、フフそうだろう? とにかくやってみてくれ狩野生徒くん」

 金髪白衣は微笑っている、宴神大学のENで怪盗藍紫やMMOを後押ししてくれたのと同じように。

 諦めたり否定したり躊躇したり、そうじゃなく生徒としてENとしてヤルことは──

「……ハイッ!!」

「期待通りのいい返事だ。やはりキミといるとシンプルでおもしろいな、フフ」

 元気な返事をし、黒いホットプレートを持ち上げた。
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