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12話 生誕祭
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結局、身体の疼きは翌日には収まったのだけど、その直後に僕は高熱を出した。その結果、一週間ほど寝込んでしまった。
僕が離れで過ごしている間に、帝国から帰ってきた父上が国王からの書状を受け取ったらしく、婚約破棄のことを滅茶苦茶怒っていたらしい。
鬼の形相ですぐにでも王城に怒鳴り込もうとしていた父上とその援護をしようとする兄上のことを、なんとか母上が止めてくれたそうだ。
その後、手順を踏んで色々な交渉材料を持って正式に抗議しに行ったけれど、アシュリーとの婚約破棄の件は覆らなかった。
……ということを、僕はテオから聞いた。
テオには、あの場所に連れて行ったことをものすごく謝られた。
あれはタイミングが……いや、完全にあの男が悪かったので、テオだけのせいではないと思う。
だけど、従者があんな失態をしでかしたら即クビになってもおかしくない。それなのに、テオはまだ僕の従者を続けてくれるようだ。
今までの功績が認められたのか、それとも僕の知らないところで何かが起こっているのか……
色々考えなければならないことは多かったけれど、僕の中では何も解決しないまま、日にちだけが過ぎてしまった。
そして、ついに国王の生誕祭がやってきた。
今までは、僕は王家の準一員として、アシュリーと手を繋いで最後のほうで会場に入っていた。でも、今日は他の貴族達と一緒に、大広間で王族の到着を待っている。
貴族たちの間では、僕が婚約破棄されたことがひそひそ話で噂されていた。正直に言って、ものすごく居心地が悪い。
しかも、噂話にはあることないことが色々付け加わっている。
誰だよ、そんなデマを流してるのは!!
なにがあったのか、一人ずつに説明したいところだけれど、王家の事情を勝手に僕がペラペラと話すわけにはいかない。
こうなることがわかっていたから、「今日は、仮病を使って欠席してもいい」とは父上には言われていた。でも、アシュリーと話ができる機会はこんな日くらいしかないと思って、僕は生誕祭のパーティーに参加した。さすがに、この日のために用意した婚約者仕様の装飾品……アシュリーの目の色の宝石に、髪の色の装飾が施されたブローチは別のものに取り替えたけれど。
「やぁ、ユリエル殿。ごきげんよう」
後ろから声を掛けられて、僕は振り返った。
目の前にはぽっちゃりとした、僕と同じくらいの年齢の青年が居た。
彼とは初対面だったはずだ。
誰だよ、と突っ込みを入れたいところだけれど、国内貴族の情報はバッチリ頭に入っている。
「ハリー・ケンプ殿……こんばんは」
彼は男爵家の長男だ。
ケンプ家は最近始めた事業が大成功を収め、その成果が認められて、貴族の爵位が与えられた。
そんなことから、成金貴族なんて呼ばれたりもしているらしい。
実際会うのは初めてだけど……
僕は彼の格好を見た。
ライトブラウンの髪を後ろになでつけ、指には大きな宝石が付いた指輪を嵌めている。
真っ青な生地にプラチナブロンドの刺繡がこれでもかと施されたジャケットはサイズがあっていないのか、今にもボタンが弾け飛びそうだ。
うーん、今の流行りでもなければ、服を着こなしているようにも見えない。
しかも、彼がまとっているのはまさしく、アシュリーの目と髪の色を組み合わせた衣装だ。
本来なら、この会場でその組み合わせの色を纏えるのは婚約者の僕だけのはずなんだけど、まだ貴族の仲間入りをしたばかりなので、知らない作法も多いのだろう。
そのうち、彼もこういった場に慣れていってくれればいいんだけど……
彼は手にしたグラスに入ったワインを一気飲みした後、ぷはーっと息を吐いた。
よく見ると、色白の頬はほのかに赤くなり、目は潤んでいる。まだパーティーは始まってすらいないというのに、すでに酔いが回っているらしい。
……彼には、マナー等、貴族として身につけなければならない課題は多そうだ。
「聞きましたよっ! アシュリー様に婚約破棄されたそうですね!」
彼の言葉に僕はギョッとした。
会場内のお喋りが止まって、全貴族の意識がこちらに向いたのが分かる。
すでに噂として知れ渡っていることだけれど、王家からの発表があるまでは、この場では知らないふりをしておくのが暗黙の了解だ。
だから、今日は誰一人僕に話しかけてこないというのに……
「でも、そんなに気を落とさなくても大丈夫ですよ!」
周りの反応なんて構うことなく、ハリーは大声で続ける。
僕は顔が引きつりそうになるのを必死にこらえた。
「これからは、僕がアシュリー様を支えてあげるから、あとのことはぜーんぶ僕に任せておいてくださいね」
「えっと……」
もしかして、その格好は「今日から自分がアシュリーの婚約者である」という自己主張のつもりなんだろうか……
いや、ない。それはない、絶対にない。
今まで、彼とアシュリーが一緒に居るところを見たことはないし、彼では家柄が釣り合わない。
一応、これでも僕は公爵家の次男で、父はこの国の宰相をしている。
だから、僕は小さい頃からアシュリーと仲良しだったし、父上も国王とは学生時代からの親しい仲なのだ。
どこからツッコミを入れればいいものかと、頭を抑えた瞬間、ファンファーレが鳴り響いた。
会場の扉が開き、王家の人々が順番に入場してくる。
当然、アシュリーも会場内に入ってきた。アシュリーは僕に気付くと、気まずそうな顔をして視線を逸らした。だけど、僕の視線はアシュリーの後ろの人物で止まった。
なんであいつがここに居るんだ……!?
