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第255死 1枚のクエストカード

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 ドタドタと半球の宇宙空間を揺らし──大小交差する戦いの最中に更に放ったチンキスブレードの71連斬はまたもキューブが腹を滑らせただけで意味が無いものであった。

 側面の四つ腕は隣の面を平手を開き抑えて、やさしく握られた上面の拳はやがて天にぱーーっと咲かせて


 刻めない圧倒的な硬度を誇るその石のモンスターはゆっくりと四つ手を着き直してまた立ち上がり────。


「最高の攻撃には最高の防御を、フフフ、やはりこれ程に意味のあるバトルとは楽しいものです」

「大型ペットありの2対1とは聞いていませんよ」

「イシを積み重ねた今のあなたはそれ程に重い、お母さんは愛をカタチで示し存分に娘のことを評価しているのです」


 もう幾度か斬った。そして数度斬られ撃たれた。

 圧するマッスルFsキューブに騎乗しながら伸ばしたエメラルドハルバードと虹色の指弾丸の機銃のコンボは人馬一体のシンプルかつ大胆な攻め方であり、強烈なイチゲキの技を誇るバージョンIIの栄枯でも無効化され攻めっ気を封じられてしまえば守備の時間が増えジリ貧なのは明らか────だが、

(手が生えているのは五つの面……すべてのパーはおそらく手のない面それか何か他にも意味がありそうです、ひとつのパーや他と指一本でも違うジェスチャーは対面を指す……そういう事でしたか……ええ、少なくとも2回の全力アタックではひじょうにそうでした。それに数度受けた平手打ちもよく見れば少し変なカタチをしていましたねッダメージを与える為のオマジナイでしょうか? ……ふふ、ええなんとなくのカラクリが分かれば最高の防御とやらにたいする勝算はべらぼぅに未だあります)

 【EA】痛いの痛いの完治式金平糖手粒薬を発動。マザー・テンが喋っている間栄枯自身が熟考している間にも秘蔵の合成回復薬カードをパパッと使い、口内に一気に放り貪りながら受けたダメージの爆発的回復を図った。

 見る見るうちに貰ったエメラルドと虹色の傷痕が失せていく……しかし合成バトルカードの使用で消費する電量は通常のカードより遥かに大きい……頭にこもる熱は冷めないが、体は万全の状態へと戻り膨大な電量を知らず体内に吸い寄せられる栄枯にとっては実質イーブンなのである。

 次のプランはバッチリ……気合いを入れ直して──ブラックな包丁と果物ナイフのチグハグ二刀スタイルでキューブに乗るマザーに対して構えた。

 見つめる──敵を見据えて放たれた痺れるような殺気のレーザービーム、そのぶつかった未だ諦めていないクールにメラメラと煌めく星色の瞳に機人は察して応えたのか──

 石は踊るように投げ捨てられた、

 宇宙ステージに色とりどりの石は沈み、

 どこかさっき見たような巨大なカードの戸となり、見たことのない煌びやかなモンスター達が召喚されていく。


【ダイヤモンド車輪ポニー・カリナンII】:
煌めく四輪脚の大きな馬、ダイヤモンド4000カラット以上の重さを誇る駿馬。

【ウェービィパープルタルクスタイル・てもんちゅるら】:
中身はスタイルが良いオンナらしいが……もじゃもじゃと蠢く数多の柔らかな石タルクの触手は非常に厄介。

【スターライトルビーたるとタートル・鬼亀きき】:
大きなルビーの亀、輝ける六芒星を宿すスタールビーをタルト生地の甲羅にくまなく張り巡らせた贅沢な赤い巨大亀の要塞。



「娘の成長は速いものです」

「さて、これが待ちに待ち更なるイシを重ねた私の全力の玩具箱というところでしょう、フフフ……母と娘、石比べの答え合わせをしましょうか丘梨栄枯」

「っ……ギラギラぞろぞろと大人気無いですねぇ、ええッ!」

 キラめく透明の馬に紫の妖しい蠢き、ルビーの山がゆっくりとその亀頭を覗かせキューブ石の上に立つマザーは矛を納めエメラルドの扇子へと──パッと優雅に咲かせて閉じて、プランはくしゃくしゃのおしゃか……厳しく苦笑う栄枯の顔をニヤリと指し示した。



