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本編
【21】最後のCommandは
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湊と一緒に遅めのランチを食べる。
オレが朝から見境なく盛ってしまったせいで、目覚めたときに湊のお腹は空腹を主張していた。
考えてみれば、昨日の夜から湊は何も食べていない。可哀想なことをことをしてしまった。
慌てて冷蔵庫の中の有り合わせでキノコとベーコンのクリームリゾットを作った。気に入ってもらえるといいのだけれど。
湊は猫舌らしく、スプーンに乗せたクリームリゾットを口に入れる前にふぅふぅと息を吹きかけていた。
パクリと一口食べると満面の笑みが浮かんだのを見て、オレの口許も思わず緩んだ。どうやらお気に召してもらえたようだ。
今日は湊は一日フリーなのに、オレのほうがあと一時間……どんなに粘っても二時間以内には出勤しなければならないのが残念だ。今からでも有給取れないかな……取れないよな。体調不良でしか使うことのない有給はまだまだ沢山あるのだけれど、急に休めば誰かに迷惑が掛かってしまう。それは本意ではない。
自分の立場が恨めしい。湊は会社員らしいので、土日祝が休みのようだ。もっと湊と一緒に居られるような仕事に転職しようかと、リゾットを食べている湊を見ながら、オレは本気で脳内検討をし始めていた。
「……そういえば、恭介さんはなんで僕を抱いてくれたんですか?」
リゾットを食べ終わったときに、湊に言われて面食らった。
「もしかして、昨日の夜の記憶って……ない?」
「えっ、あっ……っ!! いやっ、あのっ、その……」
サブスペースに入ったときの記憶は薄れやすいとは知っていたけれど……アルコールもそれなりに入っていたので、もしかしたら湊は昨日のことは忘れてしまっているのかもしれない。
その可能性を失念していた自分に苦笑した。だけど慌てた湊が可愛いくて、つい悪戯心を起こしてしまった。
「オレと恋人になったっていうのは覚えてない?」
「えっ、嘘!?」
「嘘だと思う? 本当だと思う? 好きな方言っていいよ」
「じゃあ本当のほうで!!」
食い気味で言われて、愛されてる実感にオレはまた笑った。だけど、続けて言われた言葉に冷水を浴びせられた気持ちになる。
「……でも、恭介さんが好きなのって有坂さんじゃないんですか?」
そんな気持ちはすっかり忘れていた。というか、たった一晩で湊に上書きされてしまった。
自分でも驚くくらいの気持ちの変わりようなので、湊が信じられないのも仕方がないことなのかもしれないけれど。
しかし、当人である有坂さえ気づいていなかった気持ちを湊が知っているというのは、なんとも言えない気分だ。
確かに店の常連客の一部はオレの気持ちに気づいていたようだし、湊も常連客の一人ではあるのだけれど。そして、何故か湊はオレの気持ちがそこで止まっていると思っているようだ。
昨日、あんなに湊に愛を囁いたのに……
だけど、もし湊に昨日の記憶がないのだとしたら? オレの気持ちはどこまで伝わっていたのだろうかと、ふと湧いた疑問に不安になる。
「昨日のこと、どこまで覚えてる?」
「え……えーっと。ホテルに行ってプレイして貰って……」
ちょっと酔っているとは言ってたけれど、流石に最初からそこまで酔っていたわけではなかったようだ。
「……昨日、最後のCommandは何だった?」
「LickのCommandをもらって、名前を呼んでもらったところまではなんとか」
「そっか……」
それなら、サブスペースに入っている間の記憶が全てないのか。
ということは。湊の記憶では、店からホテルまで移動して、ComeとKneelとLickのCommandでプレイをして……
……え、それだけか?
そして、オレは目覚めた湊にKissのCommandを出して、セックスしたいって言ったことになるわけで。
湊と両想いだと浮かれていたオレは全く気付いていなかったけれど、これだと湊からすれば告白もなしにセックスさせろと言われたことになる。しかも、欲に任せてあんな無茶な抱き方をして……これって、どう考えてもすげぇダメなやつでは?