僕が離れで過ごしている間に、帝国から帰ってきた父上が国王からの書状を受け取ったらしく、婚約破棄のことを滅茶苦茶怒っていたらしい。
鬼の形相ですぐにでも王城に怒鳴り込もうとしていた父上とその援護をしようとする兄上のことを、なんとか母上が止めてくれたそうだ。
その後、手順を踏んで色々な交渉材料を持って正式に抗議しに行ったけれど、アシュリーとの婚約破棄の件は覆らなかった。
……ということを、僕はテオから聞いた。
テオには、あの場所に連れて行ったことをものすごく謝られた。
あれはタイミングが……いや、完全にあの男が悪かったので、テオだけのせいではないと思う。
だけど、従者があんな失態をしでかしたら即クビになってもおかしくない。それなのに、テオはまだ僕の従者を続けてくれるようだ。
今までの功績が認められたのか、それとも僕の知らないところで何かが起こっているのか……
色々考えなければならないことは多かったけれど、僕の中では何も解決しないまま、日にちだけが過ぎてしまった。
そして、ついに国王の生誕祭がやってきた。
今までは、僕は王家の準一員として、アシュリーと手を繋いで最後のほうで会場に入っていた。でも、今日は他の貴族達と一緒に、大広間で王族の到着を待っている。
貴族たちの間では、僕が婚約破棄されたことがひそひそ話で噂されていた。正直に言って、ものすごく居心地が悪い。
しかも、噂話にはあることないことが色々付け加わっている。
誰だよ、そんなデマを流してるのは!!
なにがあったのか、一人ずつに説明したいところだけれど、王家の事情を勝手に僕がペラペラと話すわけにはいかない。
こうなることがわかっていたから、「今日は、仮病を使って欠席してもいい」とは父上には言われていた。でも、アシュリーと話ができる機会はこんな日くらいしかないと思って、僕は生誕祭のパーティーに参加した。さすがに、この日のために用意した婚約者仕様の装飾品……アシュリーの目の色の宝石に、髪の色の装飾が施されたブローチは別のものに取り替えたけれど。
「やぁ、ユリエル殿。ごきげんよう」
後ろから声を掛けられて、僕は振り返った。
目の前にはぽっちゃりとした、僕と同じくらいの年齢の青年が居た。
彼とは初対面だったはずだ。
誰だよ、と突っ込みを入れたいところだけれど、国内貴族の情報はバッチリ頭に入っている。
「ハリー・ケンプ殿……こんばんは」
彼は男爵家の長男だ。
ケンプ家は最近始めた事業が大成功を収め、その成果が認められて、貴族の爵位が与えられた。
そんなことから、成金貴族なんて呼ばれたりもしているらしい。
実際会うのは初めてだけど……
僕は彼の格好を見た。
ライトブラウンの髪を後ろになでつけ、指には大きな宝石が付いた指輪を嵌めている。
真っ青な生地にプラチナブロンドの刺繡がこれでもかと施されたジャケットはサイズがあっていないのか、今にもボタンが弾け飛びそうだ。
うーん、今の流行りでもなければ、服を着こなしているようにも見えない。
しかも、彼がまとっているのはまさしく、アシュリーの目と髪の色を組み合わせた衣装だ。
本来なら、この会場でその組み合わせの色を纏えるのは婚約者の僕だけのはずなんだけど、まだ貴族の仲間入りをしたばかりなので、知らない作法も多いのだろう。
そのうち、彼もこういった場に慣れていってくれればいいんだけど……
彼は手にしたグラスに入ったワインを一気飲みした後、ぷはーっと息を吐いた。
よく見ると、色白の頬はほのかに赤くなり、目は潤んでいる。まだパーティーは始まってすらいないというのに、すでに酔いが回っているらしい。
……彼には、マナー等、貴族として身につけなければならない課題は多そうだ。
「聞きましたよっ! アシュリー様に婚約破棄されたそうですね!」
彼の言葉に僕はギョッとした。
会場内のお喋りが止まって、全貴族の意識がこちらに向いたのが分かる。
すでに噂として知れ渡っていることだけれど、王家からの発表があるまでは、この場では知らないふりをしておくのが暗黙の了解だ。
だから、今日は誰一人僕に話しかけてこないというのに……
「でも、そんなに気を落とさなくても大丈夫ですよ!」
周りの反応なんて構うことなく、ハリーは大声で続ける。
僕は顔が引きつりそうになるのを必死にこらえた。
「これからは、僕がアシュリー様を支えてあげるから、あとのことはぜーんぶ僕に任せておいてくださいね」
「えっと……」
もしかして、その格好は「今日から自分がアシュリーの婚約者である」という自己主張のつもりなんだろうか……
いや、ない。それはない、絶対にない。
今まで、彼とアシュリーが一緒に居るところを見たことはないし、彼では家柄が釣り合わない。
一応、これでも僕は公爵家の次男で、父はこの国の宰相をしている。
だから、僕は小さい頃からアシュリーと仲良しだったし、父上も国王とは学生時代からの親しい仲なのだ。
どこからツッコミを入れればいいものかと、頭を抑えた瞬間、ファンファーレが鳴り響いた。
会場の扉が開き、王家の人々が順番に入場してくる。
当然、アシュリーも会場内に入ってきた。アシュリーは僕に気付くと、気まずそうな顔をして視線を逸らした。だけど、僕の視線はアシュリーの後ろの人物で止まった。
なんであいつがここに居るんだ……!?
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