▼▼▼
▽▽▽



 一方その頃黒い塔の外、塔の下では────。

「スカイハイに1人で乗り込んだという丘梨栄枯に援軍を送れないのですか! 地上の堺ですらこれ程の魔境に……いち早く援軍を送るべきですッ!」

「だからイマやってんだろ姉さん! ちっ、なんでリジェクトすんだ俺の死のダンジョンじゃないのか?」

「なにをやっているのです! はやくなさい! ここにいる上位探索者で一斉に乗り込みます!」

「同じ事を何度も言うなッ! 分かってるよ肝心のエレベーターと入口がないんだからなァァァ!」

 ここにきて姉弟の激しい口論が続く──。堺スカイハイポールタワーへと向かう道中で出会ったパラソルガール、ノッポ大阪などの上位探索者の力添えを得て塔の下まで強引にモンスター網を掻い潜り突破したものの……肝心の黒塔の中へは進入出来ず、丘梨栄枯が単身塔へと乗り込んだであろうという情報だけがその中へと取り残されている状態だ。

 合流した探索者達は組織のトップと技術畑の3人をなおも囲むモンスターのプレッシャーから守り抜きながら、

 横でやきもきとその作業を見つめる狗雨雷叢雲と、姉のイカれていないスパコンを弄りながら黒塔へと接続した現在もリジェクトを突破しようと四苦八苦……額とタイピングする両手に汗を滲ませる弟の雷亜と──

「ふむ、取り込み中悪いがこれは私が作っていたハイサカイのクエストカードだ、こういうのはどうだ事務局長の弟くん。この不可解なパーティーには初めから1枚足りてない……と私は推測するのだが」

 雷亜が作業に没頭している間に明智マリアは1人熟考し、あるモノを実験的に作っていた事を思い出した。

 ごちゃごちゃとカーゴに積んだ荷の中に見つけた桐の小箱を投げ捨てて中から青い1枚のカードを取り出した。

 クエストカード、それは狩野千晶と明智マリアがリアルシミュレーターの世界、市街地Bを作り上げた際に余らせていたもう片方のカード。

「ナニ? そんなモノがッ……と、そういうことか! なら……ッ0階にすればこっそり上手く行きそうだ!」

「うんッ! 私もそう思っていた!」

「どういう事です!」

 勝手に要領を得て近づき意気統合し合う金髪同士に、事務局長はあまりにも理解できず口を挟んだ。

 すると白衣を翻して明智マリアは青いカードを右指に挟み込み、得意気に答えていった。

「考えてもみろ我々の方がこの地この場には詳しいはずだ、ハイサカイの詳細なクエストカードがあるならばスパコンの接続がリジェクトされようと、しれっとカードを1枚塔へと挿入し同期しツギハギ……ここを0階としたこのほぼマップ情報だけの白紙の下地にルールの上書き追加ぐらいは理論上出来るんだろう! ここに何枚どんなルールがあるかは知らないがほぼ真っ新な1枚は初めからここにある、1枚あれば後のカードがなんであろうと歪な塔とのバランスを保つために互いに整合性を保つために自然と惹かれ合うのさ、あっははは! だって死のダンジョンはクエストカードがそのステージをカタチ作っているのだろう?」

「つまり向こうも勝手に受け入れるしかないってことだ姉さん! もう噛み付くなよ! ははははは!」

 全ては理解出来ない狗雨雷であったが時間が惜しい、さっそく雷亜と明智マリアにその作業に取り掛かるように促した。

「出来るのですね! ならはやくこの状況を有利に終わらせてください!」

「有利ってだからこっちは1枚なんだからそう簡単には決定打にならないだろ! 塔には蓄えられているソーラー電池があるんだこっちも電量がないとそんなひっくり返すような事は出来ないんだ姉さん。────るーる、ルールの追加か……なら、やっぱりコレをやるしかないよなはははははは」

「あっははは! そうだなきっとそうだやはり死のダンジョンにはそれがひじょうに良い!」

「なんでもいいです早くなさいッ!!!」



 笑う雷亜は、未だ生きているスパコンに1枚のクエストカードをゆっくりと挿入した。
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