どうしたものかと考え込んでいると、滅茶苦茶不安そうな顔で湊がオレを見ていた。
「……昨日、オレが湊に使った最後のCommandは"Say"だよ」
湊に誤解されたままでいいわけがない。オレは観念して、昨日の出来事を全て湊に話すことにした。
「オレはサブスペースに入ってる湊に『好きな人は誰?』って聞いたんだ」
「えっ……!?」
オレが使ったCommandの内容を理解したようで、不安そうだった湊の顔がみるみると赤く染まっていく。
「正常な判断ができないときに、そんなCommand使ってごめん……」
「……え、え、えええええええ!? 僕、そのCommandで恭介さんに何を喋ったんですかぁあああっ……!?」
「すっげー好きって、いっぱい言われた」
「うわああぁぁあ、あれは夢じゃなかったのかああぁぁああああ!!」
悶えまくってる湊が可愛い。
昨日の記憶は完全にないというわけではなさそうだ。オレは少しだけ胸を撫で下ろした。
オレが朝から見境なく盛ってしまったせいで、目覚めたときに湊のお腹は空腹を主張していた。
考えてみれば、昨日の夜から湊は何も食べていない。可哀想なことをことをしてしまった。
慌てて冷蔵庫の中の有り合わせでキノコとベーコンのクリームリゾットを作った。気に入ってもらえるといいのだけれど。
湊は猫舌らしく、スプーンに乗せたクリームリゾットを口に入れる前にふぅふぅと息を吹きかけていた。
パクリと一口食べると満面の笑みが浮かんだのを見て、オレの口許も思わず緩んだ。どうやらお気に召してもらえたようだ。
今日は湊は一日フリーなのに、オレのほうがあと一時間……どんなに粘っても二時間以内には出勤しなければならないのが残念だ。今からでも有給取れないかな……取れないよな。体調不良でしか使うことのない有給はまだまだ沢山あるのだけれど、急に休めば誰かに迷惑が掛かってしまう。それは本意ではない。
自分の立場が恨めしい。湊は会社員らしいので、土日祝が休みのようだ。もっと湊と一緒に居られるような仕事に転職しようかと、リゾットを食べている湊を見ながら、オレは本気で脳内検討をし始めていた。
「……そういえば、恭介さんはなんで僕を抱いてくれたんですか?」
リゾットを食べ終わったときに、湊に言われて面食らった。
「もしかして、昨日の夜の記憶って……ない?」
「えっ、あっ……っ!! いやっ、あのっ、その……」
サブスペースに入ったときの記憶は薄れやすいとは知っていたけれど……アルコールもそれなりに入っていたので、もしかしたら湊は昨日のことは忘れてしまっているのかもしれない。
その可能性を失念していた自分に苦笑した。だけど慌てた湊が可愛いくて、つい悪戯心を起こしてしまった。
「オレと恋人になったっていうのは覚えてない?」
「えっ、嘘!?」
「嘘だと思う? 本当だと思う? 好きな方言っていいよ」
「じゃあ本当のほうで!!」
食い気味で言われて、愛されてる実感にオレはまた笑った。だけど、続けて言われた言葉に冷水を浴びせられた気持ちになる。
「……でも、恭介さんが好きなのって有坂さんじゃないんですか?」
そんな気持ちはすっかり忘れていた。というか、たった一晩で湊に上書きされてしまった。
自分でも驚くくらいの気持ちの変わりようなので、湊が信じられないのも仕方がないことなのかもしれないけれど。
しかし、当人である有坂さえ気づいていなかった気持ちを湊が知っているというのは、なんとも言えない気分だ。
確かに店の常連客の一部はオレの気持ちに気づいていたようだし、湊も常連客の一人ではあるのだけれど。そして、何故か湊はオレの気持ちがそこで止まっていると思っているようだ。
昨日、あんなに湊に愛を囁いたのに……
だけど、もし湊に昨日の記憶がないのだとしたら? オレの気持ちはどこまで伝わっていたのだろうかと、ふと湧いた疑問に不安になる。
「昨日のこと、どこまで覚えてる?」
「え……えーっと。ホテルに行ってプレイして貰って……」
ちょっと酔っているとは言ってたけれど、流石に最初からそこまで酔っていたわけではなかったようだ。
「……昨日、最後のCommandは何だった?」
「LickのCommandをもらって、名前を呼んでもらったところまではなんとか」
「そっか……」
それなら、サブスペースに入っている間の記憶が全てないのか。
ということは。湊の記憶では、店からホテルまで移動して、ComeとKneelとLickのCommandでプレイをして……
……え、それだけか?
そして、オレは目覚めた湊にKissのCommandを出して、セックスしたいって言ったことになるわけで。
湊と両想いだと浮かれていたオレは全く気付いていなかったけれど、これだと湊からすれば告白もなしにセックスさせろと言われたことになる。しかも、欲に任せてあんな無茶な抱き方をして……これって、どう考えてもすげぇダメなやつでは?
どうしたものかと考え込んでいると、滅茶苦茶不安そうな顔で湊がオレを見ていた。
「……昨日、オレが湊に使った最後のCommandは"Say"だよ」
湊に誤解されたままでいいわけがない。オレは観念して、昨日の出来事を全て湊に話すことにした。
「オレはサブスペースに入ってる湊に『好きな人は誰?』って聞いたんだ」
「えっ……!?」
オレが使ったCommandの内容を理解したようで、不安そうだった湊の顔がみるみると赤く染まっていく。
「正常な判断ができないときに、そんなCommand使ってごめん……」
「……え、え、えええええええ!? 僕、そのCommandで恭介さんに何を喋ったんですかぁあああっ……!?」
「すっげー好きって、いっぱい言われた」
「うわああぁぁあ、あれは夢じゃなかったのかああぁぁああああ!!」
悶えまくってる湊が可愛い。
昨日の記憶は完全にないというわけではなさそうだ。オレは少しだけ胸を撫で下ろした。
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