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第183死 コウタくんおかえりなさい

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「どうなってんだ……」

 帰宅部男子が戸を開くと女子の溜まり場になっていた。そういう突拍子の無いハーレム漫画的シチュエーションが実際にあると──すごく意味が分からない。

 孝太の部屋、女子が2人いる。いつもの白ジャージの長身クール系お姉さんと、少しそれよりも若くてちいさいヒト。中学生が着てそうなブラックのパーカーを着ている。



「なるほどなるほどもう1段階先ねぇ、丘梨ぃそれより私まだデスⅡにいけないってのさ!!」

「ええ、そうでしたっけ?」

「そうでしたっけじゃないよぉー丘梨ィィ!! 丘梨があの河童相撲以来全然会ってヤラせてくれないからいつまで経ってもおおおお!! もやもやな毎日丘梨栄枯が恋しいのよわたしゃこんなところまでストーカーかつ不法侵入したわけさ」

「この漫画のようにもう一段先にチカラを制御しいければいいのですが」

「って話聞いてる……? 私のあらすじを華麗にスルー? おかなし? ──マンガ的もう一段先パワーアップねぇ、おばみんちゃんはテンションがあるけどさぁ……って何その漫画」

 3つに折り畳んだ敷き布団をソファー代わりに座り、おばみんはポテチを食す右手をパーカーに拭き。

 瞳孔は上向き、唇はすこし尖らせ、黒髪に一筋あるアイスグリーン色の触覚髪を数度触る。

「ええ、ですので教えてください」

 ガラガラとコマを走らせて青いチェアーは、すっと、近づいた。

 その緑の触覚に対してそっと栄子は手を伸ばしていく──向かい合い話していたヤツがいきなりチェアーごとこちらへと移動、ビリリと驚き反応したおばみんの身体が後方へと首と背を仰け反った。

「ほわぁ!? やだよやだよだってどんどん離されちゃうじゃん!? って私のスキルだからこれ無理無理丘梨(31)には」

「何を言ってるんですか? 案外せこいですね」

 栄子の伸ばした左手はもどし、身体の横に開き、首を少しだけ傾げて呆れたような表情を浮かべている。

「せ、せこい!? だいたい丘梨そんなんなくても強いじゃァァァん!!」

「……地味ですので」

 左頬に左手をかるくノセて、可愛らしい仕草で近く目を見て答えた。

 おばみんは近すぎるソレをガシガシと蹴り、青いチェアーと白ジャージは回転しながら学習机の元へと帰った。

「そんな理由!? ふざけんなよお前!! どこが地味なのさね!? チート火力の緑炎に対人最強のチートチンキスにチートデカ腕レーザー、まだ望むのかよ、おい丘梨!!」

「すこし、飽きました。オーバー未惇のように段階式パワーアップしたいです」

 回転しながらも華麗に机上にあったアイスコーヒーを掴み取り、ストローで唇を窄めてひと飲み。

 ぴん、ぴん、ピン、と栄子はおばみんの真似をするように自身の黒髪を上へと摘み引っ張る。クールな笑顔でおどけて見せた。

「な、な、ナ!?」

「とにかく今日は教えてくださいね、パワーアップ」

「ぬぬぬぅ、って私の修行は!!」

「なしです」

「ええええ普通こういうのはライバルキャラを先に自分のレベルまで育てるんだよ丘梨!? 丘梨マジ間違ってるよオマエ、何自分だけレベル上げてフル改造ボーナスで単騎無双プレイしてんのさね!?!? 修行仲間って言ったよね!? おばみんちゃんという影のヒロイン栄枯さんの永遠のライバルちゃんを!! なんのための精神となんちゃらの栄枯ちゃんのチート部屋!!」

「ライバル?」

「え?」

「ふふ」

 ぢゅー、静寂に流し込んでいく冷たいアイスコーヒー、吸引音と意味ありげなクールな微笑みがおばみんの顔面へと突き刺さっていく。

「え、なになに!? え、おばみんちゃんだよ天下のオーバー未惇!! ドッツのナンバーワン探索者!! チート栄枯の次に強い、他より大差で!!」

 やけにテンションの高い興奮気味のおばみんは布団のソファーから立ち上がり栄子の前でジャブジャブ、ハイキック、キレのある演目を披露。

 対照的に栄子はぐるりと優雅にチェアーを一回転。天を見上げ黄昏れるように────

「私もまた、井の中でしょうか…………2人ほど?」

「え、ふたり!? え、誰? そんなハズあるかッ嘘をつくなぁああ丘梨ィィ」

 黒パーカーは白ジャージの首元を掴みパタパタと──戯れあっている一方の顔が彼の方へと向いた。

「あ、コウタくんおかえりなさい」

「……お、おう、ただい」

「コウタきゅんおかえりぃぃきゅんきゅん! ってコウタなんてどうでもいいから丘梨!」



「なんだこれ……ここ俺ん部屋なんだけど」

 そっと部屋の隅にとりあえずリュックを置いた。居心地はもはや良い悪いの問題ではなく、知らない人とつい最近知り合ったばかりの人が自分の部屋で喧嘩している──空間のパワーバランスが狂っていてよく分からない。

 女子、それも美人がふたり。現役男子高校生の孝太にとって訳の分からない状況がつづく。
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