捨てられオメガは純情ビッチ~王太子に婚約破棄されたら隣国の騎士団長に溺愛されるなんて聞いてませんが?~

夏芽玉

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13話 隣国の騎士

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 娼館で出会ったあの男が、騎士服を着てアシュリーの後ろを歩いている。
 いや、正確に言うと、アシュリーのお姉さんであるアンナ様をエスコートしているんだ。

 アンナ様は帝国の第五皇子に嫁いでいる。
 だけど、彼はアンナ様の配偶者ではない。結婚式には僕もアシュリーと参加したから第五皇子の顔は知っているし、そもそも雰囲気が全然違う。唯一の共通点と言えば、癖のある黒髪くらいだろうか。
 主要な国内貴族の顔と名前はだいたい知っているのに、彼のことは見覚えがないと思ったら、帝国人だったのか!
 
 帝国の騎士服を着ているので、護衛のためにアンナ様と一緒に帝国からやってきたんだろう。
 アンナ様が定位置に着いたらエスコートの役目は終わったようで、少し離れた場所に移動していた。


 壇上で国王は挨拶をした後、最近の国内の様子や、普段の国政への協力の感謝などの口上を述べる。
 
 国王が話をしている間、僕は彼のことを食い入るように見ていたらしい。
 こちらを向いた彼とバッチリ目が合ってしまった。
 ニッと唇の端が上がったので、僕の存在を認識したんだろう。

 僕は慌てて視線を逸らした。
 そしたら、会場の端の方でゴソゴソとしている人物が居ることに気付いた。
 ジョン先生……今まで僕に閨教育をしてくれていた講師だ。
 僕がアシュリーの婚約者ではなくなってしまったら、もう王城には用事はないはずなのに、いったいなんでこんなところに……?
 
「────そして、アシュリーだが、このたび婚約を解消することとなった。今まで長きに渡ってアシュリーを支えてくれたユリエルには礼を言おう」

 考え事をしていたら、突然、名前を呼ばれた。
 僕は一瞬キョトンとしたけれど、すぐに胸に手を当てて礼をする。
 国王のお話を全然聞いていなかっただなんてことは悟られてはいけない。

 実際は婚約破棄だったけれど、僕たちの婚約は円満解消だったということのアピールだなと僕は思った。
 今回の件で、僕だけじゃなくアシュリーも婚約者を失ったことになるので、次の婚活がスムーズになるようにという配慮だろう。
 
 会場内は少しざわついたけれど、そのざわめきは、国王の誕生日を祝い、今後の王国の発展を祈願するための乾杯にかき消された。


 


「ユリエル殿は、もう次の相手を見つけたんですね」

 乾杯の直後、ハリーに喋りかけられて、僕は眉を顰めた。

 まだ居たんだ……

「……なんのことかな?」
 
 僕はアシュリーと話ができるタイミングを見つけなければならないから、正直、ハリーにはあんまり構っていたくないんだけど。

「またまた、とぼけちゃって。あの人が、ユリエル殿の新しい恋人なんでしょう?」
「は?」

 アシュリーのことを考えていたのに、不意打ちで妙なことを言われて、思わず素の声が出てしまった。
 
「とぼけなくてもいいですよ。この前、ユリエル殿が黒髪の男性と一緒に娼館から出てきたって聞いたんですけれど、あの人だったんですねー」
「なん、のことだ……」

 あの日、娼館に行ったのを誰かに見られていた……!?
 背中を、嫌な汗が流れていく。
 
「いやー、うちの執事が、たまたま娼館で見かけたって言っていましたよ!」

 ケンプ家の執事なんて、あの場に居たか!?
 あの日、あの場に居たのは、僕とあの男とテオと娼館の主人だけだったはずだ。
 でもそんなことを言ったら、僕が娼館に行ったことを認めてしまうことになる。
 
 っていうか、執事がなんであんな時間にそんな場所に行く用事があるんだよ!?
 絶対、あの場には居なかったよな!?
  
「いつから二人は付き合っていたんですか? もしかして、真実の愛に目覚めちゃったとか!? それで婚約破棄になったんですか?」
「おい、ちょっと……」
 
 酔っているハリーは、大きな声で自論を展開していく。
 その内容を聞いて、僕たちのやり取りを遠巻きに見ていた貴族たちがざわめき始めた。

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