いつか、愛に跪くまで

夏芽玉

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後日談2 トラウマ

【4】塩対応で可愛い

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 久我の真剣な表情に、オレは溜息をついた。

「……だって、久我は何やっても怒らねーから……」
「え、なんか怒らせたかったんですか?」

 恋は盲目、痘痕も靨。そんな言葉が頭に浮かんだ。

「ダメなことしたときは怒っていーぞ……ていうか、本当は……お仕置きしてほしい……」

 オレは、消え入りそうな声でなんとか伝えた。
 
「も、もしかして、最近唯織さんが塩対応で可愛くなってたのは、実はお仕置きして欲しくてわざとやってたんですか……!?」

 最近、子供じみたことをやっていた自覚はある。天邪鬼な言動をしてみたり、態と待ち合わせに遅刻してみたり。
 ただ、わざと怒らせようとして取った言動は、全て不発になっていたのだ。何やっても、久我には喜ばれてしまったから。

「わ、悪かったなっ……ていうか、塩対応で可愛いって何だっ!?」

 どうやら、久我がオレを見る目に変なフィルターが掛かっているようだ。

「なんか最近、様子が変だなーと思ってましたが、気を引きたいのか、愛情の試し行動かと思ってました」
「うぐっ……」

 お仕置きをされたくてやっていた行動だったけれど、行動心理としては半分くらい当たってるかもしれないと気付き、何も言い返せない。ていうか、気づいてたら何か反応しろよ。

「大学で、薬学だけじゃなくて心理学も少しは学んでますからね。そんなにオレのこと好きなのか、嬉しいなって」

 ほんわかと頬を緩める久我が、本心から言っているのがわかる。そして、オレのとったそんな行動すら久我を喜ばせていただけだったのかと脱力する。
 さらに言えば喜んでる相手がオレにお仕置きなんて、するはずもない。

「でも、唯織さんは本当はお仕置きしてほしかったんですね。全然気づかなくてごめんなさい」
「……別に。ていうか、オレに嫌なことをされたら久我は怒っていいんだぞ……?」
「Subのお仕置きされたいっていう気持ちは、Domを信頼してくれてる証拠みたいなものなんですよ。お仕置きプレイってのは、DomとSubの愛情を確かめ合ってさらに深める行為でもあるんです。だから、唯織さんがそう思ってくれたのが嬉しくて仕方ないんです。……でも、嬉しがってばっかりじゃダメですよね」
「……久我も、お仕置きしたり、オレを苛めたいとか思ってたのか?」
「そうですね、オレの場合はDom性の欲求としては庇護欲が一番強いんですけれど。それでも支配欲とか嗜虐欲とかは、勿論オレにもそれなりにはあります。ただ今は唯織さんを甘やかすのに忙しすぎて、それは追々でいいかなって思ってたんですけれど……唯織さんが求めてくれるなら、オレも全力で応えたいです」

 久我が手を伸ばしてきて、オレは胸に抱き寄せられた。

「唯織さん、伝えてくれてありがとうございます。大好きですよ」

 啄むようなキスをいくつも顔中に落としてくれる。触れられた部分から、じんわりと久我の温かさが伝わってくる。

「次会うときは、お仕置きプレイしましょうか。……でも、お仕置きって言っても、難しいですよね……オレは唯織さんになら何されても嬉しいし、急にやったらうっかり唯織さんのトラウマ刺激しちゃうかもしれないし……」

 悩み始めた久我に向かってオレは口を開く。

「久我になら、どんなお仕置きされても大丈夫……だと思う……」

 根拠はないけれど、肌に広がっていく相手の体温に、久我にされることだったらなんでも大丈夫なんじゃないかという気がした。

「それじゃあ、ちょっとずつ慣れていくところからスタートしましょう。お仕置きの内容は、オーソドックスにお尻ペンペンとかどうです? 怖いですか?」
「……問題ないと思う」
「あ、そうだ! それなら、唯織さんが待ち合わせのとき、遅刻1分ごとにお尻ペンペン1回っていうのはどうですか? 5分遅刻なら5回、10分なら10回です。それなら唯織さんが回数コントロールできますし……最近、待ち合わせにはわざと遅刻してきていましたよね?」

 わざとってところまでバレてたのに、出会ったときにこいつはあんなに嬉しそうな顔でオレのこと迎え入れてくれたのか。

「それで、いい」
「次会えるときのこと、楽しみにしていますね」

 オレは久我の背中に腕を回して抱きついたまま目を閉じた。


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